第8話 眠りの花と、眠らない魔法使い

「この依頼、どうだろうか?」


エタルナの声に引き寄せられるように私とユミエルは掲示板を覗いた。


「へー、睡眠薬を作る為に必要な花を探す依頼か。」

「ちょっと報酬、安すぎない?」

睡眠薬…私には全く必要の無い薬ね。


「安いけど、宿代も払わないとだから、働かないと。」

「そうね、花を探すだけなんて簡単だから、今日はちゃちゃっとコレを達成しちゃおう。」

ユミエルが言う通り、簡単そうな依頼ではある。


これなら危険な目に合って、血を流す心配も無さそうだし良いかも。


「じゃ、コレ受付に持っていくわね。」


2人にそう伝えると、私は依頼の紙を掲示板から取り、受付嬢に渡した。


どうやら、依頼主に会う必要もないとの事。


「早速、向かおう…行き先はサンブルグの森だって。」

「はーい。」

少し離れた場所だったので、乗合馬車に乗って移動する。


行き先の森は比較的安全な場所。


大型のモンスターの出現情報は少ない。


とは、言っても…この前は安全と言われる森でトロールが出た事だし油断は大敵ね。


「ありがとうございましたー。」

3人揃ってお礼の言葉を伝える。


本来の終点はこの森の入り口じゃなかったけど、頼んだら乗せて来てくれた。

乗合馬車のおじさんが親切な方で良かった。


「探す花の色は紫色で、花びらが細長いのが特徴よ。」


受付嬢さんに貰った依頼書に書いてある情報を二人に伝えた。


「ちゃっちゃと行きましょう!」

「おー!」

ユミエルの言葉にエタルナが右手を天に突き出して応えた。


私も元気よく返事をする。


本当なら、今すぐにでもお父さんが所属していたパーティの元仲間を探したい所だけど、

情報が足りなすぎるし…所持金も少なすぎる。


「それにしても…花、多いわね。」


森に花があるのは普通だけど…木の根元、岩の隙間とか、おかしな所にまで花が生えている。


「黄色い花が多いね、えっと…目当ての花は紫色っと。」

「今の所、紫色の花は見かけていないね。」


ユミエルとエタルナも、いつになく真剣な表情で探してくれている。


え?左から何か来る?


右肩に浮かぶ球体の中が頭をよぎった。


「左側…スキッピービー!」


空を飛ぶ蜂型のモンスターが…4匹、いや…5匹。

それほど強くはないけど、毒を持っているから厄介。


「ここは、ウチに任せて!」


ユミエルは前へと出ると杖を構え、魔法を唱える。


「ファイアボール!」


剣や槍では届かない位置を飛ぶ、スキッピービーを捉える。


おぉ、一発で2匹一度に…やるわね。


「ざっと、こんなもんよ。」


残りのモンスターも、数発で撃ち落としたユミエルは、鼻高々に言った。


エタルナと二人で拍手を送る。


空を飛ぶ系のモンスターに対しては、魔法使いと弓使いの存在は大きい。


この森は、花が多いから蜂型のモンスターの出現率が高いのか。


「流石、魔法学校をストレートで卒業しただけはあるな。」

「あ、うん。」


エタルナが言ったように、ユミエルは魔法学校を一度も留年せずに卒業したと言う。


私は魔法に興味が無かったから詳しくないけど、一度くらいは留年するのが普通らしい。


「留年すると、お金がかかるのよ。」

「だから、ウチは頑張った!」


「ところでユミエルは、どうして魔法使いになったのんだい?」

「実家の商会を継げば良かったんじゃないのか?」

「商売、好きそうだし。」


確かに、エタルナの言う通りだと思う。

…私も気になっていた部分だ。


実際、ユミエルは商売の才能もあると思う。


「えーっと…魔法がね…好きだったのよ。」


ユミエルの言葉は、歯切れが悪く…どこか暗い表情となった。


「あ!あの部分、紫色の花が沢山ありそうだぞ。」


エタルナが指を差す方を見ると、確かに一帯が紫色に染まっている場所があった。


3人で駆け寄る。


「うん、細長いじゃん、この花で間違い無さそうだね。」

ユミエルがそう言った瞬間、光る球体が熱くなるのを感じた。


え?危険?


