第9話 内なる火

「……っ!?」

​鋭い風の鳴動。アークが反応するよりも早く、カインの攻撃がその喉元をかすめた。

魔法による予兆がない。ただの筋力、ただの踏み込み。アークが今まで戦ってきた魔族たちの「魔力に頼った動き」とは、根本から次元が違っていた。

​「どうした。魔力を喰らわなければ、反応すらできないのか?」

​カインの追撃が、雨のようにアークを襲う。

右肩、脇腹、太腿。鋭い刺突がアークの皮膚を正確に切り裂いていく。吸い込むべき魔力が周囲に存在しないこの戦場では、アークの右腕はただの「重い肉の塊」に過ぎなかった。

​「が、はっ……!」

​砂を噛み、アークは地面を転がった。

観客席からは、昨日とは打って変わった冷ややかな沈黙が流れている。

​(クソっ、見えない……! 全然、追いつけない……!)

​視界が血で滲む。

​(……父さんなら、母さんなら……どうしたんだろう?)

​アークは震える手で、地面の砂を握りしめた。

今まで、魔法を喰らうことでしか「力」を感じられなかった。だが、魔界で生きるには「外側」の力だけじゃ不可能だ。

​(そうか。魔力を吸い込むこの体は、ただの『穴』じゃない……!)

​アークは気づいた。

シオンに教わった『循環』。それは吸い込んだ魔力を回すだけの技術ではない。

自分の内側にある熱、鼓動、血液――それらすべてを「魔力」と同じように、あるいはそれ以上に高密度で制御するための回路なのだ。

​「……終わりだ、アーク・ヴァロー」

​カインが最後の一撃を放つべく、最短距離で踏み込む。

その瞬間、アークは目を閉じた。

​ドクン。

​心臓の音が、耳元で爆発したように響く。

アークは外の魔力を求めるのを止め、自分の体内に残る、バルドから吸い取った「残り魔力」と、自分自身の「生命力」を強引に混ぜ合わせた。

​「――回れッ!!」

​アークの全身が、今までのような青白い光ではなく、鈍い黄金色の輝きを一瞬放った。

カインのレイピアが、アークの首筋に届く直前。

​ガギィィィィィィンッ!!

​金属音が響き渡る。

アークは、素手でカインの剣を弾き飛ばしていた。

​「な……っ!?」

​カインの瞳に初めて驚愕が走る。

魔力を使わぬ自分の超高速の刺突を、素手で捌くなどあり得ない。

​「……吸い込むものがなきゃ、自分の中にあるものを燃やすだけだ」

​アークが顔を上げる。その瞳には、かつて父カイが宿していた不屈の意志が宿っていた。

アークの体から立ち上る熱気が、闘技場の空気を歪ませる。

​(見てるか、魔導卿。……僕は、このままじゃ終われない!)

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