第2話 報酬額と、食費の現実

「あぁ、疲れた…トロール相手に、よく生きて帰れたわ。」


「アンジュ…疲れたって言うが、トロールをずっと引いて帰ってきたのは、あたしだぞ。」


「まぁまぁエタルナちゃん。トロール高く売れたから良いじゃないの!1万レアよ!1万!」

商売人の娘であるユミエルが興奮しながら話す。


「そんなに貰えたのなら、久しぶりに美味しい物を食べたいところだ。」


「無駄遣いはダメ、貯金よ、貯金!」


「私は、エタレナの案に賛成!」

「このままだと栄養不足になるわ…麗しき18歳のお肌が荒れ荒れよ!」


「えー、ゆっくりお風呂に入れるお家が欲しい~!」


お風呂かー、確かにいつも共同浴場だからな〜。


でも、家を買うって、何年後になるのよ。

買える頃には、もうおばあちゃんになっている未来しか見えないわ。


「私が居なければトロールは倒せなかったわ!」

「だから私の意見が最優先って事で!」


「ぐぬぬ。仕方ないわねぇ…でも、高級店はダメよ。」


よし、栄養摂取、確定よ!


「…高級店って、どんなところだ?」


エタルナが首を傾げた。


「昔、お父さんが功績を上げた時のお祝いに行ったくらいだから詳しく知らないかな…」


「あ、そっか、アンジュちゃんのお父さんって、有名人だったからね。」

「ウチも、商売で上手く行った時に数回、行った事があるくらい…」


そう、ユミエルの言うように私のお父さんは有名なトレジャーハンターだった。


今は…もう居ないけど。


「あたしの産まれた村は田舎だったから…高級店なんて無かった。」


そう言えば、エタルナは、遠い村の出身だったっけ。

いつか村を裕福にしたいって言ってたけど、そんなに稼ぐ頃には…ヨボヨボよ。


「かんぱーい!」

「おつかれさまー。」

「うっす。」


「でさー、伝説の宝具って、本当にあるの?」

早速、ユミエルが私が探している宝具の事を聞いてきた。


お父さんから聞きた宝具…それを探し出すのが私の当面の目標。

「あるわ! 絶対に!」


「アンジュちゃん、声、大きいって。」


「わ、悪かったわね…まぁ、少し落ち着きましょ。」


「あたしもユミエルも落ち着いている。落ち着くのはアンジュ。」


「で、どういう物かは分かったのか?」


「うーん…それが分からないのよ。」


「形は?」

「色は?」


「それも…分からないの。」


…沈黙


「そんなの、情報としてはゼロなんじゃない?」


そうだけど…お父さんが、嘘なんてつく筈がない。

言い返したいけど、反論できずにいる。


「お金は地道に稼ぐしか無いって事…」

諦めたかのようにエタルナが言う。


いつか見つけて、この2人にギャフンと言わせてやる。

その想像で思わず口元が緩む。


「何?ニヤニヤしているのよ、アンジュちゃん。」

「やはり、トロールとの戦闘で頭を打ったんじゃないのか?」


「ちょっと…思い出し笑いしちゃっただけよ。」


「ところでアンジュ、光る球体というのは、まだ見えるのか?」

「え?あるじゃない…ここに。」

球体がある右肩を指差すと、エタルナの顔が引きつった。


「すみませーん、焼き鳥串3人前追加で!」

「あと…そこに光る球って見えます?」


「ほいー3人前で300レアね。」

「ん?光る球?お嬢さん、何を言っているんだ?」


…ですよね。 


「もう、分かったわ。」

この球体は他の人には見えないって事ね。

…謎すぎ。


右肩が、じわりと熱を帯びる。


「分かったなら、明日、治療院に行って来なさい。」


「…嫌よ。」

「あー、アンジュちゃんったら怖いのね。」


「怖くなんて無いわよ!」

2人からの冷たい視線に耐えられず、明日は治療院に行く事にした。


「じゃぁ、明日はウチら2人でギルドの掲示板を見てくるわね。」

「うん、頼んだ。」


毎日、ギルドの掲示板を見ている。

だけど、報酬が高いのはモンスター討伐の依頼だけ。


モンスターを倒せば良いじゃないかって?

無理無理、私はこう見えても弱いのよ。


強かったのはお父さんで、残念ながら私には遺伝しなかったわ。


って、球体に言われた気がして返事したけど…相変わらず無反応ね。


「おじさーん、ビールおかわり〜♫」

まぁ、いいわ!今日は無礼講よ。


ビールを持ってきた店員さんが言う。

「そういえば、最近、新しいダンジョンが発見されたらしいな?」


その瞬間…


右肩が、はっきりと熱を持った。


『行く…べき。』


え?


「おじさん…ダンジョンにはモンスターが居るのよ。」

「それは…当たり前じゃないのか?」

ユミエルの返答に店員さんは不思議そうに返す。


「ダンジョンなんかには、行かない方が良い。」

「あぁ、怖いのか…。君たち、本当にトレジャーハンターなのか?」

エタルナの顔色を見た店員さんは呆れたように言った。


「い、今はまだ修行中なのよ!あと1年もすれば、もうバリバリよ!伝説になる勢いよ!」

「そ、そうなのか…期待しているよ。」


店員さんは笑いながら立ち去った。


行きたくない。


絶対に。


なのに…


右肩の温もりは消えなかった。


それは…まるで、行く事が決まった合図のようだった。

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