第二十二章 水道屋の遺産
それから、三十五年が過ぎた。
勝男は、八十歳になっていた。
この世界に来た時は四十代の体だったが、今はすっかり老人だ。
白髪。皺だらけの顔。杖をついて歩く。
でも——
目はまだ輝いていた。
「局長」
若い職員が声をかけてきた。
「噴水広場の点検、終わりました」
「異常は?」
「ありません。配管も浄化装置も、正常に稼働しています」
「よし」
勝男は頷いた。
「ご苦労だった」
職員が去った後、勝男は噴水を見つめた。
この広場は、三十年前に作った。
王都で最初の公共水道施設。
今では、何百もの噴水が王国中にある。
全ての都市に上下水道が整備され、疫病はほとんど姿を消した。
人口は三倍に増え、平均寿命は五十年から七十年に伸びた。
「やったな」
勝男は呟いた。
「俺の仕事は——」
「師匠」
後ろから声がした。
振り返ると、リーゼがいた。
彼女も、もう五十代だ。
でも、まだまだ元気で——
二十年前から、王国水道局の局長を務めている。
「何してるの、こんなところで」
「水を見てた」
「また? 毎日見てるじゃない」
「毎日見ても、飽きないからな」
二人は並んで、噴水を見つめた。
「今日で、最後の地方都市の水道が完成したわ」
「そうか」
「あなたが始めた計画が、四十年かけてようやく——」
「四十年か」
勝男は笑った。
「長かったな」
「でも、終わった」
「いや」
勝男は首を振った。
「終わりじゃない」
「え?」
「水道は、作ったら終わりじゃない。維持し続けなきゃいけない。これからが、本当の仕事だ」
リーゼは溜め息をついた。
「あなたは、本当に——」
「なんだ」
「変わらないわね。四十年前から、全然」
「水道屋は、そういうものだ」
勝男は噴水に手を伸ばした。
水が、指先に触れる。
冷たい。清らか。
「水は命だ」
勝男は呟いた。
「清潔な水がなければ、人は死ぬ。でも、清潔な水があれば——」
「人は生きられる」
リーゼが続けた。
「知ってるわ。あなたが、何百回も言ってきたから」
「そうか」
勝男は微笑んだ。
「なら、俺の仕事は終わりだな」
「師匠?」
勝男は、ゆっくりとベンチに腰を下ろした。
「疲れた」
「大丈夫? 医者を——」
「いい」
勝男は首を振った。
「ここで休む。少しだけ——」
目を閉じた。
噴水の音が聞こえる。
水が流れる音。
四十年間、ずっと聴いてきた音。
「師匠……?」
リーゼの声が、遠くなっていく。
でも——
水の音は、聞こえていた。
最後まで。
*
田所勝男は、王国暦五十七年、噴水広場のベンチで息を引き取った。
享年八十歳。
王国水道局の創設者として、四十年にわたって国の衛生革命を主導した。
彼の功績により、王国の人口は三倍に増加し、平均寿命は二十年以上伸びた。
「水の聖者」「インフラの父」と呼ばれ、王国史上最も偉大な人物の一人として記録されている。
彼の銅像は、王都の噴水広場に建てられている。
噴水から湧き出る清らかな水を、永遠に見つめ続けている——
*
【エピローグ】
百年後。
王国は大きく発展していた。
蒸気機関が発明され、工場が建ち並び、人々の生活は豊かになっていた。
しかし、変わらないものもあった。
噴水広場。
百年前と同じ場所に、同じ噴水がある。
そして、同じ銅像がある。
「水の聖者」田所勝男。
一人の少年が、銅像を見上げていた。
「おじいちゃん、この人だれ?」
隣にいる老人が答えた。
「水道を作った人だよ」
「すいどう?」
「蛇口をひねると水が出るだろう。あれを、この人が作ったんだ」
「へえ」
少年は不思議そうに銅像を見上げた。
「でも、水が出るのって、当たり前じゃないの?」
老人は笑った。
「そうだな。今は当たり前だ」
噴水から、清らかな水が湧き出している。
「でもな、昔は当たり前じゃなかったんだ。この人が来るまでは」
水の音が、広場に響いている。
百年前と同じ音。
これからも、ずっと——
「当たり前だ。水は、命だからな」
風が吹いた。
銅像の田所勝男が、微笑んでいるように見えた。
〈完〉
Claude は AI のため、誤りを含む可能性があります。回答内容は必ずご確認ください。
水道屋×異世界転生_水道屋、異世界で神と呼ばれる ~配管一本で文明を変えた男の物語~ もしもノベリスト @moshimo_novelist
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