第四話 『激突、怪ロボットVSネクロマンシー』


 迫りくる怪ロボット。今まさに、私がその巨体に押しつぶされんとするその瞬間の事だった。


『■!!』


 聞きなれない声。


 私とロボットの間に割って入る、一体のスケルトン。彼は両手を突き出して、突っ込んでくるロボットに真正面から組み合った。


 抵抗は一瞬。


 トラクターの突進に挟まれた小枝のように、一瞬で白骨死体が粉微塵に粉砕される。ロボットの勢いは衰えない。


 だがその一瞬で、私が辛うじて逃げる時間が出来た。


 紙一重で、ロボットの突進が私の体を掠めて通り過ぎていく。標的を見失ったロボットが、私の背後にあった階段を粉砕する轟音が響く中、受け身を取る余裕もなく地面に転がる私。ヘルメットの中で、いくつもの警報が鳴り響いた。


『警告。宇宙服に損傷を確認。これ以上の損傷は、気密維持に影響が出ます』


「……っ」


『ヂュッ!? ヂュヂュッ!!』


 不味い、掠めた拍子にどこか破いたか。


 顔を上げると、ロボットは廊下の向こうまで勢いあまって滑っていく所だった。そのまま勢いを殺しながら離れていったロボットは、遠くでとぐろを巻くようにして方向転換。再びこちらにまっすぐ向かってくる。


 ちらり、と背後に倒れるスケルトン達に目を向ける。駄目だ、彼らは動けそうにない。


 次は避けられない。庇ってくれる相手もいない。


 チェックメイトだ。


「ここまでか……っ?!」


 息を呑む私の足に、何かが当たる。見下ろすとそこには、粉砕されて転がってきたスケルトンの頭蓋骨があった。刹那、虚ろな眼窩と視線が重なる。


 逡巡は一瞬。


「……すまない!!」


 頭蓋骨を拾い上げ、ボールを投げるように構える。手の中で、ぼぅ、と頭蓋骨が青い炎に包まれた。


 眼前に迫る、ロボットの巨躯。それに向けて、私は頭蓋骨を全力で投擲した。


「怨霊呪弾・極!!」


 青い炎の尾を引いて、螺旋を描くように呪弾が飛翔する。それは突進してくるロボットと激突し……凄まじい閃光と爆発を引き起こした。


「うぉおお!?」


 想定以上の威力に、膝をついて両腕で顔を庇う。飛んできた破片が、宇宙服の上ではじかれて音を立てた。


 数秒、そのままの姿勢で様子を伺う。私は恐る恐る腕のガードを解いて、爆発地点を確認した。


「……効いた、か?」


『ヂュゥ~……』


 ロボットは、上半身を吹き飛ばされ、下半身だけになっていた。節の連なったそれが、動く様子はない。破損した接続部からバチバチと散る火花も、すぐに衰えて消える。後には、冷たい鉄の塊だけが残された。


 九死に一生を得た思いで、私は安堵のあまりその場に尻もちをついた。


 安全を確認したのか、安心したように相棒が顔をだして、スンスンと鼻を鳴らすのが見えた。


『ヂュヂュ……』


「助かったぁ……ありがとう……ほんとに……」


 怨霊呪弾。ネクロマンサーが持ちうる攻撃手段の中でも奥義とされる一つ。強い思念が込められた遺物を爆弾にして投擲するというものだ。当然、思念の強さに威力は応じる訳だが、その為に一つの制約が存在する。


 十分な威力を発揮するだけの思念は、意にそぐわぬ命令を拒絶する判断力も残っている。


 爆弾となる思念の同意が無ければ成立しない、それが怨霊呪弾の欠点だ。


 本来、とっさに使う類の技ではない。しかし、あの場で間に合うのはこの技だけだった。


 あの白骨死体は、あの状況で自分の存在よりも、私を生かす事を優先してくれたのだ。私は深く、消えてしまった想念に感謝を捧げた。


「しかし、なんだったんだ、あのロボット……」


 動く様子の無い残骸を確認する。


 まさか、この施設にあんな感じの殺人ロボットがたくさんいるのか?


