第6話 フードの男
学園長室での審問から数日。
アークは旧校舎の裏手にある荒れ地で、一人拳を突き出していた。
「……くそっ、やっぱり上手くいかない」
ゼファーに言われた「魔力を外に叩きつける」感覚。だが、意識的にやろうとすればするほど、体内の熱は出口を失い、アークの筋肉を内側から焼き苛む。右腕はどす黒く充血し、立っているのもやっとの状態だった。
「……力みすぎだ。それでは出口を作る前に、お前自身が壊れるぞ」
不意に、頭上から静かな声が降ってきた。
アークが顔を上げると、旧校舎の朽ちた屋根の縁に、一人の男が座っていた。
深いフードで顔を隠し、漆黒の外套を纏った男。アークは、この男が数日前に学園長室の隅にいたあの「付き人らしき魔族」だとは気づいていない。
「……誰だ、あんた。ここは旧校舎の敷地だ。勝手に入ると、ゼファー先生に怒られるぞ」
男は答えず、音もなく地面に降り立った。
彼が歩くだけで、周囲の重苦しい瘴気が、まるで見えない壁に阻まれるように霧散していく。
「お前のその体……『絶魔の性質』は、ただ魔力を消し去るためのものではないはずだ」
男はアークの目の前に立ち、その右腕を躊躇なく掴んだ。
「……っ、危ない! 触ると魔力を吸い込んじまう!」
「構わん。……落ち着け。意識を一点に固めるな」
男の手は驚くほど力強く、そして温かかった。その瞬間、アークの腕を焼いていた激痛が、嘘のように引いていく。男がアークの暴走する魔力を、圧倒的な技術でなだめ、抑え込んだのだ。
「……あんた、何をしたんだ? 先生ですら、触れるのは危ないって言ってたのに」
「魔力は、ただの燃料だ。お前はそれを無理に押し出そうとしているが、そうではない。……取り込んだ熱を、お前自身の『血液』の一部として循環させてみろ」
「血液……? 循環……?」
「お前には魔力を溜める器がない。ならば、体中の血管、細胞の一つ一つを一時的な器にしろ。……やってみろ。私が導いてやる」
男の瞳、フードの奥に隠された右目が、微かに青く発光した。
男は手を介して、アークの脳内に直接「力の巡り」をイメージとして流し込む。
(……通り道が、見える……!)
アークは男の誘導に従い、体内で暴れるエネルギーを、一点に固めるのではなく全身へと巡らせた。
すると、熱は心地よい脈動へと変わり、アークの全身に静かな、だが凝縮された「重み」が宿った。
「……できた。今までとは全然違う。体が、軽い……」
「忘れるな、アーク。お前の力は欠陥ではない。この世界の理(ことわり)を塗り替えるための、唯一の鍵だ」
男は手を離し、再び影に溶け込むように数歩下がった。
「……あんた、一体何者なんだ? どうして僕を助ける?」
「……さあな。ただ、少し昔の友人に似ていただけだ」
男の口元に、一瞬だけ寂しげな微笑が浮かんだ。
彼が身を翻した瞬間、風が吹き抜け、アークが瞬きをした時には、もうその姿はどこにもなかった。
残されたのは、自分の内側で静かに、力強く流れる未知の熱量。
「……昔の友人……?」
アークは自分の右拳を見つめた。
あの男の言葉だけは、なぜかずっと前から知っていたような、不思議な懐かしさを伴って胸に響いていた。
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