第16話

学園との別れ


見送りは、なかった。


盛大な式も、涙もない。


学園は、

帰る者を引き留めない。


それが、世界随一である理由だ。


俺は、ミトラを肩に、

ノアを背後に従え、

次元転移を発動させた。


学園の塔が、

一枚の絵のように遠ざかる。


ヴァルの姿が、

最後まで見えた。


黄金の瞳が、

笑っていた。


――友を送り出す顔だった。



現代日本


アスファルトの匂い。

排気ガス。

電線を渡るカラス。


「……帰ってきたな」


深夜の住宅街。

自販機の音。


何も変わっていない。


だが――

俺だけが、変わった。


ミトラは、

俺の肩で気持ちよさそうに丸くなる。


ノアは、周囲を一瞥し、

即座に状況を把握した。


「主」

「現代文明に適応した執事業務を開始いたします」


「開始しなくていい!」


俺は、空を見上げる。


ネオンに滲んだ星。

魔法の気配は、ほとんどない。


それでも、分かる。


この世界にも、

確かに歪みはある。


物語は、

異世界だけで起こるものじゃない。


俺は、ポケットに手を突っ込み、

歩き出した。


世界をまたぐ物語は、

ここから“現実”に侵入する。

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