第1話 「悪意のない犯罪」続編

7️⃣【依頼主への報告】


工場の一角。

天城は依頼した男性を呼び、状況を説明していた。


天城

「結論から言います。

書類を外に持ち出したのは――

こちらの工場の人間です」


男性が息を呑む。


男性

「……まさか」


天城は新人の方を見る。


天城

「最近入った方ですね」


新人は、何も言えず俯く。


男性

「……どうして、そんなことを」


天城は、淡々と続ける。


天城

「悪意があったわけじゃない。

前の職場のやり方を“正解”だと思って使った」


「でも、それが外に伝わった」


坂口

「結果として、問題になった」


男性はしばらく黙り込んでから、口を開く。


男性

「……それでも、やったことは事実ですよね」


天城

「はい。罪は罪です」


場の空気が、少し張りつめる。


「全部を背負わせない」と判断


男性は新人の方を見て、深く息を吐いた。


男性

「警察には、相談します」


新人が顔を上げる。


新人

「……」


男性

「でも、あなた一人に

全部を背負わせるつもりはありません」


新人

「え……?」


男性

「管理できなかったのは、こちらの責任でもある」


天城が静かに頷く。


天城

「正直に話してくれたことは、無駄にしません」


新人の目に、涙がにじむ。


新人

「……すみません」


8️⃣【アリバイ】


事務所。

書類と写真が壁一面に貼られている。


坂口

「新人が持ち出した書類、

全部この工場に流れてる」


三好

「しかも、加工されて

“独自ノウハウ”みたいに売られてる」


「完全にアウトじゃん」


天城は静かに言う。


天城

「新人は“入口”でしかない」


相原

「黒は……向こうですね」


天城は頷く。


天城

「警察に話に行こう」


警察に全てを話して

警察が動き始めた。


警察が工場内に入ってくる。


警察官

「全員ここから動かないで!

不正競争防止法違反の疑いで捜索します」


現場が一気にざわつく。


工場責任者

「ちょ、ちょっと待ってください!」


天城

「待たせません」


天城は一歩前に出る。


天城

「書類の流れ、

金の動き、

全部揃ってます」


机の上に証拠が並べられる。


警察官

「関係者全員、任意同行をお願いします」


責任者の顔が、青ざめる。


一方、依頼主の工場。

事務所の一角で、新人は椅子に座り、警察官に向かい合っていた。


警察官

「では改めて聞きます。

この書類を外部に渡すよう、誰に指示されましたか」


新人は唇を噛み、しばらく俯いたまま黙り込む。

室内に、紙をめくる音とペンの走る音だけが響く。


新人

「……この工場の人じゃ、ありません」


警察官

「はっきり言ってください。どこの会社ですか」


新人

「……おたま工業です。

向こうの管理部の人に、“同じ書式を作るだけだ”って言われて……」


警察官の表情が変わる。


警察官

「金銭のやり取りは?」


新人

「ありました。

最初は少額で、そのあと……成果報酬みたいに」


警察官

「分かりました」


警察官は立ち上がり、無線に手を伸ばす。


警察官

「こちら本部。

被疑者の供述より、おたま工業関係者の関与が濃厚。

捜索と身柄確保を要請します」


無線越しに短い応答が返る。


少し離れた場所で、天城は腕を組み、そのやり取りを静かに見ていた。

表情は崩さないが、目だけが鋭くなる。


天城(心の声)

「やっぱり、黒幕は別にいたか」


そのとき、別の警察官が依頼主のもとへ近づく。


警察官

「ご協力ありがとうございました。

今回の件、あなたの工場は被害者として扱われます」


依頼主

「……新人のことは?」


警察官

「容疑は認めています。

ただし、主導ではありません。

指示役の立件が優先です」


依頼主は深く息を吐き、拳を握りしめた。


場面が切り替わる。


数時間後。

別の工場前にパトカーが並び、警察官が次々と中へ入っていく。


警察官

「おたま工業の関係者を、業務上横領および不正競争防止法違反の疑いで逮捕する」


抵抗する声、ざわつく社員たち。

連行される管理部の男は、青ざめた顔で俯いていた。


——儲けるために、他社の仕組みを盗んだ代償。


9️⃣【事務所】

夜。

電気は半分だけ点いている。


テーブルの上には、コンビニ袋が山のように置かれていた。


坂口

「はいはいはい!

本日の戦利品、並べまーす!」


三好

「ちょっと待って、それ私のプリン!」


坂口

「名前書いてない方が悪い」


相原

「小学生理論やめてください」


神谷

「え、こんなに買ったんですか……?」


「お前が“緊張した”って言ったからだろ」


神谷

「いや、でも……こんな打ち上げ規模になるとは」


天城は少し離れた席で、静かにコーヒーを飲んでいる。


三好

「……あれ?

天城さん、何も食べないんですか?」


天城

「いい」


坂口

「嘘つけ。

さっきからドーナツ見てる」


天城

「見てない」


相原

「目が追ってましたよ」


神谷

「完全に追尾してました」


天城

「……」


「素直になれ」


三好はニヤニヤしながらドーナツを差し出す。


三好

「はい。

今日のMVPに進呈」


天城

「……仕事しただけだ」


坂口

「じゃあ仕事の延長で食べてください」


相原

「理論が雑」


一瞬の沈黙のあと、天城は観念したようにドーナツを取る。


天城

「……半分だけな」


坂口

「はい出ました“半分だけ”」


三好

「どうせ全部いくやつ」


天城が一口かじる。


神谷

「……あ、美味しいですか?」


天城

「……普通だ」


坂口

「顔が甘党」


相原

「表情管理、事件より甘い」


天城

「……次、黙らなかったら残業な」


全員

「えーーー!」


「脅し方が昭和」


坂口

「ブラック探偵事務所!」


三好

「でも今日の黒幕、捕まったからホワイトですよね?」


相原

「言葉遊びやめて」


神谷

「でも……」


全員

「?」


神谷

「みんなで笑ってるの、なんか安心します」


一瞬、空気が止まる。


坂口

「……急にいい話するな」


三好

「泣きそうになったじゃん」


相原

「空気戻して」


「ほら神谷、罰としてプリン没収」


神谷

「えっ」


天城

「……」


天城はコーヒーを一口飲んで、静かに言った。


天城

「こういう時間があるから、また次もやれる」


全員

「……」


坂口

「天城さんが真面目!」


三好

「レア!」


相原

「写真撮っていいですか?」


天城

「却下」


笑い声が、事務所に響く。

事件は終わった。

でもこの事務所は、今日もうるさい。

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スケッチ りなちょん @tera_sky212

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