第4話 解放

「がはっ……、ぁ……っ!」

​旧校舎の冷たい石床に、アークは叩きつけられた。

視界が真っ赤に染まっている。皮膚の下を、熱い泥のような魔力が暴れ回り、血管が破裂しそうなほど脈打っている。

​「……いつまで寝てんだ。そのままじゃマジで死ぬぞ。さっさと吐き出せ」

​ゼファーはソファに深く腰掛け、面倒そうに酒瓶を向けた。

​「吐き出す、って……どうやって……っ!」

​「お前の中には魔力を貯める器がない、あるのは、底なしの『穴』だ。入り口があるなら、出口も作れるはずだろ。指の先でも、毛穴からでもいい。意識を外に向けろ。お前の内側を焼き切ろうとしてるその『異物』を、全部外に叩きつけろ」

​ゼファーの言葉は、指導というよりただの突き放しだった。

アークは歯を食いしばり、右腕に意識を集中させる。

(外へ……。内側の熱を、全部……!)

​その瞬間。

「――ああああああッ!!」

​アークの叫びと共に、右拳から青白い魔力の奔流が爆発した。

それは魔法のような洗練されたものではなく、ただの「純粋なエネルギーの暴発」だった。

​ドォォォォンッ!

​旧校舎の分厚い石壁が、粉々に砕け散った。

衝撃波で窓ガラスがすべて割れ、静かだった旧校舎周辺に轟音が響き渡る。

​「……ぜぇ、ぜぇ……」

​アークは膝をつき、激しく肩で息をした。

肌の充血が引き、ようやく呼吸が整う。

​「……ハッ。掃除の手間を増やしやがって。だが、ま……合格だ。お前の『穴』は、ただ吸い込むだけじゃねぇ。吸ったもんを、加工せずにそのままブチまける『通路』にもなるってわけだ」

​ゼファーは砕けた壁を眺めながら、面白そうに目を細めた。


​午後の授業。旧校舎のボロい教室に、アークやキース、リナといった「落ちこぼれ」たちが集まっていた。

教壇に立つゼファーは、黒板に七つの紋章を乱暴に描き殴った。

​「いいか、小僧ども。この魔界を統べるのは魔導王ソル・バルバトスと、その実弟、魔導卿セル・バルバトス……。だが、実際にこの広大な魔界を『支配』しているのは、王の配下にある最強の七人――『七魔人(しちまじん)』だ」

​ゼファーの言葉に、教室の空気が引き締まった。

​「光の王ソルから直接、魔界の七つの領地を任された化け物どもだ。一人が一国の軍隊に匹敵する力を持ち、王の絶対的権威を代行する。……お前らがどんなに足掻こうが、あの塔を登るなら、遅かれ早かれこいつらの誰かとぶつかることになる」

​アークは、黒板に描かれた不気味な紋章を見つめた。

​「……先生。先生は、その七魔人のことを知ってるの?」

​「……さあな。昔、ちょっとした知り合いがいたくらいだ」

​ゼファーは酒瓶を煽り、視線を逸らした。

その時、教室の扉が激しく開かれた。

​「――ゼファー先生! 学園長が、アーク・ヴァローを直ちに連れてくるようにと!」

​現れたのは、風紀を司るエリート魔族の生徒たちだった。

朝の「暴走」が、早くも問題視されたのだ。

​アークは立ち上がり、自分の右拳を見つめた。

魔法を喰らい、それを力に変える。その異質な力の代償は、予想以上に重く、険しい。

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