第2話

 目が覚める。

 男は路地裏にいた。通りからは活気ある人の声が聞こえていた。


「ここは……。降りてきた、のか」


 世界情勢の説明など一切なく新たな世界へとやってきた男は、自分の身なりを整えてから恐る恐る路地から出てきた。

 まず聞こえてきたのは八百屋のような葉物、フルーツを扱う店からの客引きの声。

 生地を扱う店からは他所の国から仕入れたであろう異国の物が入荷したと周りに負け地と声を張り上げる。

 行きかう人の身なりは様々だ。どことなく中世のヨーロッパのような街並みに、ドレス、スーツのような人々が多くいる。


「とりあえず、地図か。そういえば……あの猫、ここの通貨とかくれなかったが……」


 渡されたのは刀と扇のみ。路銀は男の記憶では渡されていない。

 はて、と困っていると生地屋の店主が気さくに声をかけてくれた。


「あんたこの辺の人じゃないね!どうだい、シェラザード産の絹織物だ!一級品には負けるが、上等なのが入ってるよ!」


「いや、俺は遠慮しておく。路銀の持ち合わせがないんだ」


 男が申し訳なさそうにいうと、店主は豪快に笑って、


「なんだい、奥さんに怒られたのかい? それならあそこで一勝負やってるよ。やってみたらどうだい? それで勝ったらうちの店に寄っておくれ!」


 店主は酒場の前だろうか、店先にある樽に何人もの男が集まる場所を指さした。セールストークを忘れないところは何とも商売魂が強い。店主に礼を言うと、男はその場所に行ってみた。

 男たちが白熱しあってやっていたのは、腕相撲だった。いかにもな筋肉隆々の男たちがどちらが強いかを競っていた。見ている限り、今のところ一番なのは白髪の男性だった。


「さぁさぁ! 剛腕のジルに挑む奴はいないか?! 今勝てば20ユーロだよ!」


「俺が挑戦してもいいか?」


 男は声を上げる酒場の従業員にそう声をかけた。相手は男の身なりを見てやれやれと首を振りながら、

「あんたに勝てるかな? ジルはここいらじゃ負け知らずなんだぞ」


「何事も挑戦だ。やってみよう」


 ジルは男の腕を見て鼻で笑うと、手を組み、腕相撲が始まる。


 結果として、膝をつきうな垂れるジルと、どよめきたつ観客、路銀を手に入れた何も気にしていない男。という相関図が出来上がった。ジルは起き上がり男に殴りかかろうと拳を振るい、


「力の使い方がなってない」


 そう言われた男に、背負い投げを食らったのだった。


――――――――――――――――


 場面は変わり、とある塔の一角。

 銀の髪に尖った耳の伏目がちの17、8の年の少女は、格子の付いた窓から見える二つの月が彼女の髪を照らしている。

 吐く息は白く、手を赤くさせる。そっと手を重ね、寒さをやわらげながら月を見上げて呟く。

「私の番(つがい)は、どこ……」

 と。

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