コズミック・ネクロマンサー

SIS

第一章 白の墳墓惑星

第一話 『宇宙の果てでおいてきぼり』


 目の前に広がる、辺境の銀河。


 暗い宇宙の中に、ぽつぽつと星が輝いている。空に浮かぶ星にだって共に輝く相手がいるのに、私はいつも独りぼっち。


「どうしたもんかなあ……」


 私の名前は、アルベール・アフォガード。今となっては自称・船乗りのフリーターである。


 脱力感に苛まれるがままに、茫然と宇宙を見上げる。星の光の中にはもう、飛び去って行った輸送船の光は紛れてもう見えなかった。


「初めての仕事だったのに……」


 途方に暮れながら、私はこれまでの経緯を思い返した。




◆◆




 事の始まりは、就職活動だった。


 バイトで食い繋ぎながら資格を取り、30は送った空白だらけの履歴書に返事が返ってきたのは1週間前の事。


 船員資格を取って初めての就職先。私の最初の仕事は、片道3か月を想定したエナジークリスタルの惑星間輸送船だった。


 拘束時間が長い分、給料もいい。マグロ漁だかタンカー船員のようなもので、その報酬があればこれまでの借金を返済できる。そうすれば私は自由だ、夢のセントラルにだっていく事が出来る。宇宙の中心、華やかなりしセントラル。


 それで、ちょっとした特技を生かして、セントラルのステージで『種も仕掛けもない奇術師』として大成するのが私の夢なのだ。


 ビバ、満面のスポットライト! 向けられる驚嘆の視線とカメラのシャッター! 降り注ぐ札束に、露出の多い格好のエルフのお姉さん! ううーん、考えただけで承認欲求が満たされる。未来はバラ色。


 船の仕事だってそんなに難しくはない。航路もデブリが多いという事もなく、安全は確保されていて、基本的にはベッドと持ち場を往復するだけのイージーな仕事のはずだった。


「まさか雇われた船員の殆どが海賊の手のモノだったとは……」


 ある意味で効率がいいやり方ではある。船員がごっそり自分達の手の者なら、物資の強奪なんて簡単に出来る。人的被害も出さず、物資をごっそり奪った後で適当に口裏を合わせて「海賊に襲撃されたが、大人しく従う事で船と命だけは守った」とでも言えば万々歳だ。証拠はどこにも残らない。


 いや、下手したら船の運営側もグルかもしれない。なんせ海賊の襲撃ならば保険金が降りる。


 海賊は手を汚さず物資が手に入る。船の運営側は保険金で儲かる。両者万々歳である。


 そこにたまたま巻き込まれた私を除けば。


 そして、今に至る、という訳である。


 改めて状況を確認し、ふかーい溜息がヘルメットの内側を曇らせた。


「なんで俺だけ……」


 いや、おかしいとは思ったんだよ。この手の長期事業は、寿命のやたら長いエルフが就いてる事が多い。なのに、同僚は私と同じ短命人種ばかりだった。その時点で気が付くべきだった、というのは流石に後公明か。


 海賊船が近づいてきたので慌ててブリッジに報告したら、普通に他の船員が接舷作業を進めていたのは吃驚だった。


 その後即座に銃を向けられたのはもっと吃驚したけど……いや吃驚していたのはあちらもだったけどさ。


 そして私は選択を迫られた。


 このまま自分達の仲間になって海賊として生きるか。あるいは、船をここで降りるか。


 残念ながら、拘束して後で開放する、というのは許してもらえなかった。彼らの犯罪は、完全犯罪だからこそ成立する。一人でも証言者が居れば、手口がバレて広まってしまう。そうなれば同じ手は二度と使えない。


 デッドオアアライブ。


 それに対して、私が選んだのは……否だった。


 その結果、たまたま近くにあった廃星へこうして置き去りにされた訳である。


 多少の苦労は受け入れるっつったけどこれは多少じゃないんだよ、畜生。


「まあ自分で選んだんだから仕方ないんだけどさ……」


 途方に暮れていると、宇宙服の中でもぞもぞ、と何かが動く気配。


 やがて私の宇宙服の中を這いあがって、ヘルメットの中に小さな存在が顔をだした。


 よく磨かれた白い骨。骨格だけのネズミが、ぷはぁ、という動きでもぞもぞと這いだし。私の首に身を預けた。


『ヂュウ』


「ああ、相棒。どうやら今生もろくでもない事になりそうだぞ」


 いつまでもここでぼおっとしても仕方ない。少しずつ減っていく酸素の残量を確認し、私は最後の希望を求めて、空気もない荒れ果てた茶色い星の地表を、ぼつぼつと歩き始めた。


 銃殺や漂流刑にしなかったのは、海賊としてもあまりに不運な闖入者に対する最後の情けだったのだろうか。彼らの心情は分からないが、これを最後のチャンスと見るか、無意味に生きながらえさせるだけの拷問とみるかは人によるだろう。


 私は勿論、チャンスと見た。


 ここまで絶体絶命の状況なら、生きてるだけでめっけもん。心臓の鼓動が続く限りラッキーマンだ。これまでの人生でも抱いた事のない前向きな気持ちで、星の地表を歩く。


 相棒が、ヘルメットの中で優しく慰めるように頬を撫でてくれた。


『ヂュヂュ』


「希望は、ある。廃星といえど、この星は月ぐらいある。そんだけあれば、壊れた宇宙線とか、そういうのが墜落している可能性はある。オキシゲンジェネレーターとか、通信機とか、そういうのが転がっていればワンチャン、救助だって期待できる。駄目で元々、期待せずに探してみよう」


 いかん。


 希望を抱いたつもりが、口にしたらなんか急に詭弁が際立ってきたぞ。


 目の前に広がるのは、人工物の一切見えない荒地の地平線。それに対し、私に残された酸素はそう多くはない。


 理屈で考えて、これだけ広い地平線、隅から隅まで探すのは不可能だ。酸素が到底足りはしない。


 一か八か、これと決めて向かった先に何かあるに懸けるしかない。


 そして思い返してみれば、私は運に恵まれていない。


「ははは……どうしよ。今生も、結局こんな感じで終わるのか……最短記録じゃね? ははは……ぐすっ、はは……おわぁ!?」


『ヂュッ!?』


 そんな風に涙と鼻水をすすりながら歩いていたのがよくなかった。


 脚を引きずるように歩く私は、地面の起伏にひっかかって転倒してしまった。


 ヘルメットの中でシェイクされた相棒が抗議の声を上げてくる。


『ヂュウ! ヂュヂュゥ!!』


「悪い、悪い……。くっそ、地面にまで馬鹿にされてる気分だ。……ん?」


 重たい宇宙服のせいで思うように立ち上がれずに四苦八苦し、ようやく立ち上がった私は悪態と共に地面を見下ろす。


 そこで私は、ようやく、自分をひっかけたのがなんであったかを理解した。


 くすんだ白。ぽっかりと穿たれた眼窩。不揃いの欠けた歯列。


 それは、人骨であった。恐らくであるが。


 地面にほぼ埋まっていたそれの頬骨に、私は足をひっかけたらしい。その拍子に地面が掘り起こされ、哀れな遺骨がその姿をさらしていた。


 かつてこの星に住んでいた者か。あるいは、私と同じように捨てられた漂流者の成れの果てか。


 普通であれば、自らの未来を想起させる姿に恐れや絶望を抱くのであろう。


 しかし、私にとってこれは福音だった。


 しめた。


 これで、何とかなるかもしれない。


 私は期待を込めて、哀れな骸に手をかざした。


「……コール、スケルトン!」





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