仮
蒼縞
第1話
――カタカタカタ…
キーボードを叩く音。窓から差し込むのは月の光。街灯の仄かな光。月も先ほど見たときより高い位置にある。
デスクにはキーボードを挟んで左右に10センチはありそうなファイルが3つずつ。自然とこぼれるため息をついて、自販機で買った缶コーヒーをあおるように飲む。
「うし……、やるか」
目が、止まった。
いつもと変わらないエクセルの画面。だった。
そこにはスクリーンセーバーでもかかったような真っ青な画面に、
【貴方はセカイに呼ばれました。答えますか? YES】
「なんだこれ……。時報に、しちゃ言葉が悪いな。しかも、イエス以外押す場所ねぇし」
時計を見ると時間は正午をとっくに回っていた。
じ、っと画面を見つめる。
いつまで経っても変わらぬ画面。
パソコンは会社のモノだが、立ち上げる際に自分のIDを使うため、他の場所で立ち上げたところで使いものにはならない。
「はぁ。誰だよこんなくだらないことしたやつは……」
自然とため息がでる。
ここで時間を使っていられない。せめて片方のファイルだけでも片づけてしまいたい。
そうして、
男は
【YES】
を、押した。
――――――――――――――――――――
世界は暗転する。
どこが地面で天井かが分からない。
「なんだ……これ」
脳裏によぎるのは、巷で噂の「異世界転生」とかいうモノだ。
「俺、死にかけてたのか…?いやでも、三徹くらいだし……?」
「ヒトはそれでも死ぬのよ~」
男以外のやわらかな声が聞こえた。
「誰だ?」
気づけば男は地面に座っていて、地平線が見える雲河に一人と一匹が、そこにはいた。
それは猫だった。サバ虎柄の猫。しかし、尻尾が二つ。オッドアイのその猫は、彼を見つめていた。そして、
「セカイの神、だよ」
そう、喋った。
「神だぁ……?」
男は髪をぐしゃりと掻く。猫は自分を神だという。現状を見れば、確かに声をかけてくるのは神か女神か、世界の管理者であろうことは想像に苦しくない。の、だが……
「猫、なんだよな。それも蒼い……」
「そちらの世界に合わせただけだよ。さぁ、時間も限られていることだし、簡単に話すね!」
猫はその見た目に反して自然に言葉を使い、説明をした。
「貴方が今から行く世界はね、魔法がとても発達した場所なの。でもそれに驕り、人間たちは魔法を司る精霊たちの悲鳴の声を無視して力を行使している。だからこそ、新たな風が必要と協議した。そこで貴方が選ばれたの」
猫は「簡単でしょ?」とでも言うように尻尾についている鈴をリンと鳴らした。
「だからってなんで俺なんだ……は、言っても仕方ないことか。俺は何をすればいい?」
「見定めてほしい。力を貸すに値するのかどうか。セカイはヒトに祝福を与えていいのかどうか」
「また大層なお願い事だな……。どこまで出来るのか保証はないが……あ。そういえば、こういう展開でお馴染みのギフトとかってもらえたりするのか?」
頬杖をつきながら男は閃いたと言いたげに猫を見つめた。
猫は尻尾を揺らしながらまた鈴を鳴らした。
すると何もない場所から一振りの刀と紫のグラデーションがかかった扇が男の前に降りてきた。
「刀はセカイを切り裂き、扇はセカイを開く。使い方は……追々わかるよ」
男は立ち上がり、腰に刀を、胸元に扇を挿した。気づけば服は白と紺色の道着のようなものに変わっていた。
「さぁ、いってらっしゃい。また、時が来れば声をかけるね」
猫はそう言って、男の目の前に浮かんだかと思うとニャーと、鳴いた。
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