第22話 お前はそこに入ってはダメだ。

ハードボイルド・セブン

エピソード4.春風

第22話




8月4日 日曜日 午前8時。赤見は玄関の鏡を見ながら身なりを整えた。元々特におしゃれをするタイプではないため、ただ伸びた髪を指で何度か適当にとかした、Tシャツに付いた埃を払う程度だったけど、赤見のそんな姿を初めて見る日光にとっては十分に興味深い光景だった。


「何ですか?どこか重要なところに行くんですか?」


赤見は玄関の柱に寄りかかり、自分を好奇心いっぱいの目で観察している日光にわざと目を合わせず、ぶっきらぼうに答えた。


「昨日か夕食の時に言ったろ。今度の日曜日には喫茶店に行くって。」

「ああ、『春風』?ただの喫茶店なんでしょ。誰と会いますか?隠している恋人?」


はあ、赤美はため息をついた。若い子たちのように外見を意識する自分を見せるのがなぜか恥ずかしかった。しかし、特に派手なおしゃれをすることでもないのに、ただ鏡の前に立っているだけでこんな関心なんて、今まであまり気にしなかったかという危機感も感じた。


より良い印象だといいな、と願ったことはなかったわけではない。特に、日光のように一目で好感を抱かせるイケメンをそばに置くと、外見の重要性を改めて実感させられることもあった。赤見は鏡の中の自分を向かい合った。くぼんだ頬、垂れたクマ、蒼白な顔色。痩せさらばえたロバがこんな姿だろうか。春風の女主人、宇代さんも赤見を見ると、何か食べ物をサービスで追加しようとやきもきしていた。


赤見は鏡を見ながら、乾いた目元をこすった。しかし、そんな関心は嫌いではないなら、ずっと可哀想に見える方がいいかもしれない。そう思った瞬間、赤見は驚いてハッと我に返った。バカか、情けない奴、甘えるな、彼女は……。


「とにかく、行ってくるから、お前も自分の仕事をしろ。」

「何時頃に帰ってくるのですか?」

「8時。」

「えっ、喫茶店に12時間もいるんですか?それとも他の用事でもあるんですか?」

「いや、ない。」


日光は赤見の無表情な顔をしばらく見つめてから尋ねた。


「そんなに長くいるなら、俺も一緒に行っても良いですか?」

「まあ、お前を連れて行けない理由も……。」


そこまで言った赤見は、髪の毛をとかしていた手を突然止めた。


「いや、お前はそこに入ってはダメだ。」


赤見は自分が考えるにも過度に防御的な態度で日光を押し出した。もう少し自然なトーンで言うべきだったという後悔が、赤見の頭を一瞬よぎった。


「え?何でですか?」

「お前は知る必要はない。とにかく行ってくる。」


赤見は急いで靴のかかとを潰して履き、玄関を出た。乱れた髪が首筋を覆う細くやせ細った背中に、日光の鋭い視線がしつこく追いかけていることを少しも気づかないまま。

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