【世界はまだ歌の途中】全部は生き返らない街


 知らない街を歩きながら、シンタローはレインコートのフードをさらに目深にした。

「シンちゃん、それ前見えるの?」

 ヒビキは、緑の傘に雨を受けながら、シンタローの顔を覗き込む。シンタローは黙って頷いた。

 崩れた瓦礫と落ちた看板が重なった、ガタガタ道を歩きながら、二人は街の中心を目指していた。勿論、歌うためだ。

「今日どうする?シンちゃん歌う?」

「……ヒビキさんもそろそろ歌ってくださいよ」

「あれ、普通に歌うのと違って、謎にめっちゃ疲れるんだもん」

「俺だって疲れてるんですけど…」

 そんなことを話しながらも、瓦礫を叩く雨の音を聞きながら、二人は街の中心の目印である電波塔に辿り着く。

「……今日はヒビキさんが歌ってください」

「……はーい」

 ヒビキは不服そうに返事を返した。

 そして、目を閉じて、ゆっくりと深く息を吸い込む。

 その歌声は瓦礫を超えて、倒れた看板を超えて街全体に響いていく。

「……さすがです、ヒビキさん」

 落ちた看板が元の位置へと戻っていく。

 割れて読めなくなった表札が戻り、家が直る。

「……あれ」

 ヒビキが歌い終わった後、シンタローは違和感を覚えた。

「なんだか、いつもと違いますね」

 街は確かに生き返っていた。

 人の住む家、誰かが経営する店、コインランドリーの看板。

 それでも、いくつか。

 倒れたままの看板、割れた地面、潰れた家の瓦礫。

 まだまだ未熟なシンタローならまだしも、ヒビキは滅亡前、プロの歌手だった。

 街が戻らなかったことなんて、今まで一度もなかった。

「……まあ、こんなもんでしょ」

 だが、ヒビキは戻らない街を見ながらクルリと傘を回す。

「え、でも……」

 ヒビキはシンタローの声が聞こえないかのように歩き始める。

「ほら、シンちゃん、早く行くよ」

 いつも通りのからかうような笑顔で、ヒビキはシンタローを呼んだ。

 ヒビキは緑の傘を閉じて肩に担ぐ。

 瓦礫を打つ雨の音は、もう聞こえなかった。


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