第二話 『宇宙を駆けるネクロマンサー』
「さあ、報われぬ死を遂げた魂よ、私の手によって仮初の肉体を取り戻すのだ……!」
コール・スケルトン。
私の十八番のネクロマンシーによって、埋まっていた遺体が一人でに動き出す。土をかき分け、ゆっくりと身を起こすのは、完全に白骨化したスケルトンだ。長年の浸食で骨格はところどころ欠けているが、動くのに問題はなさそうだ。
「よし……!」
『ヂュヂュッ!』
どうやら自慢の死霊術は衰えていないらしいと確認し、私はガッツポーズを取った。
相棒も小さな手をパチパチして私を褒め称えてくれる。ふふふ、すごいだろう、もっと褒めたまえ。
「ふぅ。しかし、廃星に仏さんが埋まっているとはどういう事だ? ここは見捨てられた惑星だったはずだが……まあいい。お前さん、どこの誰だい? 喋れるか?」
『…………』
私の問いかけに従い、スケルトンがアゴの骨をガタガタさせる。どうやら、レイラインは正常に繋がっているようだ。
……が、スケルトンの声は何も聞こえない。
おかしいな……あっ。
「あ、そっか。ここ宇宙だったか。空気の振動なんて伝わるわきゃねーわな、ごめん」
『…………』
私の謝罪に、気にしないで、と言わんばかりにスケルトンは首を振った。
?
妙だな。私の死霊術は自我を持たない動物の骨をも操るが、その自己判断能力は死体に宿った思念の強さに比例する。骨格の経年劣化の様子から見ても、それだけの強い思念が残っている死体には見えなかったのだが……。
いや、それは今は関係ない。
むしろ喜ぶべき事だ。ある程度の意思疎通が可能なのは、この窮状ではむしろ望ましい事。何せ私はこのあたりの事を何も知らないのだ。
「その、早速で悪いが、どうか私を助けて欲しい。かくかくしかじか、という訳でだな。このままでは私は遠からず酸欠で死んでしまう。何か、不時着した宇宙船だとか、放棄された居住区だとか、知らないか?」
『…………』
私の事情説明に聴き入るように動きを止めていたスケルトンだが、会話が終わると、心得た、とでも言うように自分の胸をとんとん、と叩いた。
「もしかして……心当たりが!?」
『……(コクリ)』
はっきりと頷くスケルトン。なんという僥倖!
どうやら、この世界の神は少しはまともな処があるらしい。
「助かる! どうか、そこまで私を案内してくれたまえ」
『…………』
私の指示に、スケルトンがまた小さく頷く。背を向けて、どこかへ歩き出そうとするスケルトン……が、すぐに足を止めて立ち止まってしまう。
「どうした?」
『ヂュヂュ……ッ』
私の問いかけに、スケルトンは片手で自分の足元をしきりに指さしている。相棒も、何かに反応して小さな唸り声をあげる。
なんか埋まっているのか?
