第十九章 魔王の正体
光の中で、魔王は叫んだ。
「やめろ! 私を——私を浄化しようとしているのか!」
「違う」
勝男は力を込め続けた。
「お前を殺そうとしているんじゃない。お前の中にある、汚れを取り除こうとしているんだ」
「汚れ……?」
「お前の悲しみ。絶望。怒り。それが、お前を腐らせている」
光が強くなる。
魔王の体から、黒い靄が立ち上り始めた。
「千年間、お前は自分を腐らせ続けてきた。でも——」
勝男は苦しそうに言った。スキルの過剰使用で、体が悲鳴を上げている。
「本当のお前は、まだ生きている。清らかな水を愛していた、本当のお前が——」
「私は……」
魔王の声が、変わり始めた。
低く恐ろしい声から——
悲痛な、人間の声へ。
「私は……ただ……」
黒い鎧が、ひび割れていく。
その下から現れたのは——
人間の姿だった。
若い男。端正な顔立ち。
しかし、その目には——
千年分の悲しみが宿っていた。
「私は……守りたかっただけだ……」
彼は崩れ落ちた。
「清らかな水を……愛する者たちを……」
「わかっている」
勝男も膝をついた。
体力が限界だった。
「お前は、悪じゃなかった。ただ——絶望しただけだ」
「田所勝男……」
魔王——かつて水の守護者だった男は、勝男を見上げた。
「私を……許してくれるのか」
「許すも何も」
勝男は苦笑した。
「俺も、同じようなものだ。水を愛しすぎて、周りが見えなくなる。それが、水道屋の性分だ」
魔王は——
笑った。
千年ぶりの、笑顔だった。
「ありがとう……」
彼の体が、光り始めた。
「私は、もう疲れた。千年は……長すぎた」
「待ってくれ」
「いいんだ。私の時代は、とうに終わっている」
魔王は目を閉じた。
「後は……お前に任せる。水を……守ってくれ……」
光が強くなる。
そして——
魔王の体は、透明な水に変わって——
消えた。
*
腐海が、変わり始めていた。
黒く濁っていた水が、少しずつ透明になっていく。
「魔王が消えた……」
リーゼが呟いた。
「カツオさん、大丈夫……? カツオさん!」
勝男は、意識を失っていた。
スキルを使いすぎた。
体が、もう動かない。
「騎士団長、助けて! カツオさんが——」
遠くで、リーゼの声が聞こえる。
でも、勝男は——
もう、動けなかった。
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