第4話:積載最適化、解放!(そして改造沼の入口へ)
◇◇◇
ホシマルが宙港に戻った頃には、ラストリムの空は夕焼け色に染まっていた。
ドックの灯りが点きはじめ、整備用の溶接光がぱちぱち瞬く。辺境の夜は、やけに賑やかだ。
「いや〜、初仕事でボーナスまで付くとか、俺…持ってる?」
シグは浮かれた声で言いながら、すぐ自分にツッコむ。
「いや持ってない。現実の俺は腰痛持ちの五十歳だ。調子乗るな俺」
「現実の話すんな。テンション下がる」
エミーが即座に切り捨てた。整備服の袖をまくり、工具箱をホシマルの床に置く。
「ひどっ!? 加入初日で!?」
「辺境は優しさだけじゃ生き残れない。はい、船長。座って」
「なに、取り調べ?」
「点検。今日みたいな抜け方すると、固定が甘いとすぐ地獄見る」
ミラが静かに補足する。
「本日の航行データを解析します。貨物安定率が平均を上回りました」
「でしょ! 先生が優秀だから!」
「先生言うなって言ったよね?」
エミーがニヤッとする。
「…まあ、悪くない。船長も、素直に聞くし」
その瞬間、視界の端に小さな通知が浮かんだ。
――スキル解放:積載最適化 Lv1
――効果:貨物安定率 +
燃費補正 +
破損率 -
「うおっ、出た! スキル解放!」
シグは椅子から半分立ち上がった。
「やっぱりさっきの“積み方講座”、実績扱いだったんだ!」
「実績って言うな」
エミーが肩をすくめる。
「でもまあ…船長、これで一人前の“積める運び屋”の入口だね」
「入口って言い方が怖いんだけど」
「沼の入口でもある」
「やっぱり!?」
ミラが淡々と続ける。
「次の段階には、実航海での経験が必要です」
「経験って言葉、急に重いな!」
シグは笑いながら深呼吸した。
「よし。経験値稼ぐ。辺境は授業だもんな!」
エミーが掲示板の方を顎で示す。
「じゃ、次の依頼見に行く。稼がないと改造もできない」
「改造! 来た! 改造って言葉だけでテンション上がる!」
「船長、単純だね」
「俺は単純だから成り上がれるんだよ!」
三人――いや、二人+AIは掲示板へ向かった。
そこにはさっきより少し“匂いの濃い”依頼が貼られている。
――《緊急》
医療物資輸送/ラストリム→前哨基地
《スパー・アウトポスト》
――報酬:300,000クレジット
――条件:期限12時間/航路に電離嵐
(イオンストーム)あり
――備考:到着遅延は重大ペナルティ
「三十万!?」
シグは目を丸くした。
「さっきの十倍じゃん。急に飛ぶな!」
エミーは依頼文を指でトントン叩く。
「緊急医療。辺境じゃ“遅れたら死ぬ”系。報酬が高いのはそういうこと」
「やめて、急に現実持ち込まないで! 俺、まだ青春してる!」
「青春してても人は死ぬ」
「うわ、先生の言葉重い!」
「先生言うな」
ミラが依頼の補足を表示する。
「電離嵐区域では、センサー誤作動、推進系の負荷増大が予測されます」
シグが喉を鳴らした。
「…つまり、難しい。でも、できたらカッコいい」
エミーが即答する。
「できる。改造すればね」
「改造きたぁ!」
シグは拳を握った。
「俺、改造って言葉好き! 船いじりたい! でも金もいる!」
「だから仕事。で、この仕事取れば改造費が出る。でも今のホシマルだと、嵐で冷却がキツい」
エミーはあっさり言い切った。
「つまり先に“最低限の改造”が必要」
「仕事受けるために改造が必要で、改造するために仕事が必要…」
シグは頭を抱えた。
「循環してない? 宇宙ってそうなの?」
「人生だよ」
「人生なの!? ゲームじゃなくて!?」
エミーは笑って、次の張り紙を剥がした。
――ジャンク市:中古パーツ大量入荷
(本日限定)
「運がいい。今日、ジャンク市」
「うわ、絶対イベントじゃん!」
