第3話:辺境の積み方講座(そして仲間が増える)



 ◇◇◇


 港町ラストリムのドック街は、

 油と金属と屋台の香辛料が混ざって、鼻の奥がちょっとだけ幸せになる匂いがした。


「いや〜、いいねぇ。ごちゃごちゃしてるほど落ち着くって、もう俺、立派な辺境民じゃん」


 シグは一人で頷き、すぐ自分にツッコむ。


「まだ到着して十分も経ってないのに何言ってんだ俺!」


 隣でミラが淡々と答える。


「到着から七分三十二秒です」


「細かいっ!」


「最初は短距離の輸送依頼が適しています」


「だよな! よし、初仕事は“運び屋らしく”いく!」


 シグが選んだのは、食料品の短距離輸送。割れ物あり。

 倉庫で箱を受け取り、ホシマルの貨物室に積み始めた。


「よし、詰める! 詰めれば勝ち!」


 勢いで積んで、満足そうに手を叩く。


 その瞬間――背後から、やけにハッキリした声が飛んできた。


「ちょっと、船長。あんたの船、酔う」


 振り向くと、整備服の女性が腕を組んで立っていた。


 二十代後半。髪をラフにまとめ、頬にうっすら油汚れ。目が強い。


 でも笑うと一気に親しみが出るタイプだ。


「え、俺? 俺の船、船酔いするタイプ!?」


「違う違う。船が酔うんじゃない。乗るヤツが酔う。揺れるって意味」


 女性は積み荷を一瞬で見て、即断する。


「その船、積めるけど――積み方が下手」


「うっ……初対面で刺すのやめて! まだ初日なんですけど!」


「初日でこれなら伸びしろあるじゃん」


 彼女はニッと笑った。


「エミー・ロウウェル。整備士。あと物流も見る。……見てて怖いから言うけど、積載ってのは“腕”なの。操縦じゃない」


 ミラが小声で囁く。


「整備士です。運び屋との相性が良好です」


「急にシステムみたいに言うな!」


 視界の隅に通知が出た。


――イベント発生:『辺境の整備士』


――エミー・ロウウェルが“助言”を提示しています。


「来たぁ……! やっぱりイベントあるじゃん!」


 シグは思わず拳を握った。


「よし、銀河。俺の冒険、いよいよ始まったな!」


 ミラは静かに微笑んだ。


 エミーが工具箱を軽く叩いて言う。


「直してやる。五分で。……その代わり、授業料は払ってね?」


「授業料!? 学校なのここ!?」


「辺境は全部、授業だよ。命も金も」


 シグは笑って頷いた。


「よし。俺、学ぶ! だって成り上がるから!」


 エミーが口元を緩める。


「言うじゃん。じゃ、始めよっか、船長」


「まずは仕事。辺境は遊ぶ前に稼ぐ。基本ね」


「耳が痛い! でも正論!」


 二人は掲示板の依頼へ戻る。


 護衛、採掘、修理、配達……“何でもクエスト”が並んでいる。


 エミーは一枚つまんだ。


――食料品の短距離輸送

       港→居住区ブロックD


――報酬:30,000クレジット

     (割れ物あり)


「いい! 初仕事にちょうどいい!」


「割れ物あるから、さっきの続きね。積み方、復習」


「うっ……先生!」


 倉庫で受け取った箱をホシマルの貨物室へ運ぶ。

 シグは張り切って並べようとするが、エミーが即止めた。


「船長、右に寄せすぎ。重心が偏ると加速でズレる。ズレたら割れる。割れたら怒られる。怒られたら減額。減額されたら船長が泣く」


「泣く未来まで見ないで!?」


「見える。辺境だから」


 エミーは手際よく箱を組み直し、固定バンドを一気に締める。

 ミラの表示が出た。


――貨物安定率:上昇/操縦補正:改善


「積み方で操縦まで良くなるの、ズルくない?」


「ズルじゃない。技術」


「かっけぇ……」


 出航して十分。居住区ブロックDへ向かう航路で、前方に小型艇が一隻、ふらっと割り込んできた。

 

通信が入る。


『おい新造船。通行料、置いてけ』


「うわ、出た! これが辺境!」


 シグはテンションが上がりかけて、すぐ自分を叱る。


「いや違う、落ち着け俺。初仕事は“配達”!」


 エミーが低い声で言う。


「相手、海賊未満のチンピラ。撃つほどじゃないけど、放っとくと面倒」


 ミラが続ける。


「迂回航路を提示します。燃料消費は増えます」


「燃料増えるのは嫌だなぁ……」


 シグは操縦桿を握り直し、笑って言った。


「よし。じゃあ“運び屋らしく”いこう。ミラ、迂回じゃなくて、スレスレを抜けるやつ!」


「危険です」


「危険はちょっとだけ、楽しい!」


「船長、性格出たね」


 エミーが呆れつつ笑う。


 ホシマルは小型艇の横を、ギリギリで抜けた。


 相手が慌てて追うが、重心が整った船は揺れない。加速が気持ちいい。


「うおおっ! 俺、今、宇宙で運転してる!」


「いいけど調子乗るな!」


「はい先生!」


 居住区に到着し、割れ物も無傷で引き渡し完了。

 端末が鳴る。


――報酬:30,000クレジット


――追加ボーナス:10,000クレジット

         (無破損 )


「やった! 無破損ボーナス! 先生のおかげ!」


「先生言うな。……でも悪くない響き」


 エミーは口元を緩めた。


 帰り道、エミーがふっと真面目な顔になる。


「船長。あんた、いい。勢いはあるけど、根が善人だ。辺境じゃそれ、武器になる」


「え、褒められてる?」


「褒めてる。だから提案」


 彼女は工具箱を軽く叩いた。


「私、乗る。整備と積載、面倒見る。報酬は歩合。あと……甘いもの、たまに奢れ」


「最後かわいくない!?」


「必要経費」


 ミラが通知を表示する。


――イベント更新:『辺境の整備士』


――仲間加入:エミー・ロウウェル

       (整備/物流)


 シグは笑って手を差し出した。


「よし、決まり! エミー、これからよろしく! 俺たち、辺境から成り上がるぞ!」


 エミーはその手を握り返し、ニッと笑った。


「まずは借金しないこと。船長」


「いきなり現実的!」


 ホシマルは夕焼け色の宙港へ戻っていく。

 シグは胸の奥が、妙にあったかくなるのを感じた。


「……仲間って、いいな」


 ミラが静かに答える。


「はい、シグ。あなたの旅は、加速しています」





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 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 物語は、まだ続きます。


 次話、「第4話:積載最適化、解放!(そして改造沼の入口へ)」です。


 現在連載中の長編ダークファンタジー

『人間を捨てた日、異界の扉が開いた』も更新しています。

 よろしければ、お読みください。

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