球体の声に反応して、辺りを見回すもモンスターらしき存在は確認できない。


「どうしたんだい?アンジュ?」


「分からない…けど、危険…らしい。」


エタルナの質問に返すも、自分でも何が危険なのか分からない。


が…突然、地面が揺れ始めた。


目の前の地面が隆起して…


「花!?」


地面から姿を現したのは、ピンク色をした大きな花だった。

花弁の奥に、こちらを見つめる“目”のような影がある。


なんだコレは?

こんなの聞いた事も見た事も無い。


「コレ、モンスター?戦って良いの?」

ユミエルはそう言うと杖を構えた。


「分からない…」

そう言った瞬間、辺りに小さな粉末のような物が浮かび始めた。


「う…何だか…頭がクラクラする。」

そう言うと、エタルナはガクっと膝をついた。


「犯人、この子でしょ…撃つわね…」

そう言ったユミエルも、フラっと体勢を崩した。


「エタルナ!ユミエル!」

二人の名前を叫ぶが…私も…まぶたが…


眠い…


睡魔に襲われ、立っていられなくなる。


『眠り耐性…発動。』


「はっ!」

すっと、目の奥にあった睡魔が消える。


これは…球体のおかげ?


そう問いかけると、右肩が熱くなるのを感じた。


「ありがとう。」


球体に向かって、そっと呟く。


ドンッ!


突然、花型のモンスターから黒煙が上がった。

花の部分を大きく振って、抵抗しているのが分かる。


何?

誰が攻撃したの?

魔法攻撃?


すると…倒れているユミエルの杖の先端部が光り始めた。


ドンッ!


「え?」

思わず声が出る。


杖から魔法が発動され、花型のモンスターへと攻撃を発射した。

あれは…ファイアボール…ユミエルが得意とする魔法。


どうして?

ユミエルは睡眠状態なのに、魔法が発動しているの?


右腕?右つる?


花形のモンスターの、つる部分がユミエルの体めがけて振り下ろされた。


「危ないっ!」


ザンッ!


瞬時にモンスターの”つる”を叩き切った。

けど、いつもの感覚だわ…2倍になってない。


なんとか、”つる”は切れたけど…花、本体は倒せるかどうか…


ドンッ!


ユミエルの杖から発射された火魔法がふたたびモンスターをかすめる。


このモンスターの弱点は火なのだろう。

かすっている割にはダメージが大きいようだ。


次にユミエルの魔法が放たれたと同時に、私はモンスターの懐へと飛び込んで、剣を振り抜いた。


「よしっ!」


すでに火魔法で弱っていた事もあって、無事に花型のモンスターを倒す事が出来た。


ユミエルの杖から発射されていた火魔法も止まっている。


とりあえず…起こすか。


「おーい、エタルナ。」


「すまん、どうやら眠ってしまっていたようだ…睡眠攻撃ってヤツだったのかな?」


無事でよかった。

もし、私まで眠ってしまっていたら、どうなっていた事やら。


「おーい、ユミエル。」


「あれ?あの大きな花、倒した?」

やはり眠っていたわよね…ユミエルってば、知らない間に魔法を撃っていたの?


「凄いな、アンジュは…睡眠耐性の補助魔法でも知っているのか?」


「えっと-、そんなのは知らないかな。」


まさか光る球体の仕業だとは言えない。

言っても信じて貰えない事は分かっている。


そんな事より…


「ユミエルも…寝てたよね?」


「うん、ぐっすりだったよ…残念ながら。」

てへっといった感じで、舌を出して謝るユミエル。


「ユミエルってば、寝ながら魔法を放てるのか?」

「え?どういう事?」


「その…手に持っている杖から、何発も魔法を放っていたんだ。」


「嫌だなぁ~、そんな事…あったのね。」


そう言って、ユミエルは笑おうとした。

けれど、その笑顔は、どこか固かった。

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