3話 キルケーの秘密

アルヴィスが艦を降り、一歩、その大地を踏みしめる。その瞬間、島の隅々にまで張り巡らされた魔脈が、心臓の鼓動と共鳴し、目に見えない黄金の波紋となって広がった。

​ 王宮の内部は、外観の崩壊からは想像もつかないほど、清潔に保たれていた。

 不完全ながらも継ぎ接ぎされた壁、磨き抜かれた床。そこには、キルケーを離れず、六十年間この場所を守り続けてきたわずかな国民たちの姿があった。

​「……あ……」

​ 作業をしていた者たちが、一斉に手を止めた。

 彼らは、変わり果てたはずの若き王の姿を見るなり、魂に刻まれた本能に突き動かされるようにその場に跪いた。

 

 群衆を割り、五人の老臣たちがアルヴィスの前へと進み出る。彼らは、かつて父王と母女王に仕えていた、キルケーの重鎮たちだった。

​「アルヴィス陛下……ああ、アルヴィス陛下……。よくぞ、よくぞご帰還なさいました……っ!」

​ 彼らは地を這うように頭を垂れ、再会の喜びに震えていた。アルヴィスは、自分を「佐藤健一」として知る者など一人もいないこの光景に、一抹の戸惑いを感じながらも、威厳を持って問いかけた。

​「……なぜ、私がアルヴィスだと分かった。六十年だ。私は幼かったはずだが」

​ 五人の筆頭と思われる老臣が、涙に濡れた目を上げて答えた。

​「我らエルフの瞳には、見えております。陛下の全身から溢れ出す、太陽のような白金のオーラが。この島に触れた瞬間、陛下の魔力はかつての国王陛下、そして女王陛下をも凌駕する威厳を放たれました。……間違うはずがございません」

​ その言葉と共に、アルヴィスは王宮の奥――かつての父の書斎へと導かれた。

 書斎にはローレンツ、五人の老臣たち、そしてアルヴィスが揃った。

老臣の一人アルテウス、元国の財務を担当していた。アルテウスが本棚から焦げた箱を取り出した。箱の中には六十年間、誰の目にも触れずに守られてきた「遺産」があった。

​ 机の上に広げられたのは、羊皮紙とも電子ペーパーともつかない、不思議な光沢を放つ大判の地図。明らかに人間が作ったものではない。

 ​アルヴィスが前のめりに「これは……?」

「書斎の隠し棚から発見されたものです。我ら家臣も、そしてローレンツらも存在すら知らなかった……キルケーの真の姿です」

​ アルヴィスがその地図に指を触れると、地図上の等高線がホログラムのように立体的に浮かび上がった。

 そこには、キルケー国内に流通している従来の地図には決して記されていない、国土の地下深く、そして広大な領海の底に眠る「未知の資源」の座標が、精密なデジタルデータのように刻まれていた。

​ それは、ただの地図ではない。

 前国王が、いつか来る「文明の逆転」を見越し、息子であるアルヴィスに託した、最強の「復興の設計図」だった。

家臣やローレンツはまるで夢見る少年のように目を輝かせていたが、アルヴィスは複雑な表情を浮かんでいた。『これはとんだマッチポンプだ!なんてものを残したんだ!』アルヴィスを横目にもう一人の緑と水色のオッドアイの若い女性の家臣も同じような顔を浮かんでいた。

 この資源をうまく生かせばキルケーの繁栄が約束された金になる木だが、使い方を誤れば先の侵略戦争よりも苛烈なものになるとアルヴィスが危機感を感じた。

 

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キルケー・リブート @makomoko0760

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