第10話 朝霧の草原と、アンジュの過去
「うぅ、冷えるわねぇ。」
風を遮るものが何も無い草原。
早朝の冷たい風が肌へと刺さる。
ユミエルとエタルナの二人はテントの中で熟睡中。
なので…
右肩に浮かぶ光る球体へと話しかけている。
ちらりと球体を見るも、反応は無い。
「球体も寝てるのかな?」
寝てるのなら、完全に私の独り言じゃないの。
…まぁ、今さらか。
「あぁ、早く太陽昇らないかなぁ。」
遠征を必要とする依頼は、この見張り役が難点ね。
今回の依頼は、捜索系の割に結構、報酬が良い。
「早く稼がないと、お父さんの元仲間を探す事が出来ないじゃないの。」
そう呟くと、
右肩の球体が少し暖かくなるのを感じた。
「何?お父さんの話を聞きたいの?」
聞きたい…声 は聞こえないけど、そう言われた気がした。
同時に冷たい風が強く吹き、ぶるりと背筋が震える。
「じゃぁ、話すね。」
「お父さんとは子供の頃から仲が良かったの。」
「居ない時が多くて寂しかったんだけど、帰って来た時は全力で遊んでくれたわ。」
火が消えないように、小枝をたきぎの中へと放り投げると…その瞬間、暖かさが広がる。
「とは言っても剣の練習とか、モンスターの絵を描いてくれたり、そんなんだったけどね。」
「だけど…酷いのよ、私には剣の才能が無いなんて言って笑ってくるの。」
「あの時は、結構ショックだったわ。」
「まぁ、それでも私は立ち上がってお父さんに挑んだんだけどね。」
そこまで伝えると、球体は左右に動いた気がした。
「ん?何?私と剣の稽古がしたいって訳?」
そんな訳ないわよねー、と思って一人で笑った。
「まぁ、お母さんは運動神経が悪かったから、私はお母さんに似ちゃったのかもね。」
少し明るくなってきた夜空を見上げる…
この空は、この世界のどこにでも繋がっているって本当の話なのかな?
「お母さんは王都の貴族の娘でね。」
「トレジャーハンターであるお父さんとの結婚は凄く反対されたんだって。」
「やっぱり一番の原因は身分の差ね。」
「体裁をとても気にする家だったから。」
それに危険な職業…貴族が心配するのは当然だったのかも知れない。
「それでね、お父さんとお母さんは駆け落ちのような形で結婚して…王都を離れて小さな町で暮らし始めたの。」
子供の頃に家族三人で暮らした町を思い出す。
町のみんなは私たち家族にとても親切で、色々とお世話になった。
でも…帰れない。
「お父さんが居なくなってから、ほどなくして…お母さんのお父さん、つまり私のおじいちゃんがやって来てね。」
「無理やりお母さんと私を王都に連れ戻した。」
「王都も、おじいちゃんの家も凄く立派でね。」
「何の不便もなかった…ただ、自由が無かった。」
「この私にテーブルマナーとか教えようとしてくるのよ。笑っちゃうでしょ?」
「服も動きにくいのばかりでね…剣なんて持った日には、執事が飛んできて怒られちゃったわ。」
お母さんは、とても申し訳なさそうに私を見て来た事を思い出す。
「お母さん…怒られる場面を何度か見たわ。」
「でも、あの時の私は非力でね…何も力になれなかったの。」
地平線が薄っすらと明るさを帯び始める。
「それでね、私…おじいちゃんの家を飛び出しちゃったのよ。」
「お母さんも一緒に来たかったかも知れないけど…私一人が逃げるのが精一杯だった。」
お母さんを置いてきた事は今でも罪悪感を抱いている。
球体が暖かさを増す。
「何?私の事を心配してくれているの?」
「ふふふ、親切な球体ね。」
「あ、でも…この前の”眠りの花のモンスター”との戦いの時、強化魔法をかけてくれなかったよね。」
球体は微妙に動いたような気がしたけど、すぐに動きを止めた。
「えっと…強化魔法では無い?」
『支援…』
頭の中に球体の声が響く。
「お、話してくれたわね!そっか…強化魔法じゃなくて、”支援”か。魔法じゃなかったのね。」
「でも、あの時…眠り耐性はかけてくれたじゃないの…何?ケチった?」
『二つは…無理』
ふたたび、声が響く。
「えっと…異なる2つの”支援”は無理って事か…」
そう言うと、球体は声を出さずに、暖かさを増した。
「まだ謎だらけだけど、お話が出来て良かったわ。」
「さて、太陽も登ってきた事だし、ユミエルとエタルナを起こさなくっちゃ。」
球体は、何も反応する事は無かった。
それにしても球体ちゃん…
どうして、私を”支援”してくれるのかしら?
…でも、
何かに…私を利用しようとしてたりして。
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