第2話「公式に呼ばれた結果、工業高校になりました」

「……おはようございます、神狼零です」


次の配信枠。

開始30秒で、コメント欄はすでに様子がおかしかった。


【切り忘れの人だ】

【工業高校の星】

【旋盤ニキ】


「誰が旋盤ニキだ」


軽くツッコんだ瞬間、待ってましたとばかりにコラボ通知が鳴る。


「零くーん? 昨日はいい“雑談”ありがとうね?」


同期の女子Vtuber、星宮ルナの声が割り込む。


「ちょ、ルナ!? いきなり入ってくんな!」

「え? だってさぁ、 “工業高校って油臭いし~”って名言、聞いちゃったから?」


【同期見てたwww】

【逃げ場なし】

【社内共有済み確定】


「見てたのかよ……」

「見てたし、切り抜きも回ってたよ?今うちの同期グループで一番バズってるの、零くんだから」

「不名誉すぎるだろ!!」


そこへさらに通話が追加される。


「いや~、あれは芸術点高かったな」


同期の男Vtuber、黒崎ジン。


「お前まで来るな!」

「だってさ、『俺、何がダメなんだ……』あのトーン、完全に深夜ラジオだったぞ?」


【ジンさん煽り助かる】

【公式いじり枠】

【企業Vtuberの闇(油)】


「笑い事じゃねぇんだよ……」


その時、零のデスク横に置かれたスマホが震えた。

表示されたのは――マネージャーの名前。


「……あ」

「零くん?」

「零?」


コメント欄が察する。


【来た】

【呼び出し】

【会社会議室エンド】


数時間後。

オンライン会議室。


「えー、神狼零くん」


画面の向こうで、マネージャーが咳払いをする。


「昨日の配信事故ですが……」

「すみませんでした!!」


即座に頭を下げる零。


「怒られる……終わった……」

「いえ、違います」

「……?」

「伸びてます」

「はい?」


画面共有されるグラフ。

登録者数、再生数、切り抜き本数――全部、右肩上がり。


「現在、“工業高校Vtuber”として認知が広がっています」

「いや、勝手に属性付けないでください」

「そこで、会社として決定しました」


マネージャーは真顔で言った。


「今後、神狼零くんは“工業高校Vtuber”として活動してもらいます」

「公式なんですかそれ!?」

「はい」

「撤回権は!?」

「ありません」


【公式設定生えたwww】

【工業高校、企業公認】

【旋盤ニキ、公式化】


「実習トーク、工具雑談、工業あるある――とても差別化できています」

「差別化の方向性がおかしい!!」

「では、次回配信の企画案です」


画面に映る文字。


・工業高校生の一日

・実習後テンション雑談

・工具の名前、何個言える?


「もう戻れねぇ……」


マネージャーは少し笑った。


「でも、零くん。昨日の配信、楽しそうでしたよ」


零は一瞬黙り、そして小さく息を吐いた。


「……まあ、嫌いじゃないですけど」


【照れてる】

【それでいい】

【工業高校Vtuber、応援するわ】


こうして神狼零は、

配信事故をきっかけに、唯一無二の路線を公式に背負うことになった。

油の匂いと機械音と、ちょっとの本音を武器にして。

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