第十四章 神殿との対決

籠城戦は一ヶ月続いた。


 勝男の浄水プラントのおかげで、城内の水は確保された。


 士気を取り戻した守備隊は、魔王軍の攻撃を何度も撃退した。


 そして——


 王国軍の援軍が到着した。


 魔王軍は包囲を解いて撤退。


 ノルデンブルクは、奇跡的に救われた。


「田所殿のおかげだ」


 城主は勝男の手を握りしめた。


「あなたがいなければ、我々は全滅していた」


「俺は水を守っただけです。戦ったのは皆さんです」


 勝男は謙遜した。


 しかし、城内の誰もがそうは思っていなかった。


 彼らにとって、勝男は「水の聖者」だった。


 魔王の呪いから彼らを救った、奇跡の人。


    *


 王都に戻った勝男を、新たな問題が待っていた。


「大神殿が、再び動いています」


 王の側近が報告した。


「カルディナス大神官が、魔王との戦いに乗じて権力を取り戻そうとしています」


「何をしている」


「『魔王は神罰である』と説教しています。人々が水道を使うようになったことで、神の怒りを買ったのだと」


 勝男は顔をしかめた。


「馬鹿な」


「しかし、民衆の一部は信じています。魔王軍の攻撃が続く中、神殿への寄進が増えているそうです」


 王は溜め息をついた。


「戦争の最中に、内紛か……」


「陛下」


 勝男が言った。


「俺に任せてください」


「任せる? どうするつもりだ」


「カルディナスと話をします。神殿と水道局が対立していては、魔王との戦いに集中できません」


 王は眉をひそめた。


「危険だぞ。カルディナスはお主を恨んでいる」


「だからこそ、俺が行かないと」


 勝男は王の目を見つめた。


「神殿と水道は、対立するものじゃありません。どちらも、人々の生活を支えるためにある。それを、カルディナスに理解してもらいたい」


 王はしばらく考え込んだ。


「……わかった。だが、護衛はつけろ」


    *


 大神殿は、王都の中心にあった。


 白い石造りの巨大な建物。金色の屋根。


 勝男は、その正門をくぐった。


「田所勝男か」


 カルディナス大神官は、神殿の奥にある執務室で待っていた。


 白い法衣。長い髭。そして——


 憎悪に満ちた目。


「よく来たな、異端者」


「異端者じゃありません。王に認められた、王国水道局局長です」


「ふん」


 カルディナスは鼻で笑った。


「王の気まぐれなど、神の前では無意味だ」


「話をしに来ました」


 勝男は平静を保って言った。


「魔王との戦いで、私たちは力を合わせるべきです」


「力を合わせる? 汝と?」


 カルディナスは立ち上がった。


「汝は神殿の権威を侮辱した。聖なる水の神聖性を否定した。そんな者と、どうやって力を合わせろと——」


「神を否定したことはありません」


 勝男は遮った。


「俺は、水を綺麗にしただけです。神が与えた水を、正しく使う方法を教えただけです」


「詭弁だ」


「違います」


 勝男は一歩前に出た。


「神殿は、人々に祈りを教えてきた。それは大切なことです。しかし、祈りだけでは疫病は止まらない」


「——」


「俺の技術は、祈りの代わりではありません。祈りを補うものです。心の平安は神殿が与え、体の健康は水道が与える。両方あって初めて、人は幸せになれる」


 カルディナスは黙った。


「大神官殿。あなたは本当に、人々の幸せを願っているのですか? それとも、神殿の権力を守りたいだけですか?」


「黙れ!」


 カルディナスが叫んだ。


「汝ごときに——汝ごときに、神殿を侮辱されるいわれはない!」


「侮辱してません。質問しているだけです」


 勝男は静かに言った。


「魔王が来ています。人々は死んでいます。こんな時に、私たちが争っている場合ですか?」


 カルディナスは拳を震わせていた。


「……出ていけ」


「大神官殿」


「出ていけと言っている!」


 話し合いは決裂した。


 勝男は神殿を後にした。


 門を出る時、背後からカルディナスの声が聞こえた。


「忘れるな、田所勝男。いつか必ず、汝を裁く日が来る」


 勝男は振り返らなかった。


 しかし、心の中では——


 いつか、カルディナスと分かり合える日が来ると信じていた。


 それがいつになるかは、わからなかったが。

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