 冗談じゃない、一刻も早く脱出しなければ。


 だがしかし、酸素の量が十分ではない。大体階段を破壊されて、これでは上に戻れない。


「どうしよっかな……ん?」


『ヂュ?』


『……』


 悩んでいると、気が付けば周囲を生き残りのスケルトン達が取り囲んでいた。唯事ではない雰囲気に、思わず息を呑む。


 まさか、仲間を怨霊呪弾にされた事でお怒りか? 一応、彼らが襲い掛かってくれば、ネクロマンシーを解くだけだが……。


「な、何かな?」


『…………』


 相変わらず、言葉はない。代わりに、彼らは行動で示した。


 片膝をつき、姿勢を低く。


 6体のスケルトンは私の足元に跪いて、まるで冀うように頭を垂れた。


 その、意味が分からない程。私は、死体との付き合いが短くはなかった。


「…………はぁ。わかった。わかった。この奥に、用事があるんだな?」


『ヂュッ!? ヂュヂュヂュッ!!?』


 あら、相棒は反対? でも仕方ないじゃない。


 ふかーい溜息と共にスケルトン達に確認すると、帰ってくるのは肯定の首肯。


 私はげんなりしつつも、腰に手を当てて命令を下した。


「分かった。お前らには命を助けてもらった恩がある。だから、私も命をかけてやるよ。ただし! 私は戦力にならんからな。戦うのはお前らでやれ」


 そもそもネクロマンサーは戦闘職ではない。


 怨霊呪弾みたいなとっておきはあるが、基本的に前に出て戦うなんて言語道断だ。だからこそ、死体を操って前衛にする訳で。


 私からの交換条件に、スケルトン達は顔を見合わせると、一層深く頭を下げた。


「決まりだな」


『ヂューウ……』


 そんな訳で、私にとって未知の遺跡、彼らにとっては慣れ親しんだ古巣の、探索が始まった。


「まずは武器だな。あんなロボットが徘徊しているようじゃ、おちおち捜索も出来ない。心当たりはあるか?」


 私の指示に、スケルトン達は顔を見合わせると頷き、壁に空いた穴に入っていく。あのロボットが空けた穴だ。


 彼らに続いて私も穴を潜るが、その際にちょっと、壁と穴の様子を調べてみる。


 壁の材質は、見た目ではよくわからない。ただ断面を見る限り、やたらと密度が高い。しかし金属のような光沢はなく……なんだろうな。超高密度セラミックス?


 さらに言うとこの穴もおかしな感じだ。見た所、最初からそう作られたようにきれいな丸を描いているが、壁の装飾などが無惨に分断されているあたり、あのロボットがこの場で開けた穴というのは間違いなさそうだ。これだけの厚さの壁を、一瞬で消滅させる? どういうカラクリだろう。


「こりゃあ、壁の向こうから奇襲されたら一溜まりもないな。動くときの物音に注意しないと」


 くわばわくわばら、と身を震わせて、スケルトン達の後を追う。


 彼らは壁の向こうの通路を進み、小さな小部屋に入っていく所だった。これまで通り、彼らが指輪を翳すと光と共にロックが解除され、ドアが自動的に解放される。


 ぞろぞろと中に入っていく彼らの後ろから、部屋の中を覗き込む。


「おぉ」


『ヂュヂュゥ?』


 そこは傍目にも理解できる部屋だった。


 武器庫。


 恐らくは守衛だか門番の為に用意されたものだろうか?


 ずらりと並べられた武装ラックに、シールドやライフル、ブレードのようなものが収まっている。室内という事で白兵戦装備が充実しているのはおかしなことではない。


 スケルトン達はそれらを思い思いに拾い上げると、アクセサリの一部をつきつけて認証を解除しているようだ。


 盾と剣を持った前衛が二人。


 ずしりとしたウォーグレイブを構えるのが二人。


 そして、短銃身の粒子銃らしきものを手にするのが二人。


 なかなかバランスのよさそうなスケルトン兵団が忽ち出来上がった。私はうんうん、と頷いて満足する。


「よしよし。なかなか頼りになりそうじゃないか、お前ら。どれ、私も何か武器を……」


『!』


 私も仕える武器はないかな、と手近な棚に手を伸ばそうとすると、スケルトンがすっとんできて私の手を遮った。


 え、駄目?


『■■、■■』


 そしてアクセサリを見せびらかすようにチラつかせて、武器を指先でトントン、と叩く。


 これは……ああ、なるほど。


「そうか、これらの武器はスマートウェポンなんだな? 認証がないと使えないし、勝手に触ると危ないと」


 私の確認に、コクコクと頷き返してくるスケルトン。


 こいつは参った。これでは完全に私はお荷物もいい所だ。まあ、どの道あの怪ロボット相手に出来る事なんてそうそう多くはないんだが。


「わかった。ま、もとより戦いは任せるつもりだったし。頼むぞ、私の命、お前達に預けた」


『! ■■、■■■!』


 軽い激励のつもりだったが、スケルトン達はそうは受け取らなかったらしい。姿勢を正し、敬礼らしきポーズを取る。


 まあ、うん。士気が高い事は良い事だ。


「よし、行くぞ」


『ヂュ~……』


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2026年1月14日 16:00
2026年1月15日 16:00
2026年1月16日 16:00

コズミック・ネクロマンサー SIS @masumoto0721

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