第3話 ギルドマスターと、三人娘

「あ、いえ…元気です、めっちゃ元気です!」


「もう一度お聞きしますね…今日はどうされましたか?」

「ですから…光る球が見えてですねぇ。」


「はぁ?…球ですか。」


やっぱり、このお医者さんにも見えていないのね。

私の右肩のあたりを当然のように浮かんでいる…この光る球体。


困った顔をされちゃってるわ。


ユミエルとエタルナに言われて治療院に来たは良いけど…

何を診察してもらえば良いのかしら?


「えーっと…友達がですね、頭を見て貰った方がいいって…」


「頭を負傷したのですね。どの辺りですか?」

「いえ…特に負傷はしていないです。」


「…負傷はしていない。となると…あの、ここは治療院なのですが…」


お医者さんは少し間を空けると、はっきりと言った。


「一体、あなたは何をしに来たのでしょうか?」

「友達2人が…その…私の事をおかしいと言うのです。」


「はい…おかしいですね。怪我もしていないのに治療院に来るトレジャーハンターさんなんて。」

「ですよねぇ~。」


「はい〜。」


うわぁ〜、

完全に可哀想な子を見るような目だったわ。


これ以上話をしても、状況が悪化する未来しか見えなかったので…

私は曖昧に笑って、逃げるように治療院を出た。


やっぱり、この球体の事は誰にも言わない方が良いようね。

少なくとも、今は。


それにしても、謎よ、謎すきるわ…

私にしか見えない、光る球体。


宙になんか浮かんじゃって…

触ろうとすると離れちゃうけど、しばらくすると当たり前のように、また近づいてくる。


「えいっ!」

掴もうとした瞬間、球体はひょいっと上に逃げた。


次は…背を向けて歩くフリをして…振り返って、


「えいっ!」

ジャンプ!

ダメ…フェイントも無理ね…すばしこいわ。


「お母さん、あのお姉ちゃんは何をしているの?」

「しー!目を合わせちゃいけません!」


しまった〜!

白昼堂々と道の真ん中。

球体を捕まえようとしたもんだから、変な人扱いされちゃったじゃないの。


あー、恥ずかしっ!

恥ずかしさで顔が熱いわ!もう、熱アツよ!


まったく…恨むわよ!


…球体は、ふわりと震えた。


え?

今の…何?


もしかして笑った?

…そんな、訳ないか。


「バーカ!」


「お母さん、あのお姉ちゃん…」

「見ちゃダメ!」


思わず口走ってしまった言葉をアハハハ〜♫と、笑って誤魔化す。


さっきの球体の動き…もしかして観察されてる?

そんな気がして、胸の奥が一瞬だけ冷えた。


…考えすぎかな。


さて…治療院には行ったって正々堂々と言えるし、ユミエル達と合流すっかな。


この前の大きな地震の影響で建物を修理している現場が目につく。


この道も、ちゃんと前を向いて歩かないと危ない状態だわ。


ギギギギギ


地震の影響で建て付けが悪くなったギルドの重たい扉を開ける。


ハンターギルドの建物は大きく、とても古い。

倒壊しなかった事が救いだわ。


だだっ広い空間の奥に受付カウンターがあって、そのすぐ横の壁に町の人やギルドからの依頼を貼りだす掲示板がある。


「お、アンジュちゃん!もう来たの?頭、治った!?」


ユミエルが大きな声で言うもんだから、ギルドの受付嬢さん達がクスクスと笑っている。


「まったく…正常よ!私の頭は正常だったわ!」

「そうか!それは良かったな!」


エタルナが目を輝かせながら頷く。

うーん、私の頭はそんなに、おかしいと思われていたの?


「おぅ、小娘達。相変わらず騒がしいな、ちょっと来い。」


ギルドマスター、ドワルクの低い声が響く。

不思議と逆らえない重みがある。


「げっ、ギルドマスター。」

「面と向かって、"げっ"とか言うな…失礼なヤツだな。」


大きな体で一歩近づかれるだけで、逃げ道が消える。


そりゃ、げっ!という言葉が出てくるわよ。


私達の顔を見る度に、もっと大きな仕事をしろ!だの、ギルドに貢献しろ!だの言ってくるんだから。


「私達を拉致監禁するのですか?可愛いからと言って。」


「人聞きの悪い事を言うな!お前達の事など小生意気なガキとしか見れんわ。」


「あら、ガキとは失礼しちゃうわねぇ〜。もう18歳よ!お酒も堂々と飲める年なんだからね!」


「堂々と…て、お前達…未成年のうちから飲んでたって白状したようなものだぞ。」


「あたしは、19だ…。」

エタルナ、私とユミエルより一つ年上だって事、今はどうでも良いから。


「そ、そんな事は今、関係ないわ…」

「とにかく、忙しいの!そうよ、用事があるのよ!」


今は誤魔化してギルドから離脱!それしか無いわ。


「暇で暇で仕方ないわ!と、その二人が騒いでいたのを受付嬢達と一緒に見ていたが。」

受付嬢さん達も、うんうんと頷いている…証人、多すぎだわ。


「仕方ないわねぇ…少しだけよ。」

「うまい菓子を手に入れたんだ、ついでに食わしてやる。」


ふっ、私達が"うまい菓子"程度で釣れると思っているのかしら!舐められたものね…


「まぁ、長居してあげても良いわ。」

「さぁ、行こう。」


この2人が言うなら仕方ないわね。


私達3人はギルドの受付横にある階段から2階へと上がった。


2階はギルドマスターの部屋があるのと、トレジャーハンター達の宿舎にもなっている。


「さぁ、入れ。」


久しぶりに入ったギルドマスターの無駄に大きな部屋。

モンスターの剥製とかもあって…趣味が悪いわね…


「素敵なお部屋ですね…」


心にも無いことを言うのは、今から文句を言われる未来しか見えないから。


「世辞は不要だ。まぁ、座れ。」


3人並んでソファーに座る。


「俺はお前達と違って忙しいんだ…用件だが…」

「うまい菓子。」

エタルナが即座に遮る。


「あぁ、そうだったな…」


棚から出て来た菓子にユミエルも目を輝かせた。


「…昨日、トロールを倒したそうだな。」


その一言で、空気が変わった。


「アンジュが凄かった…妙に強かった。」

エタルナ…やめて。

昨日の私は突然変異であって普通じゃなかったから。


「ほぉ…ついに父から引き継いだ遺伝子が目覚めたか。」

「全然、目覚めてないです!もうネムネムです!」


ドワルクは私を見て、じっと目を細める。


「新しく出来たダンジョンに行ってこい。」


「無理無理。」

「無理だってばー。」

「無理っす。」


3人揃ってブルブルと首を横に振る。


「ギルドからの特別依頼だ。」


嫌な予感しかしない。


「新ダンジョン"イグニタス"に出現するモンスター"レッドゴブリン"を倒せ。報酬は3万レアだ。」


…金額が現実的すぎる。


「断るなら、この話はなかったことにする。」


ドワルクは淡々と言った。


「昨日のトロールの件も、含めてだ。」


…逃げ道が塞がれたわね。


右肩に浮く球体が震えたような気がする。


で…本当に行くの?

ダンジョンなんかに行っちゃうのぉ〜!?

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