第1話 始まり〜チュートリアル平原にて〜
「勇者。あなたは私を選びますか?」
第一の魔女が毅然として問う。アデルははつらつと答えた。
「ああ! もちろん!」
「えっ? 本当に?」
第一の魔女は戸惑う。
第一の魔女――《因果》は、明らかに想定外という顔をしていた。
無表情を装おうとしているが、眉がわずかに跳ねている。
アデルはそれを見逃さない。
(うんうん、この反応。この世界、好感度初期値マイナスだ)
ゲームでは彼女は最初の選択肢だが、同時に最も警戒心が強い魔女でもある。
軽い肯定は、ほぼ例外なく「試し」として受け取られる。
「ちょ、ちょっと待って。普通は……悩むものよ?」
「悩む? なんで?」
アデルは首を傾げ、太陽みたいな笑顔を向けた。
「君が最初に会った魔女で、世界の案内役で、しかも一番、責任感が強くて、不器用で――」
「な、なぜそこまで……!」
《因果》が一歩下がる。
ローブの裾が揺れ、杖を握る指に力がこもる。
(ほら来た。警戒フェーズ)
アデルは一瞬、声のトーンを落とした。
「……君は、“選ばれること”を恐れてる」
その言葉に、魔女の瞳が凍りつく。
「選ばれれば、他の理が歪む。世界が壊れるかもしれない。だから君は、勇者に試練を課し、突き放す」
沈黙。
風が草原を渡る音だけが響く。
「――あなたは」
魔女が、低く言った。
「未来を、視ているの?」
「いや」
アデルは即答した。
「プレイ済みなだけ」
「……意味が分からないわ」
「大丈夫。分からなくていい」
アデルは一歩近づいた。
魔女が思わず身構える。
「でもさ、君――」
彼は、真っ直ぐに告げる。
「“選ばれない世界”の結末も、“選ばれた後で後悔するルート”も、全部知ってる俺が来たんだぜ?」
「……っ」
「なら、一回くらい」
アデルは拳を軽く握り、
「信じてみない? 全員救う勇者ってやつを」
第一の魔女は、言葉を失った。
彼女の視界の端に、見えないはずのものが浮かぶ。
---
【警告】
本来存在しない選択肢が発生しています
世界の因果が揺らいでいます
---
「……」
《因果》は、それを見てしまった。
(なに……この表示……? 私が管理しているはずの、世界の……因果が⋯⋯)
ゆっくりと、彼女は息を吐く。
「……あなた、本当に勇者なのね」
「今さら?」
魔女は、ほんのわずかに――微笑んだ。
「いいわ。なら問うわ、アデル」
彼女は杖を地面に突き立てる。
「私を選ぶということは、他の十一の魔女にも、同じ言葉を向ける覚悟がある、ということ」
「ああ」
アデルは即答した。
「むしろ、もう会う順番も知ってる」
「……!」
「次は《時間》。その次が《記憶》。その次で一回、世界がバグる」
魔女は完全に固まった。
「――あなた、危険すぎるわ」
「よく言われる」
アデルは笑い、手を差し出す。
「でもさ」
その目は、真剣だった。
「選ばれなかった魔女のエンディング、どれも救いがなさすぎるんだよ」
沈黙の後。
第一の
「……契約しましょう、勇者」
世界が、確かに書き換わる。
---
【第一の
---
アデルは心の中でガッツポーズした。
(よし。隠しルート、開幕ってところだな)
こうして――
本来は存在しない“全クリルート”が、静かに始まったのだった。
◇
「なら、私の名前も知っているのかしら」
第一の魔女は、試すように顎を上げた。
その声は静かだが、失敗は許されない――そんな圧がある。
「ああ。《因果の魔女》セレナ・クリスタル」
一瞬。
風が止み、草原の音が消えた。
「……正解」
セレナはゆっくりと息を吐いた。
驚愕を隠そうとしているが、耳がわずかに赤い。
(はい、真名命中イベント)
このゲーム――いや、この世界では、
魔女の真名を知ることは最大級の信頼フラグだ。
本来は終盤、あるいは個別ルートの最深部でしか明かされない。
「あなた、本当に……何者?」
「ただの勇者だよ。
――“全周回済み”のな」
アデルは軽く肩をすくめ、周囲を見回した。
「さて、と」
青空、どこまでも続く草原、スライムすらいない安全地帯。
「とりあえず、チュートリアル平原から出よう」
「……はい?」
セレナがきょとんとする。
「チュートリアル?」
「ああ」
アデルは当然のように頷いた。
「最初に説明役の魔女が現れて、世界観と基本操作を教えて、最初の分岐があるだけの場所」
彼は地面を指差す。
「経験値入らない。イベント固定。一時間以上いる意味ゼロ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
セレナが声を荒げる。
「ここは《ナギ平原》よ!? 世界創生の象徴であり、理が安定するための――」
「ああ、ナギ平原だったか」
アデルはさらっと訂正した。
「背景テキストだとそう書いてあったな」
「……背景、テキスト……?」
セレナの頭が追いついていない。
(この反応、最高だな)
アデルはニヤリと笑う。
「安心しろって。この平原、二章以降で三回も燃える」
「燃え――!?」
「一回目は《火》の魔女、
二回目は《闇》、
三回目は――」
「もういいわ!!」
セレナが杖を振り上げた。
「あなた、世界を何だと思っているの!?」
「――救うべきもの」
即答だった。
ふざけた調子は消え、真剣な目でアデルは言う。
「それにさ」
彼は一歩前に出る。
「ここに長居すると、君の“管理者権限”が強すぎて、後で他の魔女が警戒する」
「……!」
セレナの瞳が見開かれる。
(来た。管理者視点の指摘)
「だから今は――」
アデルは、進行方向を指差した。
「村へ行こう。最初の
「……そこは、勇者が最初に――」
「死ぬ街、だろ?」
セレナは完全に言葉を失った。
「安心しろ」
アデルは笑って言う。
「今日は死なせない」
彼は歩き出す。
少し遅れて、セレナがその背中を見る。
(この少年……世界を知っているだけじゃない)
――世界の“失敗”を、知っている。
セレナは、気づかぬうちに一歩踏み出していた。
「……待ちなさい、勇者」
「ん?」
「正式に言っておくわ」
彼女は背筋を伸ばし、誇り高く名乗る。
「私は《因果の魔女》セレナ・クリスタル。この世界の秩序を司る者」
そして、少しだけ声を落とす。
「……あなたの無茶が、どんな結末を招くのか――
見届ける責任がある」
「頼もしいな」
アデルは振り返り、親指を立てた。
「じゃあ行こうぜ、セレナ」
こうして――
本来は一人で歩くはずだった勇者の旅は、最初から“魔女同行ルート”に突入した。
ナギ平原の風が、背後で静かに揺れていた。
次の更新予定
2026年1月13日 07:07
ゲーム転生『魔女♡勇者』〜12人の魔女が世界を統べるファンタジーゲームの世界に転生した俺、ゲーム知識と最強職『勇者』で無双し、魔女ハーレムを目指す〜 空花凪紗 @Arkasha
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