執筆11

 私が小説を書く理由って何だと思いますか。たまに思うんです。最近に限らず、あの当時から。もちろん、小説を書くのは好きですよ。素直に認めます。今さらそこを否定するつもりはありません。先生の言う通り、それが私なんだと思います。でも、私の場合、それだけじゃないと思うんです。だって、それだけなら私がこんなに苦しい理由がないですから。じゃあなんなのかと聞かれると難しいのですが、それは私がわずかに持ち合わせていた、愛だとか善意だとか、そういう温かさなんじゃないかと思います。

 あの時した問答を覚えていますか。先生は私に誰かを救う小説を書くことができると断言し、私はそれを否定しました。今でもそう思ってます。でも、よく考えたら論点が違ったんです。私も先生も。根本的な話で、私はそもそも、誰かのために物語を書いていないのです。私は、どうしようもなく救いのない、先生と、その生徒のためにしか書いていないんです。先生もそれに関しては勘づいていたと思います。だから「誰か」が救われることはなくて、救える人がいたとしたら、それはどうしようもなく救いのない、私たちだけなんです。それを考えたくない私と先生が、現実から逃げるために、誰のために、ではなく何を、で会話をしていたんだと、勝手に思います。

もしそうなら、私たちはやっぱり生きる理由に依存していたんです。私は先生のくれた生きる理由に。先生は自身に課した生きる理由に。それぞれ依存して、縛られて、でも私はどこかで、私たちも救われるんじゃないかと思っていたんだと考えたくなります。そしてそれは、先生は知らなくて、私ですら知らなかった、私の話になるんです。考えすぎですか?でも、考えすぎたくもなりませんか。だってこれが、私たちの起源なんですから。先生が私について考えすぎてくれたくらいに、私も私と先生について、考えすぎくらいのありかたでいたいのです。だから、思うのです。私が小説を書く理由が、何なのか。先生から言わせたらそれは私のことで、もし好き以外の理由があったのなら、それは私にしかわからないよと笑うんですかね。

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