第5話

鑑定コンテスト当日。


王都の中央広場には、朝早くから多くの観客が集まっていた。商人、冒険者、貴族、学者。様々な身分の人々が、この大会を楽しみにしている。武器鑑定は、この世界では重要な技術だ。だからこそ、年に一度の大会は大きな注目を集める。


会場には特設のステージが組まれ、審査員席には王国の高官たちが座っている。その中には、レオンハルトの姿も見える。


「緊張するか?」


ガルドが俺の肩を叩く。


「少しだけ」


正直に答えた。これほど大勢の観客の前で、自分の技術を披露するのは初めてだ。


「大丈夫だ。君なら優勝できる。自信を持て」


ガルドの言葉に、俺は頷いた。


会場には、10人の鑑定士が集まっていた。年齢も経歴も様々だ。60代の老鑑定士もいれば、30代の中堅もいる。その中で、俺は最年少だ。


そして、その中に――


「やあ、君が噂の新人鑑定士か」


バルトロメウスがいた。オーディンズ・アームズの鑑定士だ。彼は高級なローブを身に纏い、自信満々の表情を浮かべている。


「バルトロメウスさん......」


「ふん、若造が生意気に参加してきたものだ。せいぜい恥をかかないようにな」


彼が勝ち誇ったように笑う。周囲の鑑定士たちも、俺を見下すような視線を向けてくる。新人が、ベテランたちの集まる大会に出る。それが気に入らないのだろう。


「では、これより第50回王都武器鑑定コンテストを開催します!」


司会者が声を上げると、会場が盛り上がる。拍手と歓声が響く。


「ルールは簡単です。5つの課題が出されます。各課題で最も正確な鑑定をした者に得点が与えられ、最終的に最も高得点の者が優勝となります!」


司会者が大きな声で説明する。観客たちが、期待に満ちた表情で見守っている。


「それでは、第一課題です!」


係員が、古びた剣を運んでくる。錆びて、刃が欠けている。一見すると、ただの古い剣だ。


「この剣の製造年代を当ててください!制限時間は3分です!」


鑑定士たちが一斉に剣を鑑定する。それぞれが集中し、スキルを使う。


俺も『精密鑑定』を使う。


【名前】古代鉄剣

【製造年代】約350年前

【製造者】不明(古代王国の鍛冶師と推測)

【製造場所】旧王都の第一鍛冶工房(現在は廃墟)

【使用者】おそらく古代王国の騎士

【歴史】魔王戦争時代に使用されたと思われる。多くの戦いを経験し、最終的に持ち主と共に埋葬された。100年前に遺跡から発掘】


「350年前です」


俺が即答すると、会場がざわつく。


「早いな......だが、正確性が問題だ」


バルトロメウスが冷笑する。


他の鑑定士たちも、次々と答えを出す。


「300年前」


「400年前」


「280年前」


「320年前」


様々な答えが出る中、司会者が正解を発表する。


「正解は......350年前です!正解者は、リオン・アシュトン!20点獲得!」


会場が拍手に包まれる。観客たちが驚きの声を上げる。


「ぐっ......まぐれだ」


バルトロメウスが悔しそうに言う。


「第二課題です!」


今度は、破損した鎧が運ばれてくる。大きく壊れており、一部は完全に崩壊している。


「この鎧の修復可能性を判定し、修復後の性能を予測してください!」


これは難しい課題だ。破損の程度を正確に把握し、修復方法を理解し、さらに修復後の性能まで予測する必要がある。


俺は『詳細解析』を使い、鎧の内部構造を完全に把握する。


【名前】騎士重鎧(破損)

【現在の防御力】+5(本来は+45)

【破損箇所】23箇所

【修復可能性】80%

【修復方法】魔力回路の再構築、金属板の交換、魔石の再配置

【修復後の性能】防御力+40(本来の89%)

【修復コスト】推定8万ゴールド

【修復時間】約5時間】


「この鎧は、80%の確率で修復可能です。修復には、魔力回路の再構築と、7箇所の金属板の交換が必要です。修復後の防御力は+40。元の性能の89%まで回復します。修復コストは約8万ゴールド、時間は5時間程度です」


