第2話
クーロの母は、彼が三つのときに亡くなった。
詳しい死因は分からない。ただ、母とララと三人で、故郷から海を渡ってグラン・カナリア島に来たことは覚えている。
母が亡くなった後は、母を介抱してくれた家の子供になった。けれど、そこでの暮らしは最悪だった。義母はクーロ達兄妹をぞんざいに扱った。時に暴力を振るい、時に食事を与えず、二人を――とりわけ反抗的なクーロを生意気だと言って奴隷のようにこき使った。
それでも家を出なかったのは、義母に母の形見の指輪を取られたからだ。義母はそれを肌身は出さず持っていた。まるでそれが人質であるかのように。
そして理由はもう一つ。義母から逃れ、生き別れた父を捜しに出るための船の問題があった。お金のかかる移民船には当然乗ることはできない。確実なのは船乗りとして働くことだ。だけど、十四歳のクーロは受け入れても、まだ十一歳のララを受け入れてくれるところはなかった。
二人の兄妹は途方に暮れていた。そんな中、クーロがある船を見つけた。
通常、移民船でもない限り、女性が船に乗ることはあまりない。けどその船には乗っていたのだ。しかも、他の船乗りたちと同じように積み荷の運搬作業を手伝っていた。
それだけではない。船には小柄な老人もいた。若くてガタイのいい男たちに囲まれて、彼もまた補助役ながらも作業を手伝っていた。
ここだ、とクーロは思った。ここなら、僕たちを受け入れてくれる。
そうして、クーロは夕暮れの港を夢中で駆けだした。小さなキャラベル船の、その古びた舷梯を駆け上り、船へと帰っていく男性の袖を急いで掴んだ。
うなじが見えるほどの短髪と、風に微かに揺れる前髪……。振り返った男は一見冷たそうな印象だった。髪と同じ焦げ茶色の瞳が、驚きつつもこちらを静かに捉えていた。
「お願いです……」
息を切らし、震える声で願った。
「僕たちを、この船に乗せてください……」
長い沈黙があった。けれども男は不審に思うこともなく、低くも優しい声でゆっくり事情を聴いてくれた。
父を捜していること。自分と妹を雇ってほしいこと……。義母の家での扱いについては話さなかった。それでも男は急な話にもかかわらず、伏し目がちの自分を見つめ、真摯に話を聞いてくれた。
父の居場所は既に掴めている。
大西洋の中央に斑に浮かぶ島々。ここより南西に位置する群島国家――ジェーン王国。
クーロは何としても父親に会いたかった。自分達を救ってくれる父親に。亡き母が愛した自分の父に……。
「私たちもちょうどジェーン王国へ向かうところなんだ」
その風貌と同じく静かな声で、けれどそっと笑みを浮かべて男は言った。
「この船は明日の朝出港する。今夜中に覚悟が決まったなら、是非一緒に来てほしい」
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