1 シン11歳
うだるような暑さの中、その日も朝からゴミの山を歩いてまわって集めた、魔石の欠片、回復薬の残りカス。一日の終わりにスラムの子供たちが顔役のガズブの前に行儀よく一列に並ぶ。その日の戦利品を順々に差し出していく。
代わりにもらえるのは半分腐った肉と野菜を煮込んだスープ一杯だけ。けれど、それはスラムの子らにとって飢えから逃れる唯一の生命線。
しかし今日のシンの顔色は明るかった。いつもの魔石に加えて、最後にポケットから取り出した一本のナイフ。高価そうな装飾付き。ゴミの中で、一等の宝くじのように僅かな確率でめぐり合う値打ちもの。
そのナイフを受け取ったガズブ親分は満足そうに頷いて、
「特別報酬だ」とシンに銅貨を一枚手渡した。
「このナイフが銅貨たった一枚?」 怒りというより驚きでガズブを見上げたシンの表情が反抗的と映ったのだろう。隣にいたガズブの弟ズロの拳がいきなりシンの顔面に突き刺さって、やせ細ったシンは吹き飛ばされた。
「ちょっと金目の物を見つけたからって、すぐに欲をかきやがって」 うそぶくズロ。
気を失ったシンを同じようにやせ細った妹のフロウが背負い引きずり、二人は逃げるように寝床に帰った。
翌日の朝。崩れかかった家屋。ズキズキする頭の痛みでシンは目を覚ました。心配そうに覗き込むフロウ。スラムで生きていると時々に降りかかるお馴染みの災難。しかし今その痛みがシンの頭の奥底に封じ込まれていた記憶を呼び起こしていた。
異世界転生。日本人だった俺『大野慎二』はこの剣と魔法の世界に生まれ変わったんだった。
頭に流れ込んでくる前世の記憶は殴られた痛み以上の頭痛を生んで、シンはその場にうずくまった。
そのまま十分ほど経っただろうか。
「大丈夫? シチューを食べたら? 元気が出るよ」 フロウがお椀を差し出してくる。ゴミ漁りの報酬のスープとは段違い、美味しそうな匂い、分厚い肉と新鮮な野菜がゴロゴロ入っている。貪り食うシン。
「このシチューは?」
「ミミが持ってきてくれた。怪我の具合を心配してた」
ちょうどその時、シンとフロウの寝床にそのミミとサンシが入ってきた。ミミとサンシはスラムのお隣さん。ミミが妹でサンシが兄。仲の良い実の兄妹だった。そしてシンとフロウと同じく孤児。シンとサンシが同年代で、日本で言えば小学生の高学年くらい。フロウとミミが小学生の低学年くらい。
「何とか大丈夫そうだな」 皆と同じようにやせ細っているが大柄で骨太のサンシが少し屈んでシンの顔を覗いた。
「シチュー、ありがとね、ミミ、とても美味しかった」 シンの言葉に黙って頷くミミ。ミミは話すことが出来なかった。少なくともシンはミミが言葉を発するのを聞いたことが無かった。
ミミには秘密の友達がいるらしく、時々このシチューをその友達からもらってくる。過去にも、今みたいにミミからシチューをおすそ分けしてもらったことがあった。
「今日はゆっくり休んでな」 サンシとミミはシンとフロウを残していつものゴミ漁りに出かけて行った。
とにかく腹が減った。十分な栄養が取れていないからみんなガリガリにやせ細って、何をするにも十分な体力がない。出来る仕事はゴミ漁りくらい。最悪の悪循環。
――日本人の記憶、転生した時にもらったスキル、スラムで今日まで生き残ってきた経験。それらを組み合わせて腹を一杯にする手立てはないだろうか。
カエルだ。この街では誰も食べない。スラムと暗闇の森の間の川に一杯いる。半信半疑のフロウを連れて川に行く。
祈る思いで、授かったスキルの中で今唯一使えるようになった鑑定眼を発動。河原の石の上で鳴いているカエルに使用。
『鑑定結果、水カエル、食用可、ただし生食不可』
両手一杯にカエルを捕まえて絞め殺し、家に持ち帰った。日本人だった頃のネットのおぼろげな記憶を思い返し、試行錯誤を繰り返して皮を剥いで内臓を取り出した。
鍋で茹でて塩を振りかけ、カエルスープを再度鑑定。『カエルの肉を煮込んだスープ、食用可』 鑑定結果を信じて恐る恐る口に入れる。前世でもカエルの肉なんて食べたことは無い。
「旨い」 シンプルだけど肉のうま味が溢れてる。鶏肉みたいな味。何より体が必要な栄養素を取り込んで喜んでいる。
促されてフロウもカエルの肉を一切れ口にするなり、シンと顔を見合わせた。こぼれ出る笑顔。
二人はあっという間にカエル肉を平らげた。食べ過ぎておなかが一杯で動けない。満腹感なんてこのスラムに生れ落ちて初めての経験だった。
幸せだ。シンの目から自然と涙がこぼれ落ちた。気恥ずかしい気持ちでシンがフロウを見ると、フロウからもまた涙がこぼれ落ちていた。
「お兄ちゃん、ありがとう」
翌日からカエル取りの毎日だった。カエルは取っても取ってもいたし、今まで人間に狩られたことのないカエルは警戒心ゼロだった。正真正銘のブルーオーシャン。
そしてカエルのスープに各種の野草が追加されていった。シンが鑑定眼で調べると、あちこちに食用可能な雑草が生えていた。他のスラムの住民は見向きもしないが。一つ一つ試しながら、カエルスープのレパートリーに加えていった。二人の慢性的な栄養失調はみるみる改善していった。
そんな二人をスラムの住民は憐れむように見守っていた。飢餓に追い詰められた孤児が変なモノを食べて中毒死するのはスラムの日常だった。シン達にとっては貴重な栄養源が独占できるのだから好都合だったが。
次の更新予定
スラムから始まる異世界転生 何の後ろ盾も無い孤児が金級冒険者へ駆け上がる物語 尾張 三郎 @ug-k
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