俺の詳細な分析に、審査員たちが驚きの表情を浮かべる。


「素晴らしい!こんなに詳細な分析は初めてだ!」


審査員の一人が立ち上がる。


「修復方法まで具体的に示すとは......30点満点だ!」


会場が再び沸く。バルトロメウスの顔が、さらに赤くなる。


「第三課題です!」


魔法の杖が運ばれてくる。一見普通の杖だが、実は特殊な能力が隠されているという。


「この杖に隠された能力を見抜いてください!」


これは、高度な鑑定能力が必要だ。表面的な情報だけでなく、内部に秘められた力を感知しなければならない。


【名前】賢者の杖(封印状態)

【表面上の攻撃力】+15

【隠された能力】魔力増幅(現在封印中)

【解放条件】杖の底部にある紋章に特定の順序で魔力を注ぐ

【解放後の効果】魔力+30%、詠唱速度+20%、魔法威力+15%

【封印理由】過去の使用者が暴走を恐れて封印】


「この杖には魔力増幅の能力が封印されています。杖の底部の紋章に、火、水、風、土の順で魔力を注げば解放できます」


俺が実際に魔力を注ぐと、杖が輝き出す。そして、今まで隠されていた紋様が浮かび上がった。杖全体が光に包まれ、その真の姿を現す。


「これは......!」


審査員たちが驚愕する。観客たちも、息を呑んで見守っている。


「隠された能力を見抜くだけでなく、解放までするとは......!満点の30点だ!」


会場が大歓声に包まれる。


こうして、俺は第三課題までパーフェクトで突破した。現在の得点は80点。2位のベテラン鑑定士が45点なので、大きくリードしている。


バルトロメウスの顔は真っ赤だ。彼の得点は、わずか15点。


「ふざけるな......お前、本当に鑑定士なのか!?」


バルトロメウスが叫ぶ。


「ええ、ただの鑑定士ですよ」


俺は冷静に答えた。


「第四課題です!」


今度は、10本の剣が並べられている。どれも似たような外見だ。


「この中に、1本だけ贋作が混じっています。それを見抜いてください!」


贋作を見抜く。これは、鑑定士の基本中の基本だが、同時に最も難しい課題でもある。精巧な贋作は、本物と見分けがつかない。


鑑定士たちが一本ずつ慎重に鑑定していく。時間をかけて、細部まで調べている。


俺は全ての剣を一瞬で鑑定する。


【1番:本物】

【2番:本物】

【3番:本物】

【4番:本物】

【5番:贋作】

【6番:本物】

【7番:本物】

【8番:本物】

【9番:本物】

【10番:本物】


「5番です」


俺が即答すると、会場がどよめく。まだ30秒も経っていない。


「何故そんなに早く分かるんだ!?」


バルトロメウスが叫ぶ。


「鑑定スキルのレベルが高ければ、一目で分かりますよ。材質、製造方法、魔力の流れ、すべてが異なります」


司会者が5番の剣を詳しく調べる。専門の鑑定士が、時間をかけて分析する。


「正解です!5番は贋作でした!リオン・アシュトン、4問連続正解!」


会場が沸き立つ。観客たちが立ち上がり、拍手を送る。


「これで110点!圧倒的なリードです!」


司会者が興奮気味に叫ぶ。


そして、最終課題。


「これは、王国に伝わる魔剣です。この剣に隠された秘密を、可能な限り多く見抜いてください!」


巨大な剣が運ばれてくる。それは、黒い光を放つ禍々しい剣だった。見ているだけで、心が重くなるような圧迫感がある。


俺は『精密鑑定』と『詳細解析』を最大限に使う。スキルに全ての魔力を注ぎ込む。


【名前】魔剣ダークネス

【種別】伝説級魔剣

【製造年代】800年前

【製造者】魔王ゾルタック(封印済み)

【由来】魔王が自らの力を封じ込めた剣。使用者の魔力を吸収し、強大な力を発揮する。魔王戦争の終結後、勇者によって封印された

【現在の攻撃力】+95

【真の攻撃力】+180(封印解除時)

【特殊能力】

- 闇属性付与(威力200%)

