第1話「悪意のない犯罪」
1️⃣ 【わいわい事務所】
僕は天城蓮、探偵をして6年目。
周りのチームに助けられながら、毎日の仕事をこなしている。
騒がしいけれど素直な子もいれば、天然な人もいる。
―それでも、僕にとっては最高のチームだと思い込んでいる。
しかし僕には、誰にも話せないある真実がある。
それを探すため、事件を解決しながらも、自分の答えを追い続けている。
もちろん、このことを知っているのは社長だけだ。
朝の探偵事務所は、だいたいいつも騒がしい。
柊
「それ絶対コンビニの袋だろ。差し入れって言わない」
三好
「差し入れって気持ちが大事なんですー」
坂口
「気持ちより先に領収書出して」
神谷
「え、領収書いるんすか? 探偵事務所で?」
相原
「ドーナツ一個消えてますよ。犯人、今ここにいますね」
三好
「ちょ、決めつけは良くないです!」
柊
「いや、粉ついてるから」
神谷
「マジだ。証拠出てる」
三好
「これは事故です!不可抗力!」
坂口
「不可抗力でドーナツは消えない」
テーブルの真ん中には、誰かが勝手に買ってきたドーナツの箱。
すでに一つ、消えている。
天城 蓮は、自分の席でコーヒーを飲みながら、にこりとその光景を眺めていた。
天城
「……朝から平和だね」
相原
「平和なうちにコーヒー飲んだほうがいいですよ、蓮さん」
神谷
「どうせこのあと、面倒なの来ますって」
柊
「それフラグだからやめろ」
三好
「でも今日は良い予感します!」
坂口
「その“予感”、だいたい外れるよね」
心の中でツッコミながらも、こういう空気は嫌いじゃない。
騒がしいけど、仕事になると案外ちゃんとしている――そんなチームだ。
2️⃣【依頼】
そこへ、事務所のドアがノックされる。
三好
「はい、どうぞー」
入ってきたのは中年の男性だった。
スーツはきちんと着ているが、どこか落ち着かない。
男性
「あの……こちら、探偵事務所で合ってますか?」
神谷
「合ってますよー。何系です? 浮気? 行方不明?」
男性
「い、いえ、違います!」
男性は慌てて手を振る。
男性
「実は……うちの会社で、ちょっと困ったことが起きていて……」
天城は、少しだけ姿勢を正した。
天城
「困ったこと、ですか」
男性
「はい。書類が……なんというか、
真似されているような気がするんです」
柊
「真似?」
男性
「うちの工場で使っている書類が、
別の工場で“パクリだ”って言われるようになってしまって……」
坂口
「社内で、誰かがやってる可能性は?」
男性
「社員にも聞きました。でも、
誰も心当たりがないと言っていて……」
柊
「その書類、外に持ち出せる人は限られていますよね」
男性
「ええ。管理職と、
書類整理を手伝っているスタッフくらいです」
坂口
「“内容を理解している人”じゃなくて、
“触れる立場の人”です」
男性
「……あ」
柊
「最近、その書類を扱うようになった人はいませんか?」
男性
「最近入った新人が一人います。
意味までは分からないけど、
コピーやデータ化を任せていました」
坂口
「誰かに頼まれて、
そのまま渡してしまった可能性もありますね」
男性
「……悪意がなかったとしたら、
その子かもしれません」
天城
「次に、その“パクリだ”と言われたのは、
どこの工場ですか?」
男性
「埼玉にある、おたま工場です」
天城
「分かりました。
ただ、証拠が揃わないとこちらも動けません」
柊
「書類の原本、作成日時、
それからデータの管理履歴は残っていますか?」
男性
「はい。社内サーバーに残っています」
坂口
「それがあれば、
“先に作られたのがどちらか”は確認できますね」
天城
「相手側が同じ書式を使っている理由も、
そこから見えてくるはずです」
男性
「……お願いします」
天城
「わかりました。こちらで調べてみます。
何かわかり次第、ご連絡します」
男性は深く頭を下げ、事務所を後にした。
3️⃣ 【スタッフ会議】
男性が帰った後、全員が自然とテーブルの周りに集まった。
柊
「で、その“パクリだ”って言ってきたのは、どこの工場なんです?」
坂口
「名前だけ聞くと、そこまで大きくはない会社だな」
相原
「でもさ、向こうがここまで騒ぐってことは
似た書類が出回ってるのは事実ってことでしょ?」
三好
「問題は、
“誰が先か”じゃなくて
“どこから広がったか”よね」
柊
「社内だけで見ても限界あるよなー」
神谷
「……設計図、内容はかなり似てました。
数字も、工程の流れも」
一同の視線が、神谷に向く。
坂口
「でも完全なコピーじゃない」
神谷
「はい。
知ってる人が、思い出しながら書いたみたいな感じでした」
天城は机の上に書類を並べ、静かに言う。
天城
「今の情報だけじゃ、判断できない」
柊
「じゃあ、次どうします?」
天城
「“パクった”と言われている工場を、直接見る」
一瞬、空気が止まる。
相原
「下見、ってこと?」
天城
「そう。
書類だけじゃなく、実際の作業工程も確認する」
三好
「現場を見れば、
どこでズレたかはっきりするかもね」
神谷
「……僕も、行ったほうがいいですか?」
天城
「とりあえず担当を分けよう。
気づいたことがあったら、遠慮なく言って」
天城は立ち上がり、全員を見渡した。
