第49話 王都を覆う影、鋼鉄のリヴァイアサン
アークレイア王都の空は、晴れ渡っていた。 だが、正午過ぎ。突如として太陽がかき消され、街全体が巨大な影に飲み込まれた。
「な、なんだ!? 日食か!?」 「おい、空を見ろ! あれは……船!?」
市民たちが悲鳴を上げて指差す先。 高度二千メートル上空に、それは浮かんでいた。 全長二百メートルを超える、黒鉄の巨塊。 無数の砲門と、不気味に光る重力制御ユニットを底部に備えた空飛ぶ要塞――**『空中戦艦・ゴライアス』**だ。
『――聞け、アークレイアの愚民ども』
空から、雷鳴のような増幅された声が響き渡る。 戦艦のブリッジで、マイクを握る黒川の声だ。
『私は新世界の神、クロカワだ。直ちに降伏し、王城を明け渡せ。さもなくば、この王都を地図から消滅させる』
王城のバルコニーで、シャルロット王女は空を見上げ、唇を噛み締めていた。
「……神を名乗るとはね。下劣な犯罪者が」 「殿下! 王宮魔導師団、攻撃開始します!」
指揮官の号令と共に、地上から数百の火球と雷撃が放たれた。 アークレイアが誇る魔法の雨。 だが――。
ブゥン……。
ゴライアスの周囲に展開された透明な歪みが、全ての魔法を弾き返した。 重力障壁(グラビティ・シールド)。 物理攻撃も魔法攻撃も、空間ごとねじ曲げて無効化する絶対防御だ。
『無駄だ無駄だ! 魔法などというオカルトが、科学の結晶に通じるものか! ……見せしめだ。あそこを消せ』
黒川が指パッチンをする。 ゴライアスの主砲が鎌首をもたげた。 狙われたのは、王都の郊外にある騎士団の演習場。
ズドォォォォォォンッ!!!
閃光。そして遅れて届く衝撃波。 演習場があった場所は、一瞬にして巨大なクレーターへと変わり、土煙がキノコ雲となって立ち上った。 たった一発。 それが王都の中心に落ちていれば、数万人が消し飛んでいた威力だ。
「……嘘でしょ……」
シャルロットが膝から崩れ落ちる。 誰も言葉を発せない。圧倒的な力の差。 これが、黒川が手に入れた「悪意ある科学」の正体だった。
『猶予は一時間だ。首を洗って待っていろ』
絶望が支配する王都。 だが、その静寂を切り裂くように、西の空から「希望の音」が近づいてきた。
キュイイイイイイイイッ……!!
高回転するエンジンの駆動音。 雲を突き破り、銀色の矢が飛来する。 飛行船**『エンタープライズ・改』**だ。
かつての優雅な流線型ではない。 船体は追加装甲(リアクティブ・アーマー)で覆われ、船首には衝角(ラム)を装備。 両舷には増設されたガトリング砲と、ナオが設計したミサイルポッドがずらりと並んでいる。 それはもはや客船ではなく、空を駆ける「強襲揚陸艦」だった。
「待たせたな、黒川ァッ!!」
外部スピーカーを通じて、健一の声が空に響く。 ゴライアスのブリッジで、黒川が顔を歪めた。
「須藤……! やはり来たか、ゴキブリめ!」 「その薄汚い船を沈めにきた! 王都からは指一本触れさせん!」
『エンタープライズ・改』のコクピット。 操縦桿を握る俺の隣には、ナオが座っている。 彼女の体は、船体の中枢システムと完全にリンクしていた。
「マスター。敵艦との戦力比、1対20。……ですが、勝機はあります」 「ああ、知ってるさ。図体がデカイだけの張りぼてに、俺たちの『技術(ロマン)』が負けるはずがない!」
後部座席では、ヴォルグとドーガンが砲座につき、エリスが防御結界の準備を整えている。
「野郎ども、準備はいいか!?」 「「「おうッ!!」」」
俺はスロットルを全開にした。 蒸気エンジンと、ナオの雷撃エネルギーを併用したハイブリッド機関が咆哮する。
「総員、戦闘配置! エンタープライズ、突撃(チャージ)!!」
銀色の船が、黒い巨体に向かって一直線に加速する。 王都の民衆が見守る中、空の覇権をかけた最終決戦の火蓋が切って落とされた。
『生意気な! 迎撃せよ! 蚊トンボを叩き落とせ!』
黒川の号令と共に、ゴライアスの全砲門が開く。 弾幕の雨。 だが、俺たちは止まらない。
「ナオ、回避行動! 弾幕を抜けろ!」 「了解。……見えています」
ナオの瞳が輝く。 巨体のゴライアスにはできない、変幻自在の機動。 俺たちは弾幕の隙間を縫い、敵の懷へと潜り込んでいく。
狙うは一点。 あの無敵の重力障壁を発生させている制御ユニットだ。
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