第9話 ユミエルの秘密と、魔法の嘘

昨日のユミエルってば…一体、何だったんだろ?


眠りながら魔法を放つなんて、そんな魔法あるのかな?

でも…ユミエルの反応的に絶対におかしいと思う。


「ユミエル…ちょっといい?」


宿屋の2階、少し広めに設けられたテラスにてユミエルは一人たたずんでいた。


大きく澄み渡った星空を見ていた様子。


「おぅ、アンジュちゃん…どうしたの?お腹が空いて眠れないの?」


「違うわよ…ユミエルの事が気になってね。」


「あらま、シリアスな感じ?でも…ウチは、女同士の恋愛は苦手やから困るかなー。」


「…」


私はユミエルが空元気な気がして、言葉が詰まった。


「ユミエル…眠りながら、放てる魔法を知ってるの?」


しばらくの沈黙の後、私は思い切って話を切り出す。


「ははは…そんなのある訳ないじゃん。」


その笑い方が、昨日よりずっと苦しそうだった。


「…」


再び沈黙となる少し肌寒い空間。


「まぁ…アレやん…アンジュちゃん、見ちゃったなら仕方ないなー。」


「うん…見ちゃったのよ。」

「あの時、ユミエルは睡眠攻撃で、あきらかに意識が無かったわ。」


「ふー。」


ユミエルは、夜空に向かい、力なく息を吐いた。


そんなユミエルの姿をじっと見つめる。


「実はな…ウチ、魔法は初期レベルしか使えないんさ。」


「え?初期レベルって…」


初期レベルと言うとマッチの代わりに火を付けるとか、コップ1杯の水を出すとか…そんなレベルじゃないの。


「えっと…ユミエルってば、ファイヤーボールとか使っているよね?」


そう言うと、ユミエルは私の方に向き直した。


「あれ…アーティファクトなんさ。」


アーティファクトだって?


それは魔道具の一種。

ユミエルが持つのは、魔法を放つ事が出来る魔道具という事なのか…


そんな…あれほど完璧な魔法を放つ事が出来るアーティファクトなんてあるの??


私の頭の中はぐるぐると自問自答を繰り返し…無言が続く。


「あの魔法の杖は、アーティファクトなの…実家の宝物庫で見つけた物。」


ユミエルの実家は大きな商会である事は知っていたけど…


「そんなアーティファクトなんてあったら国宝級じゃないか!?」

思わず大きな声を出してしまう。


ユミエルは、少し悲しげに笑顔を作った。

が、すぐに視線を私から逸らす。


「どうしたんだ?何かあったのか?」

眠っていたのだろうか?

エタルナが目をこすりながらテラスへと出てきた。


私はユミエルに了解を得た後、エタルナにも今までの話を伝えた。


「じゃぁ、魔法学校も卒業していないのか?」


驚いたエタルナも少し大きめな声となり、ユミエルの顔を見つめた。


「いーや、卒業したよ。」

ユミエルは私達から目を逸らし、再び夜空へと目線を移す。


「あの杖、先生達も騙せたんだよ。凄いでしょ。」


そう言うユミエルの横顔はとても…とても…悲しそうだった。


そこで私は疑問が浮かんだ。

何故?そこまで魔法使い職にこだわるんだろ?


言葉にする…


「ユミエルってさ…トレジャーハンターなんかにならなくても生きて行けるんじゃないの?」


いつも値切り交渉とかしてくれるユミエル…実家の商会を継いだ方が幸せになれるんじゃないかな?


そんな考えが脳裏に浮かんでしまった。


「うーん…ここまで言ったなら話しちゃうか。」


ユミエルの言葉にエタルナは何も言えずにいる。

一言一言を聞き逃したくないような姿だ。


「あのね…ウチには優秀な妹が居るのよ。

「勉強も出来て体力もある…ホント凄いのよ。」


「でも、妹はウチが実家を継いだら良いって言うの。」

「私はどこかにお嫁さんに行くからだってさ。」


「どう考えても、ウチより妹の方が優秀で…」

「絶対、妹が実家を継いだ方が利益が出る。」


ユミエルの家族の事…そう言えば何も知らなかったな。


「そんな中ね…ウチは魔法の才能がある事が分かったの。」

「やった!これでウチには魔法使いの道が開けた!」

「実家の商会は妹に任せられる!」


「それで…妹と両親に大手を振って魔法学校に入学した訳よ。」

ユミエルが魔法使いへの道へと歩き出した理由は分かった。


けど…どうしてアーティファクト?


「魔法学校に入学したまでは良かったけど。」

「そこからは想定外。」

「全然っ!入学前から使えた魔法以上の才能は得られなかったの。」


「参ったわよねー。大きな口を叩いて実家を出たのに…そんな事ある?って感じね。」


「そこで…思い出したの。」

「ずっと前に聞いた、ウチの商会には魔法を放つ事が出来るアーティファクトがあるって話をね。」


続く告白に私は思わず息を飲んだ。


「もう、ワラにもすがる気分で、実家の宝物庫に忍び込んだわ。」

「そして…手に入れたのが、あの国宝級のアーティファクト!」


言い終えると苦笑いするユミエル。


そんな…ユミエルの魔法が、アーティファクトの力だなんて…


「ユミエル…苦しかった?」


聞くと、ユミエルは急に笑うのをヤメて静かにうつむいた。


「うん…大変だったわ…」


「ユミエル…泣いても良いんだよ。」

そう伝えると…ユミエルは私の胸に飛び込んで来た。


肩を抱きしめると、その肩は小刻みに震えている。


そして…私の胸の中で、声を殺して泣き始めた。


隣に立つエタルナも頷き静かに涙を流し始めた。


「大丈夫だよ…ユミエルの秘密は絶対に守るから。」


ユミエルの頭を撫でながら、そう言葉をかける。


魔法を使えない魔法師を胸の中に抱く。


となりには、

仲間の血を見るとバーサーカー化する盾使いが立つ。


そして私は…謎の球体の力で強さを発揮する剣士。


「ねぇ、二人共…私に力を貸してくれない?」


ユミエルとエタルナは顔を上げた。


「お父さんの情報が欲しいの…手伝ってくれる?」


私も泣きたかったけど、無理して笑顔を作った。


「勿論!」

「あたし達は仲間だ!」


ユミエルとエタルナがそう言うと、右肩に乗る球体も光を増した。


それはまるで、三人を優しく見守っているかのように暖かな光だった。

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