何気なく地面に視線を向けた私は、しかし次の瞬間、ある事実に気が付いて思わず声を上げた。
「うえっ?!」
……私は当初、このあたりをやたら凸凹した荒地だと思っていた。それは間違ってはいなかったが、ある意味では大きな勘違いをしていた。
私とスケルトンの立つ足元。その周囲が、丸く陥没していて……そこに、これでもか、というぐらい、大量の骨が敷き詰められて、地面と一体化していた。
◆◆
「なんまんだぶ、なんまんだぶ……」
『ヂュー、ヂュ……』
ネクロマンシーなんか使っていてなんだが、私は別に死体が得意とか、ホラーが好き、とかそういう事はない。むしろその逆。
死体はばっちいし怖いしおっかないし、ホラーな展開なんてもっての他だ。あくまで、ネクロマンシーという技術を使えるだけなのである。
そんな訳なので、普通に穴一杯の死体の山は流石にショッキングすぎた。
掘り出した骨を改めて荒野に一つずつ埋葬し、私は両手を合わせて冥福を祈った。
「どうか化けて出てきませんように……なんまんだぶ、なまんだぶ、と。ふぅ、こんなもんでいいだろう。お前達もありがとうな」
一通り念仏を唱えて、私は背後で控えている白骨達に振り返った。
そう、そこに立っているのは複数のスケルトン。私のネクロマンシーで動きそうな白骨を片っ端からスケルトン化したのである。とはいっても、損傷が激しくアンデッド化できたのは僅か7体ばかりだが。
墓穴を掘り返し、遺骨を埋め直したのも彼らである。流石に私一人では無理だし、この硬い地面を掘り返したら宇宙服が損傷する恐れがある。
幸い、スケルトン達は同胞を埋葬する事には意欲的で、指示さえ出せばあとは積極的に作業を進めてくれた。
「さて、と。酸素は……残り6割ってとこか」
少なからず時間……つまり酸素を消費してしまったが、仕方ない。
ネクロマンサーとして、あのような惨状は見捨てておけなかった。
私達は死体を操って戦わせるのが本業ではない。むしろその逆、人々の無念に寄り添った慰撫こそが私達の本業。イタコのような仕事が、ネクロマンサーの本懐だ。
あのように、明らかに大量虐殺によって無惨に葬られた人々を、そのままにしておくことはできなかった。
それと同時に納得した。
廃星であるはずのこの星に、白骨化した死体があった理由。
恐らく私と同じように、かつて宇宙海賊か何かに襲われた船の乗員がこの星に捨てられたのだろう。ただ違うのは、その時の下手人たちは人々をただ放逐するだけに終わらせなかった。
鏖にし、適当に掘った穴に埋めて隠蔽を図った。最初の一人は、たまたま、なにかしらの拍子で穴から出てしまった遺体だったのだろう。
無念だったろう。かなりの時間が経過しているにも関わらず、強い思念が宿っていたのも頷ける。
まあ現実問題、酸素の消費は痛いには痛いが、なあに、物は考えようだ。おかげで7体ものスケルトンを確保できた。旅の道連れは多い方がいい。
「よし。じゃあお前達、心当たりがある場所に連れて行ってくれ。このままでは私もお前達の仲間入りをしてしまう」
『…………』
私の命令に、物言わぬスケルトン達は小さく頷くと、背を向けてどこかへと歩き出した。その一糸乱れぬ動きからは、やはり、この星にある何かしらの設備を彼らが知っている事が伺える。
できれば酸素がある場所だといいんだが。
私は希望を抱いて、彼らの跡を追った。
「ここか?」
『ヂュゥ?』
やがて酸素が残り2割になるぐらいまで歩いたところで、スケルトン達は足を止めた。
今更、他のどこかにいく事は酸素の残量的に不可能だ。
ここに何かがなければ、私の命運は決する、のだが……。
「ただの荒野なんだが……」
そう。スケルトン達が案内したのは、見渡す限り何もない、ただの荒野である。建物らしきものどころか、山一つない。
これは、最後の賭けに負けてしまったのだろうか。
縋るようにスケルトン達に目を向けると、彼らは何やら円陣を組み、地面の一か所をじっと見つめている所だった。
スケルトンの一人が、す、と右腕を差し出す。
そういえば、あまり気にしていなかったが。
その手の指には、何やら。指輪のようなものが……。
「……な?!」
指輪が、唐突に緑の光を放った。それに呼応するように、地面もまた輝きだす。ただ光っているのではない、まるでネオンライトのように、光り輝く文字が地面に浮かび、ぐるぐると回っている。
それはまるで、魔法陣のように見えた。
光はどんどん強くなり、私の視界を埋め尽くす。かと思うと、突如としてその輝きは消え失せる。
そして、光の文字が浮かび上がった地面。間違いなく何もない荒地だったその場所には、明らかに扉と思わしき物が存在していた。
スケルトン達がしゃがみこんで、扉を引っ張るようにこじ開ける。
開いた扉の向こうには、地下へと降りる階段のようなものが続いていた。
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