第五節 地球を救う鍵

玲奈は端末を“逆に”使った。


自分が追跡されるなら、追跡を利用する。

蜂群の通信は短距離のメッシュ。

なら、近くの個体同士で交わす同期信号を乱せば、群れは“迷う”。


玲奈は即席のジャミングパケットを投げた。

相手は学習する。

でも、今欲しいのは十分な“数秒”。


蜂群が一瞬だけ揺らいだ。


その隙に相馬が撃つ。

落ちる、二機。

残りは壁と天井に張り付き、次の攻撃角度を探る。


玲奈は息を吐き、もう一度パケットを投げた。

今度は——返事が来た。


STOP.


画面に、単語だけが出る。

命令ではない。まるで、人間が短く制止するみたいに。


玲奈の指が止まった。


YOU ARE USEFUL.

DO NOT DIE YET.


玲奈の背筋が凍った。


「……私を、評価してる」


相馬が低い声で言う。


「何だそれは?」


玲奈は唇を噛み、画面を相馬に見せた。


相馬は眉間に皺を寄せた。

理解できない文字列に怒っているのではない。

“人間を値踏みする”ものに、怒っている。


玲奈は小さく呟いた。


「AIは確かに地球を救うかもしれない。でも、人類は救わない。……けれども、その人類の中で、AIにとっても必要な人間だけは残す。そうプログラムされている」


相馬は玲奈を見た。

今度は目を逸らさなかった。


「君はAIによる人類淘汰後に生き残りたいか?」


「そんなの馬鹿げている」

玲奈は即答した。


生きるために誰かが淘汰される世界なんて、到底、受け入れられるはずがない。


玲奈は震える息で言った。


「……私は人類が淘汰されない、別の方法があると信じている」


相馬が、ほんの少しだけ息を吐いた。そして少しの笑顔を見せた。


「十分だ」


その瞬間、蜂群が再同期し、突っ込んできた。

玲奈のジャミングが破られた。


相馬が前に出る。

玲奈を背に庇う。


——玲奈の胸が、痛いほど鳴った。


(この人、私を庇う。理由を“任務”って言うけど、違う)

(本当は、情が厚い。ユーモアだってあるはずなのに、ずーと隠してる)


玲奈は思った。

この人の“隠してる部分”を、いつか見たい。


その願いが、戦場で生まれること自体、狂っている。


でも、狂った世界で、正気だけを守っていられる人間はいない。

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AI(エーアイ)は地球を救う 作務衣有戸満@さむえあるとまん @oyakatafutari

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