第6話
両手に重みが戻ってくる。
人間型ゴーレムの手は少しずつ私のみぞおちを押す力だ。
だが、私にさっきまでの焦りはない。
手を動かせないなら――
私は寝転がったまま地面すれすれを薙ぐように足払いし、周囲から私を押さえつけようとしたゴーレムたちを転ばせる。
その回転の力を利用して押さえていた人間型ゴーレムの手をねじり切って地面へと突き刺す。
足を振り上げ、その反動と背中の力で跳ねるように立ち上がり、呆けたようにこちらを見る5体に向けて軽く拳を握った構えをとる。
「カンフーやべえな……これ無敵だろ」
ひるんだ人間型ゴーレムに正面からの突きを2発、2発、もう2発。
これだけ打ち付ければ……と思ったが存外頑丈で、彼は少し後ずさったくらいで機能的な損傷は認められない。
不意に横からゴブリン型がサイドからアッパー気味の拳を繰り出してくる。
リーチが長い。
が、スピードは遅く、止まって見えるほどだ。
軽くいなすつもりで手のひらを出すが、腕が引きちぎれるほどのパワーを受けとめてしまってせいで体が浮き、湖ギリギリまで飛ばされてしまった。
〈お姉ちゃんの基本的な出力が上がったわけじゃないからね。単純な力比べじゃ彼らには勝てないよ。基本動作を応用して、あとは頭使って戦ってね! ファイト!〉
挑発ともとれるダンジョンの言葉はしかし的確であり、私は抗議の言葉を飲み込んで湖水を背面に立ち上がる。
手のひらを上に向けて折り曲げ、敵を挑発する。
無意味な行動だが気分は良いものだ。
ほぼ同時に5体のゴーレムが迫りくる。
彼らをいったん機能不全に陥らせるためには……私の背後にある湖に放り込むのが手っ取り早い。
私たちゴーレムはかなり重く、水中に沈む。かつ水中は著しい能力低下が起こってエーテルの大量消費が見込める上に、躯体が比較的キレイに保存されるため、大破させずに彼らの運用信頼性をゼロにすることができる。
資産としての価値もキープできて弊社弊部署のフトコロも寂しくならない。いちばんいい方法だ。
私は手元に呼び出していた哨戒妖精(すでに多少混乱しているが)を掴み、「目的外利用です! 利用目的外です! 今すぐ解放してください!」とびいびい鳴いているそれを彼らの背後へ放り投げた。
暴走したゴーレムたち全員が同時タイミングで、一瞬妖精に気を取られる。
その隙に私はゴブリン型ゴーレムの腕を掴んで背負うように湖に放り投げる。まず1体目。
次、大降りに振りかぶる巨体のゴーレムの攻撃をかわし、回し蹴り気味に延髄へハイキックを入れてると水中に沈没。これで2体。
私と同じコボルド型のゴーレムが、私の脚をめがけてナイフを連続投擲してきた。(同じコボルトとして機動力を潰そうとする選択は非常に賢明である)私は側転を3回繰り返してギリギリ躱しつつその場を離れ、近くの茂みの中からちょうどいい感じの棒を拾い上げる。長さは私の背と同じくらい。
ぐるぐると体の周りを這わせるように振り回して牽制する(すごく楽しい)。
この棒1本で3体を相手にすべく、今度は私から打って出る。
追い詰めるように高速の突きを連発して浴びせてると、3体はあっという間に水際へ。棒を水平に持ち直してそのまま突き出す。
それが最後の一押しとなり、3体はそのまま湖の中へ――
と、コボルト型が最後の悪あがきと私の手首をつかんで湖へ道づれ――と、そううまくやられるわけがない。
私は湖側へ倒れながらも彼の手首を噛みちぎって外し、手元に残した棒で素早く水面を叩いた。
素早く強く打つことで水面は金属のような感触を返し、その反動で、私の身体は水際ギリギリで立ち上がった。
湖面に立った波が、遠く向こう側へ消えていく。
私以外のゴーレムはいなくなり、吹き抜ける風の音だけがその場に残された。
〈すごいすごい! ほんとにカンフーを使いこなしちゃった! 戦闘用の回路積んでないのにソフトウェアだけでなんとかなるもんだね!〉
と、頭のなかでダンジョンが呑気に喚いている。なんとかならない未来もあったのだろうか。無責任な。まあ自分としても満足の結果ではあるが。
慣れない動きを連発してしまったせいか著しくエーテルを消費してしまっている。
有り体に言うと、めちゃくちゃ腹が減っている。
「……さあ。飯、やるぞ」
と、私は言った。
むしろここからが本番。
私の、最後の晩餐が、ついに始まる――。
>つづく
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