天城
「柊と相原は、向こうの工場の作業工程を見る。
坂口と三好は、書類と現場の照合。
神谷は――」
一瞬だけ、言葉を切る。
天城
「全体を見てほしい。
細かい違和感でもいい」
神谷
「……わかりました」
柊
「了解。工程の流れ、しっかり見てくる」
相原
「作業の癖とか、言い回しも確認します」
坂口
「書類は任せろ。ブツは逃さない」
三好
「現場の空気も見てくるわ。
言葉に出ない違和感って、案外あるから」
神谷は少しだけ、背筋を伸ばした。
天城は静かに資料をまとめる。
(――ここに、まだ見えていない“ズレ”がある)
そう確信しながら、
天城は次の現場へ向かう準備を始めた。
4️⃣【現場での疑問】
工場の入口付近で、作業をしていたスタッフがこちらに気づく。
工場スタッフ
「どうしましたか?」
天城は一歩前に出て、軽く会釈した。
天城
「いきなりすみません。
少し気になっていることがあって……
作業の様子を見学させていただいてもよろしいでしょうか」
スタッフは一瞬戸惑った表情を見せるが、すぐに頷いた。
工場スタッフ
「ああ、はい。問題ないですよ」
天城
「ありがとうございます」
中へ案内されながら、天城は周囲をさりげなく観察する。
柊(小声)
「自然すぎて、逆に怪しまれないですね」
坂口
「こういうの、慣れてる感じするな」
相原
「……音、結構大きいですね」
三好
「作業、思ったより丁寧」
天城は答えず、壁に貼られた書類へ視線を移した。
作業手順。
注意事項。
見慣れた構成、だが――どこか違う。
天城は一枚の紙の前で立ち止まる。
天城
「この書類、最近作られたものですか?」
工場スタッフ
「ええ。ここ数ヶ月ですね」
天城
「誰がまとめたか、わかりますか?」
スタッフは少し考えてから答える。
工場スタッフ
「確か……上の人がまとめてました」
その瞬間、天城の視線が鋭くなる。
天城
「……ありがとうございます」
天城は、静かに頷いた。
天城
「ちなみに上の人に、お話を伺いたいんですが……
今日はいますか?」
工場スタッフ
「ああ、今日は休みですね、すいません。」
天城
「わかりました。
……ありがとうございます。
また来ても大丈夫でしょうか」
工場スタッフ
「はい、わかりました」
天城はその場を去った。
5️⃣【事務所に戻り会議】
机の上には、二つの工場の書類が並べられている。
坂口
「やっぱり、あっちの工場が先に作った形跡はないな」
三好
「でも、完全なコピーでもない」
柊
「ってことは……」
天城は静かに頷く。
天城
「外じゃない。
原因は、依頼主の工場の中にいる」
一同が顔を上げる。
相原
「最近入った人……ですか?」
天城
「可能性が高い」
天城は立ち上がる。
天城
「戻ろう」
依頼主の現場に向かった天城チーム
6️⃣【新人への問い合わせ】
天城は、作業をしている新人の前で足を止めた。
天城
「すいません、お仕事中に。
あの、最近入ったばかりですよね」
新人
「ええ、まだ三ヶ月です」
天城
「前の仕事は何をしてましたか」
新人
「……現場です」
作業台の前。
天城は新人の手元を一度見てから、声をかける。
天城
「この作業、慣れてますね」
新人
「……そうですか?」
天城
「ええ。
でも、ここをこうする人は、あまりいない」
新人の手が、一瞬止まる。
新人
「前の職場では、こうしてました」
天城
「前の職場?」
新人
「はい。
似たような工場で……」
天城
「そうですか。
話変わりますが、
この書類、作ったのはあなたですね」
新人の表情が、一瞬で変わる。
新人
「……いえ」
天城
「否定すると思いました」
天城は一枚の紙を差し出す。
天城
「書き方のクセ。
言葉の選び方。
下見した工場と、同じです」
新人は紙を見て、黙り込む。
天城
「盗もうとした人の動きじゃない」
新人
「……」
天城
「“正しいと思ったやり方”を、
そのまま使っただけですね」
新人の肩が、小さく震える。
新人
「……すいません。
悪いことだって、分かってました」
天城
「どうして、やったんですか」
少し間があって、低い声。
新人
「……お金が、必要で」
天城
「無理に答えなくていい。
ただ、確認したいだけです」
少し間が空く。
新人
「……似たものは、ありました」
天城
「“似たもの”」
天城はポケットからコピーした書類を出す。
天城
「これですね」
新人の視線が、紙に釘付けになる。
新人
「……」
天城
「盗んだなら、もっとそのまま使う。
でも、あなたは直してる」
新人
「……」
天城
「間違えないように。
そうでしょう?」
新人の肩が、わずかに落ちる。
新人
「……怒られると思って」
天城
「誰に?」
沈黙。
天城
「“使え”って言われたんですか?」
新人は小さく、頷いた。
新人
「はい……」
天城
「それで、ここに入った」
新人の声が、震える。
新人
「他に、選択肢がなくて……」
天城は一歩引き、静かに言う。
天城
「ありがとう。
それだけ分かれば十分です」
新人が顔を上げる。
新人
「……え?」
天城
「続きは、ここで。
逃げると思うなよ。」
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