ミラが静かに訂正する。
「イベントです」
「ほら!」
ジャンク市は、ドック街の奥で開かれていた。
金属板を並べただけの屋台に、スラスター、配線、冷却材、謎のコイル…とにかく何でもある。
怪しい笑顔の商人が、怪しい値札を付けている。
「ここ、現実で言うと…工具屋と中古車屋と闇市が合体した感じだな」
「大体合ってる」
エミーが即答した。
彼女は迷いなく一つのユニットを掴む。
「これ。補助冷却ポンプ。型落ちだけど使える」
商人が笑う。
「お嬢さん、目がいい。これはなかなか…」
「いくら」
「200,000」
「高い。80,000」
「半額以下じゃねぇか!」
「辺境は値切ってナンボ」
「それはそう!」
シグが妙に納得して頷く。
結局、エミーの交渉で、冷却ポンプと耐電離フィルターが“それっぽい値段”に収まった。
シグは支払いながら震える。
「金が…減る…減るのが早い…!」
「船長、顔が青い。酸素吸って」
「宇宙じゃないのに!?」
ホシマルに戻ると、エミーは即作業に入った。
工具が鳴り、パネルが外され、配線が繋がれる。
ミラが作業手順を表示し、時々、的確に補助する。
「ミラ、君…整備もできるのか」
「支援可能です」
「万能すぎない?」
「船長、今さら。AIは便利」
エミーが言って、ふっと笑う。
「でも“最後の勘”は人間の仕事」
作業が終わる頃、船内の表示が切り替わった。
――改造完了:補助冷却ポンプ/耐電離フィルター
――嵐耐性:上昇
――燃費:微改善
「おおお! 数字が上がった!」
シグは子どもみたいに喜んだ。
「俺たち、今…宇宙船育ててる!」
エミーが肩をすくめる。
「育ててるんじゃなくて、生き延びるために整えてる」
「言い方が急に硬派!」
「辺境はそういう場所」
「…嫌いじゃない」
ミラが依頼のタイマーを表示する。
「期限まで残り:11時間02分」
「よし! 受けよう!」
シグは端末で依頼を確定した。
――クエスト受諾:医療物資輸送
(スパー・アウトポスト)
エミーが貨物室へ向かい、指示を飛ばす。
「船長、積むよ。積載最適化Lv1、実地試験」
「実地試験って言い方!」
「合格しなきゃ割れ物が割れる」
「それは困る!」
三人で手早く積み込み、固定して、最終チェック。
シグは操縦席に座り、スロットルに手を置いた。
「よし…初の“本気の仕事”だ。ミラ、航路。エミー、積載OK?」
「OK。揺らすなよ、船長」
「任せろ! 俺、現実でも揺らしたら怒られる仕事してきたから!」
「現実の話すんなって」
「はい!」
ホシマルがドックを離れ、星の海へ滑り出す。
前方には、薄青く光る雲の帯――電離嵐の境界が見えた。
「うわ…綺麗だけど、絶対ヤバいやつ」
ミラが静かに言う。
「危険です。ですが、あなたの選択です」
シグはニヤッと笑った。
「だよな。俺が選んだ。だから――行く!」
そのとき、視界の隅に、ほんの一瞬だけ小さな文字が点滅した。
――
(フルダイブ体験ログを記録中)
※体験ログ=感覚・判断・選択の履歴
もちろんシグは気づかない。
今の彼の胸を満たしているのは、恐怖じゃない。
ワクワクと、仲間と、宇宙の広さだ。
「よし、青春! 突入だぁ!」
ホシマルは、青い嵐へ向かって加速した。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
物語は、まだ続きます。
次話、「第5話:青い嵐を抜けろ!――運び屋は揺らさない」です。
現在連載中の長編ダークファンタジー
『人間を捨てた日、異界の扉が開いた』も更新しています。
よろしければ、お読みください。
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