第11話 杖の謎と、三人の思い

「おーい、二人とも起きてー。朝だよー。」


太陽が半分見えた時間、目的地に到着するにはそろそろ起きて貰わないと。


球体は相変わらず私の右肩で静かに浮かんでいた。


「んー。おはよう。」

エタルナはテントから這い出るとグッと背伸びをした。


シルバーのショートヘアは所々、寝ぐせがついている。


「むにゃ…」

ユミエルは言葉にならない声を発しながら出てきた。


綺麗なブロンズの髪が太陽の光によって輝いている。


「あぁ、腹が減ったな。アンジュ、見張りお疲れ様。」

お腹が空いた事と私への感謝を同時に伝えるエタルナ。


「ありがとねー、アンジュちゃん。おかげでゆっくり眠れたわ。」

交代制だからね。遠征ではよくある事。


「まずは朝ごはんね、私が準備するから二人は出発の準備をしてちょうだい。」


そう告げた時、嫌な臭いが漂ってきた。


この生臭い匂いは…


「二人共、急いで装備を!」


嗅いだ事がある匂い…現れたのは…やはり、


「ウォータースライム!」


二人はまだ準備中…私が一人で行くしか無いわね。


スライムに向けて、走り出す。


ビュビュッ!


「くっ。」


寸前の所でウォータースライムの水魔法をかわした。


水魔法、速くて強い!


「直撃したらマズイわね、これは。」


そう言ったところで、右肩に乗る球体が熱を帯びた。


『水魔法防御…』


ありがとねー、球体。


ビュビュッ!


ふたたび来る水魔法の攻撃を、左腕に装備した小型楯ではじく。


よし、楯のダメージは無しっ。


「えいっ!」


右手に持つ剣を上段から振り下ろす。

が…スライムはすばやく私の攻撃をかわした。


動いも…早いわ。


「球体ちゃん!感覚と筋力のアップ!」


そう叫ぶも、球体は暖かくなるだけで、何も言葉を発しない。


同時に二系統の支援は無理ってヤツね。


この前は耐性系と攻撃系の同時支援は無理だった。


今回は、防御系と攻撃系…なんとなく分かってきたわ。


「アンジュちゃん、おまたせ!」

「またせた!」


装備を整えたユミエルとエタルナが駆け付けた。


「ユミエル、電撃魔法!ウォータースライムの弱点は電撃よ!」


「分かった!サンダーボルト!」


ん?ユミエルってば、どうしたの?


出ないわよ?電撃魔法。


「ユミエル?」


「あー、出ないー!ウチの魔法、まだ無理ー。」

悔しそうに、ユミエルは杖を握りしめた。


何?まだ無理って?


「どういう事なの?」

「昨日、結構、使っちゃったから、魔法の杖。」


ちょっとよく分からないけど…

私の球体より謎だわ。


エタルナと二人でやるしかないわね。


水魔法防御を切って、なんとか攻撃に転じられれば…


えっと…そうだ!


「エタルナ!楯、悪いけど…私の盾になって!」

「おぅ、が、がんばる!」


エタルナが私とウォータースライムの間に割って入る。


「球体ちゃん、魔法防御は解除で、攻撃支援を!」

ブルッと震えるような感覚が右肩に伝わる。


「ありがと。」


ちゃんと支援してくれたね。

剣が軽くなり、ウォータースライムの動きが遅く感じる。


ビュビュッ!


ウォータースライムの水魔法をエタルナが、その大きな楯で防ぐ。


衝撃によって、足元がズルリと動いたのが分かる。

が、力のあるエタルナは支援無しでも水魔法攻撃を耐えきった。


私は、エタルナの背中から回り込む。


「ヤーーー!」


右から左へと水平に剣を薙ぎ払った。


ザンッ


「よしっ!」


ウォータースライムは二つに割れると、弾け散った。


おかげで辺りが水浸しとなる。


「やったな!アンジュ。」

「エタルナも、ありがとう。」


静かだった草原に戻る。


水平線にあった太陽は、いつの間にか丸くなり空に浮かんでいた。


「二人ともゴメンネー。ウチが朝食の準備するから許して。」

駆け寄ってきたユミエルは、そう伝えると両手を合わせた。


「えぇ…でも、魔法が発動しなかったのは、何だったの?」


「ん-、それは食べながら話そうか。」


「ああ、腹が…減った。」


ユミエルが携帯食であるスープを温めると、辺りには良い匂いが広まった。


「えっとね、あの杖は…太陽の光を貯める必要があるの。」


スープを器へと入れながらユミエルが話す。


「太陽の光?」


「そう、だからダンジョンの中や夜中、雨天は難しいのよ。」


暖かなスープを口に運ぶと体の芯まで落ち着きが戻る。


「その緑色の宝石みたいな部分に光を当てるのか?」


「うん、薄い緑の時は使えなくて、濃い緑色になると魔法を発動できるんだよ。」


エタルナの質問にユミエルが答える。


杖の先端に取り付けてある緑色の宝石は、確かに今は薄い緑色だった。


「それは、不便だな。」


「昨日の道中で、結構使っちゃったからねー。」

「今日は天気も良いし、この分だとすぐに貯まるわ。」


ユミエルはあっさりと言うけど、魔法を使えない魔法師にとっては、重要な部分だと感じる。


「そういえば以前、ダンジョンに入った時にも、太陽がどうのって言ってたわね。」


「あの時はうっかり、しゃべっちゃって焦ったわ。」


私の質問に笑いながら答えるユミエル。


初ダンジョンで気が動転していただけかと思っていたけど、こんな理由があったのね。


「他にも制約があったりする?」


「まぁ、ちょっとね…」


そう質問したけど、ユミエルはこれ以上、答えようとはしなかった。


「そんな事よりアンジュちゃん、さっきの戦闘中に球体ちゃん、とか叫んでなかった?」


「あぁ、それ…あたしも聞いた。まだ、どこかに浮かんでいるとか言うのか?」


必死だったから、ユミエルとエタルナに隠す事を忘れていた。


「二人には見えないから言っても信じて貰えないだろうけど…まだ居るの、私の右肩に。」


そう伝えると、二人はお互いの顔を見合わせた。


「ウチ、信じる事にした…」

「だって、信じないとアンジュちゃんの戦闘力が上がった事を説明できないんだもの。」


「あたしも信じるよ…」

「だって、あたしのバーサーカー化の事も信じて、仲間のままで居てくれているから。」


二人は真っすぐに私の目を見つめている。


「二人とも、ありがと。とても嬉しいよ。」


詳しい事は、まだ言えない…自分の中でも整理が出来ていない部分だし、あと何故か言っちゃダメだって球体に言われている気がしたから。


朝食を終えた私達は、テントを片付けて出発の準備をする。


今回の目的地へ向けて歩き出す。


素材採取の依頼…それだけで終わるはずがない。

何となく、そんな予感が胸に残っていた。

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