- 魔力吸収(使用者の魔力を剣に蓄積)

- 使用者強化(蓄積した魔力で使用者の全能力を向上)

- 闇の波動(範囲攻撃)

【隠された能力】

- 真なる姿への変形(現在封印中)

- 魔王の記憶へのアクセス

- 時間停止(1日1回、3秒間)

【呪い】

- 使用者の精神を徐々に侵食

- 最終的に魔剣に取り込まれ、剣の一部となる

- 呪いの進行度は使用回数に比例

【対策】高位の浄化魔法、もしくは聖なる力で呪いを緩和可能。完全除去は不可能

【封印の構造】三重の封印が施されている。第一封印:物理的拘束、第二封印:魔力抑制、第三封印:意識封印

【危険度】SSS級。使用は推奨されない】


俺は、見抜いた全ての情報を詳細に説明した。


製造年代、製造者、由来、能力、隠された能力、呪い、封印の構造、危険度。一つ一つ、丁寧に説明していく。


説明が終わる頃には、会場全体が静まり返っていた。


審査員たちは言葉を失っている。観客たちも、息を呑んで聞いている。


「信じられない......ここまで詳細に鑑定できる者は、王国の歴史上初めてだ......」


審査員長が震える声で言う。


「これは......もはや鑑定の域を超えている。まるで、剣の記憶を読んでいるかのようだ......」


司会者が感動で涙を流している。


「優勝者は......リオン・アシュトン!!満点の150点獲得!完全優勝です!!」


会場が大歓声に包まれる。観客たちが総立ちで拍手を送る。


「馬鹿な......こんなことが......」


バルトロメウスが崩れ落ちる。


「私は......20年も鑑定士をやってきたのに......若造に......」


俺は彼に近づく。


「バルトロメウスさん、鑑定スキルは進化します。レベル10で『精密鑑定』に、レベル20でさらに強力になります」


「進化......?そんな話、聞いたことがない......」


「だから、誰も知らないんです。でも、あなたもまだ間に合います」


俺が手を差し伸べると、バルトロメウスは戸惑いながらもそれを掴んだ。


「私に......まだチャンスが......?」


「ええ。諦めなければ」


表彰式で、俺には優勝トロフィーと賞金10万ゴールドが授与された。トロフィーは重く、輝いている。


「リオン殿、素晴らしい活躍だった」


レオンハルトが祝福してくれる。


「ありがとうございます」


「これで、君の名は王都中に知れ渡った。いや、王国中に広まるだろう。今後、更に多くの依頼が来るだろう」


その予想は的中した。


翌日から、ガルドの店には依頼が殺到した。


「リオン!また依頼だ!」


「この剣を鑑定してくれ!」


「俺の鎧も修復してくれ!」


貴族、商人、冒険者。あらゆる人々が俺の鑑定を求めてやってくる。店の前には、朝から行列ができている。


「嬉しい悲鳴だな」


ガルドが満面の笑みを浮かべる。


「これも全て、君のおかげだ。店の売上は、先月の10倍だ」


「いえ、ガルドさんが機会を与えてくれたおかげです」


その日の夜、俺は疲れ果てて宿に戻った。


だが、充実感でいっぱいだった。多くの人に認められ、必要とされている。この感覚は、何物にも代えがたい。


「鑑定スキル......まだまだ可能性がある」


スキルステータスを確認する。


【スキル】精密鑑定 Lv.20


レベル20に到達していた。そして――


【スキル『精密鑑定』が『完全鑑定』に進化しました】

【新機能『創造』が解放されました】


「創造......?」


新しい能力の説明を読む。


【創造:鑑定したアイテムをもとに、新しいアイテムを作り出す能力。既存のアイテムを組み合わせ、より強力な武器や防具を創造できる。ただし、創造には大量の魔力と希少な材料が必要】


「これは......とんでもない能力だ......」


鑑定スキルは、もはや単なる情報収集の能力ではない。


世界のあらゆるものを理解し、修復し、強化し、そして創造する――


神にも等しい力へと、進化を続けていた。

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最弱スキルと馬鹿にされていた「鑑定」が、レベルアップで万能チート能力になった カケガワ @kakegawa

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