第8話
「……」
「……」
「……」
「……」
「おい」
〈なに?〉
「なに? じゃねえよ、人が肚くくってんのに。とっとと俺を乗っ取ればい――」
〈乗っ取らないよ〉
と、幻影の少年は私の目を見た。
少年の目に映る私の目、に映る少年の目。
合わせ鏡のように、そこには無数の私たちの世界が並んでいた。
「は? 今更なんだよ、オイ」
私は純粋な疑問を呈した。このダンジョンは、自らのダンジョンの中を探求すべくアバターというか、検査ゴーレム的なものを探し求めていたはずだ。
そして私の肉体がその有難い役目を仰せつかることになり、そしてすべてをダンジョンに奪い取られ、ダンジョン体内を徘徊しはじめる予定だったのだが。
ダンジョンは私の肩に手を置いた。実体がないはずのに触られている感覚がある。触覚領域までハッキングされているらしいが今更驚くものか。
〈だって、もっと色々食べたいもの。いろんな味を知りたいもの〉
ダンジョンは言った。
「おい、理由って、それだけか?」
〈うん。変かな?〉
「変だ」と私が言いきれないことも分かって言っているのだろうか。
〈しばらくはお姉ちゃんについてって、いろんなおいしいもの食べて! お姉ちゃんのお仕事も無事終了! になったらお姉ちゃんの身体をもらうね〉
「あ、そういうやつ?」
解放してくれるわけではなく、むしろ執行猶予が付いたということらしい。圧倒的強者ゆうえの傲慢すぎる振る舞いに一瞬身体温度が上昇しかけたが、しかし私にも、大きな広がりを見せつつあった食味の世界をもう少し堪能できればという未練があった。
賛同しない手はない。
「俺は輸送の仕事を続けるぞ」
〈うん、それは邪魔しない。邪魔しないどころかお姉ちゃんが壊れないようにサポートもしたげるよ〉
「なめんな、オレは『死神』だぞ。俺の周りがどうなろうとも、俺はそう簡単には壊れない」
〈強がっちゃって、カンフーがなかったらどうなってたことか!〉と、ダンジョンはため息をついて、すっと右手を差し出した。
私はその手を握り返す。
〈触覚もハッキングして正解だったな。これからヨロシクね!〉
実体のない幻とは思えない、小さく、柔らかく、そして温かな手だった。
>つづく
輸送ゴーレムの人生最良クッキング with/in ダンジョン ワッショイよしだ @yoshida_oka
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