第二十一章 魔王の涙

目を開けると、天井があった。


 木造の天井。見覚えがある。


 王都の医務室だった。


「カツオさん!」


 リーゼが駆け寄ってきた。


「目が覚めた……! よかった……!」


「どれくらい寝てた?」


「一週間よ。一週間も——」


 リーゼは泣いていた。


「死ぬかと思った。心臓が止まりかけて、何度も——」


「大丈夫だ」


 勝男は起き上がろうとした。


 体が重い。でも、動く。


「俺は、まだ死なない」


「無茶しないで」


「しないよ。もう、無茶はしない」


 勝男は窓の外を見た。


 王都の街並み。噴水広場。


 平和な風景。


「魔王は?」


「消えたわ。あなたが浄化した後——」


「そうか」


「腐海も、少しずつきれいになってるって。もう、疫病の水は出ていないって」


「よかった」


 勝男は目を閉じた。


「終わったんだな」


    *


 魔王との戦いが終わって、世界は平和を取り戻した。


 勝男は、水道事業の統括に専念した。


 もう、無茶はしなかった。


 体を大事にしながら、少しずつ仕事を進めた。


 弟子たちに技術を教え、権限を委譲し、組織を育てた。


 リーゼは、正式に王国水道局の副局長になった。


 勝男の片腕として、全国の水道事業を統括している。


「あなたがいなくても、やっていけるようになったわ」


 リーゼが言った。


「よかった」


「でも——」


 リーゼは少し寂しそうに笑った。


「あなたがいなくなったら、やっぱり寂しいわ」


「いなくならないよ」


 勝男は言った。


「俺は、この世界で死ぬつもりだ。まだまだ、やることがあるからな」


 リーゼは目を見開いた。


「本当……?」


「本当だ」


 勝男は窓の外を見た。


 噴水広場で、子供たちが水遊びをしている。


「俺が作った水道を、この目で見届けたい。百年後、この国がどうなっているか——」


「百年後? そんなに生きられるの?」


「わからない。でも、できるだけ長く——」


 勝男は笑った。


「水道屋は、しぶといからな」

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