第7話

魔法という言語


次に足を踏み入れた世界は、空気の密度が違った。


重い、というより――満ちている。

呼吸をするたび、肺の奥に何かが溜まっていく感覚がある。


「……これが、魔力か」


言葉にしただけで、周囲の空気がわずかに震えた。


草原は深い緑に染まり、遠くには石造りの塔と街壁が見える。

空を漂う雲の動きが、どこか規則的だ。

偶然ではなく、意図をもって流れている。


歩きながら、俺は理解していった。


この世界では、魔法は特別なものじゃない。

言語だ。


正しい文法、正しい発音、正しい意味付け。

それらを満たせば、世界は応答する。


「……なるほどな」


胸の奥が、微かに熱を帯びる。


これまでいくつもの世界を見てきたが、

ここまで“分かりやすい”世界は珍しい。


森へ入った瞬間、変化は起きた。


木々の間を漂う光の粒子。

それが、俺の動きに反応して集まってくる。


――選ばれている。


そんな傲慢な考えが浮かぶ前に、

魔力が勝手に流れ始めた。


「おいおい……」


意識していないのに、身体が覚えている。

次元転移と同じだ。

理解した瞬間に、回路が完成する。


俺は、掌を前に出した。


「――灯れ」


ただそれだけ。


火球も、爆発も起きない。

代わりに、小さな光が生まれた。


温度を持たない、柔らかな光。

だが確実に、世界の法則を使った結果だ。


「初級どころか、未分類だな、これ」


笑いながら、胸が高鳴る。


才能がある、というより――

相性がいい。


魔法世界の法則は、

“物語を理解する者”に寛容なのかもしれない。

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