世界はまだ歌の途中

タイヨウ

【世界はまだ歌の途中】プロローグ



 崩れかけたビルの屋上。青年は目を閉じ、深く息を吸った。

 その瞬間、瓦礫の向こうから歌声が漏れた。柔らかく、しかし力強く街に響く声。


 緑はゆっくりと、でも確かに蘇る。壁を覆うツルは鮮やかに伸び、崩れた住宅街に葉音を響かせた。


 街は、滅びる前の姿を取り戻していく。

 歌が途切れたとき、青年は後ろから聞こえる笑い声に不服な顔をして振り向いた。

「ははっ、相変わらず下手くそ」

「……しょうがないでしょ。歌ったことないんですから」

 緑色の傘を持ったもう一人の青年が、微笑みながら肩をすくめる。

「シンちゃん、次はどこ行く?」

「俺の出身のとこがいいです」

「埼玉かぁ……遠いな……」

 瓦礫に覆われた世界で、歌いながら歩く青年たちの話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る