第48話 荒野のデス・ロードと、黒い爆撃鳥
赤茶けた岩肌が続く、アークレイア西部の『大峡谷地帯』。 普段は魔物さえ寄り付かないこの不毛の大地を、一台の鉄の獣が爆走していた。
ブォォォォォォォォンッ!!
重厚なエキゾーストノートを響かせるのは、完成したばかりの四輪駆動トラック『ロード・バイソン』だ。 荷台には、辺境の村へ届けるための食料と医薬品が満載されている。
「ヒャッハー! 最高だぜ社長! 尻への振動はキツイが、ワイバーンより速え!」
助手席でヴォルグが窓から顔を出し、風圧に負けない大声で叫ぶ。 俺はハンドルを握り、ニヤリと笑った。
「悪路走破性も問題なし。サスペンションのセッティングは完璧だ」 「マスター。エンジン温度、油圧、共に正常値。……快適なドライブです」
後部座席では、ナビゲーター役のナオが、流れる景色を興味深そうに眺めている。 平和な輸送任務。 そう思っていたのは、峡谷の中腹まで差し掛かった時までだった。
『――警告(アラート)。上空より、高速接近物体を検知』
ナオの瞳が赤く点滅した。
「ワイバーンか?」 「否定。生体反応なし。金属反応……熱源感知。これは『機械』です!」
直後。 ヒュルルルルル……という、嫌な音が空から降ってきた。
「伏せろッ!!」
俺が叫ぶと同時に、ハンドルを左に切った。 ズドォォォォォンッ!!
今まで走っていた進路上が爆発し、岩石が吹き飛んだ。 土煙を切り裂いて、頭上を何かが通過していく。
キィィィィン……!
不快な金属音。 バックミラーに映ったのは、翼長五メートルほどの、無骨な鉄の塊だった。 鳥を模しているが、リベット留めの継ぎ接ぎだらけ。腹部には爆弾倉、翼の下には機銃が吊るされている。
「なんだありゃ!? 鉄の鳥か!?」 「『無人爆撃ドローン』……いいえ、あんな粗悪な作り、ただの空飛ぶスクラップです」
ナオが冷徹に分析する。
「ですが、推力は重力制御ユニットのコピー品。……クロカワ製の試作機です!」
黒川の野郎、俺たちがここを通ると読んで待ち伏せしていたか。 ドローン――『マーダー・クロウ(殺人烏)』が旋回し、再び襲いかかってくる。 今度は機銃掃射だ。
バババババババッ!!
乾いた発砲音と共に、トラックの周囲に砂煙が立つ。 ボディに弾丸が当たり、火花が散る。
「チッ、装甲を厚くしておいて正解だったな! ヴォルグ、反撃だ!」 「おうよ! 舐められたままでたまるか!」
ヴォルグがサンルーフを開け、身を乗り出した。 彼が構えるのは、ドーガン親方が作った『対物ライフル(口径20ミリ)』だ。
「落ちろぉぉッ!」
ドォン! ドォン! ヴォルグが引き金を引く。 だが、ドローンは不規則な動きで空を舞い、弾丸を回避する。
「くそっ、ちょこまかと! 当たりゃしねえ!」 「相手は空だ、分が悪い! ……ナオ、地形データを出せ!」 「了解。前方3キロ先に、狭いトンネル状の岩場があります」
そこだ。 空を飛ぶ奴の弱点は、狭い場所での機動性の低下だ。
「捕まってろ! ニトロ噴射(ブースト)だ!」
俺はダッシュボードの赤いスイッチを入れた。 エンジンの吸気口に亜酸化窒素が噴射される。
グオオオオオオオオッ!!
エンジンが咆哮を上げ、トラックが猛加速した。 時速100キロ、120キロ……荒地とは思えない速度で峡谷を駆け抜ける。
「逃がすかよッ!」
上空のドローンも加速し、追いすがってくる。 後部ハッチが開き、誘導ミサイル(といっても花火に毛が生えた程度の直進ロケット弾)が発射された。
シュゴォォォ……!
「後ろから来るぞ!」 「ナオ、タイミングを頼む!」 「……3、2、1、今です!」
俺はサイドブレーキを引き、ハンドルを全開に切った。 高速ドリフト。 トラックが真横を向く。 その鼻先を、ロケット弾が紙一重で掠め抜け――前方の岩壁に激突した。
ズガァァァン!!
爆風の中を突っ切る。 目の前に、目的の「トンネル岩」が見えた。
「入るぞ!」
トラックが暗闇に滑り込む。 ドローンは急上昇して回避しようとしたが、勢いがつきすぎていた。 あるいは、黒川製の粗悪なセンサーが反応しきれなかったのか。
「突っ込んでくるぞ!」 「ヴォルグ、今だ! 真正面だ、外すなよ!」
トンネルの出口付近。 俺たちが飛び出すと同時に、ドローンも低い高度で追撃しようと頭を突っ込んできた。 狭い空洞。回避不能の一本道。
「いただいたァッ!!」
ヴォルグの放った20ミリ弾が、ドローンのカメラアイ(目)を正確に撃ち抜いた。 さらに、エンジン部にもう一発。
ドガッ! ブスブスブス……!
黒煙を吹き、制御を失ったドローンは、きりもみ回転しながら岩壁に激突した。
ガッシャアアアアアン!!
盛大な爆発音と共に、鉄屑の雨が降る。 俺はトラックを急停止させた。
「……ふぅ。なんとか撒いたか」 「危なかったぜ。空からの攻撃ってのは心臓に悪い」
俺たちはトラックを降り、黒焦げになったドローンの残骸に近づいた。 ナオがケーブルを接続し、残ったメモリを解析する。
「……データ抽出完了。この機体は、ただの『偵察機』です」 「偵察機? 爆弾を積んでたのにか?」 「はい。本隊からの指令を受け、動く標的でテストをしていたようです。……そして、送信元の座標が判明しました」
ナオが北の空を指差した。
「北北東、距離500キロ。……そこに、巨大なエネルギー反応があります」
ただのドローンでこの威力だ。 本隊――黒川が建造しているという『空中戦艦』が完成すれば、トラック一台どころか、街一つが消し飛ぶだろう。
「……急ごう。のんびり配送している場合じゃなくなった」
俺は空を見上げた。 今日の空は青いが、遠くの雲行きは怪しい。 黒川との決着は近い。 それは陸と空、科学と科学の全面戦争になる。
俺は再びエンジンを始動させた。 まずはこの物資を届け、その足でドーガン親方の元へ戻る。 トラックだけでは勝てない。 俺たちも「空」へ上がるための準備――『エンタープライズ号』の戦闘用改修(フルアーマー化)を急がねばならない。
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