第3話 「白昼のニアミス」

【登場人物】

北條孝子(17):横浜・聖黒椿女学館の生徒。古風な美学を持つ。

高清水凉子(17):神戸から横浜の姉妹校へ来た留学生。完璧な秩序を重んじる。

ガーディ:孝子の執事。地獄の番人としての超感覚を持つ。

詫間亨(25):凉子のサポート。最新テクノロジーで横浜をハッキングする。

【本編】

〇横浜・山手 古風な洋館が立ち並ぶ通り(昼) 秋の陽光が降り注ぐ、静かな異人館通り。 観光客が散策する中、一人の少女が優雅に歩いている。 高清水凉子。横浜のミッション系女学館の制服を完璧に着こなしている。 耳元の高性能補聴器に、神戸にいる詫間亨の声が届く。


亨(通信) 「凉子様。現在、横浜の都市インフラの六割を掌握しました。ですが、例の『赤い閃光』の居所だけが、霧に包まれたように特定できません」


凉子(口角をわずかに上げ、独り言のように) 「焦らんでもええわあ、亨さん。地獄のネズミさんは、きっとこの美しい街のどこかに潜んではりますのやから。必ずわたくしが見つけて、浄化して差し上げますわあ」


〇横浜市中区・北條家 孝子の自室(昼) カーテンを閉め切った暗い部屋。 孝子が鏡の前で、通学カバンの手入れをしている。 背後の闇から、ガーディの低い声が響く。


ガーディ 「お嬢様。例の『神託』からの情報では、ターゲットは中華街に潜伏中とのことですが……どうも妙です」


孝子 「妙、ですって?」


ガーディ 「我が『目』が捉えたのは、中華街ではなく『山手』の一角。そこを中心にして、街の通信網を喰らい尽くそうとする、下品な『ネズミ』の気配です」


孝子(扇子をパチンと閉じ) 「まあ。天の使いは、空を飛ぶだけでなくネズミの真似事までいたしますのね。ガーディ、そのネズミの飼い主に、ご挨拶へ伺いましょうか」


〇横浜・山手 老舗カフェテラス(昼) 港を見下ろす絶好のロケーション。 孝子がテーブルに座り、白いハンカチに緻密な花の刺繍を施している。 チク、チク、と正確な針運び。 その隣のテーブルに、涼子が音もなく座る。 二人は互いに顔を見ない。


凉子(孝子の手元を見て) 「まあ、素敵な刺繍ですこと。それは、ご自身で刺してはりますの?」


孝子(手を止め、優雅に微笑んで顔を上げる) 「ごきげんよう。お褒めにあずかり、光栄ですわ。少し歪んでしまいましたけれど。わたくし、こういう地道な作業がどうにも性に合わないようですの」


凉子(感心したように微笑み) 「まあ、ご謙遜なさらないで。その手際の良さ、わたくし、見惚れてしまいましたわあ。あなた様は、こちらの方ですのん?」


孝子 「ええ。北條の学校に通っておりますの。今日は学校交流会の下見で、こちらの洋館を訪れておりまして。あなた様は、神戸の方かしら?空気がとても柔らかくていらっしゃる」


凉子 「あら、分かりますのん?はい。短期の交換留学生として、こちらへ寄せていただいてますのや。横浜はとても綺麗な街やけど、少しだけ……空気がジメジメしてはりますわね」


孝子(くすくすと笑う) 「ふふ、港町ですもの。ですが、そのジメジメも慣れれば心地よいものですわよ」


〇(同時進行)水面下の情報戦 会話を交わす二人の背後で、目に見えない戦いが繰り広げられる。 孝子の耳に、隠しイヤホンからガーディの焦燥した声。


ガーディ(通信) 『お嬢様、お気をつけを!今、周辺の監視カメラが完全に掌握されました。例のネズミがすぐ近くにおります!』


孝子(笑顔を崩さず、内心で) (まあ、騒がしいこと。わたくしの優雅なお茶の時間を邪魔するなんて)


一方、凉子の伊達眼鏡の内側に赤いアラートが点滅する。


亨(通信) 『凉子様、危険です!探査ドローンがカフェ上空で撃墜されました。強力な霊的スキャン……「地獄の目」が至近距離にいます!』


凉子(笑顔のまま、内心で) (穏やかではありませんわなあ。こんな陽だまりのような場所で。……どこや?どこに隠れてはりますの、不浄な番人さんは)


〇同・カフェテラス出口 互いに、目の前の少女が「それ」であるとは夢にも思わない。 孝子は「ネズミの飼い主は客の誰かだ」と考え、凉子は「地獄の目は自分を監視している」と判断する。


孝子(立ち上がり、優雅に一礼) 「申し訳ありませんわ。急用を思い出しましたの。この辺りで失礼いたしますわね」


凉子(同時に立ち上がり、一礼) 「まあ、奇遇ですわあ。わたくしも、そろそろ学校に戻らなあきません。ごきげんよう。またどこかでお会いできるとええですわね」


二人は別々の方向へ歩き出す。 すれ違う瞬間。 孝子は凉子から漂う香水の奥に、微かな「清浄すぎる匂い」を感じる。 凉子は孝子の完璧な所作の奥に、一瞬だけ「魂の歪み」とも取れる冷たい気配を感じる。 だが、二人は振り返ることなく、雑踏の中へと消えていった。


〇本牧埠頭 廃倉庫群(夜) 三日後。月明かりが錆びついたコンテナを照らしている。 『神託(オラクル)』からもたらされた情報。「人身売買組織が今夜、商品を積み出す」 黒いドレスコートを纏い、クレーンの影に潜む孝子。


孝子 「ガーディ。配置は?」


ガーディ 「倉庫内に武装した男が五十。そして……おりまする、お嬢様。屋根の上に『清浄なる気配』が」


孝子(電光剣の柄を握り、残忍に微笑む) 「まあ。わたくしよりも先にティーを始めようなんて。せっかちな方ですこと」


一方、屋上のダクトから音もなく侵入する凉子。純白の戦闘スーツが闇に光る。


凉子 「亨さん。正面ゲートから不浄な霊的エネルギーを確認したわあ。間違いありませんわ、関ヶ原の『赤い閃光』です」


亨(通信) 『罠だと分かっていても、行かれるのですか?』


凉子(電流鞭を手に取り、瞳を青く光らせる) 「当たり前やわあ。罠であろうと、そこに排除すべき悪があるなら、わたくしは参ります。地獄のネズミも、まとめて浄化して差し上げなあきませんわ」


〇倉庫内部 一斉に響き渡る銃声と怒号。 だが、それはすぐに二種類の「絶叫」へと変わる。 青い閃光が走るたびに上がる、断末魔さえない即座の「消去」。 赤い閃光が煌めくたびに上がる、地獄のような「苦痛」の呻き。 積み荷のコンテナが並ぶ倉庫の中央で、ついに二つの殺意が鉢合わせる。


青い電流の火花を散らす、純白の堕天使、高清水凉子。 赤い地獄の炎を揺らめかせる、漆黒の魔女、北條孝子。


二人は息を呑む。 カフェテラスで刺繍を褒め合った、あのお嬢様同士の姿が、目の前の殺戮者の姿と重なる。


孝子(千枚通しを指先で弄び、楽しそうに笑う) 「……まあ。ごきげんよう。奇遇ですわね。あなたがわたくしの『お稽古』の相手、『青い稲妻』さんでしたの?」


凉子(ショック棒を構え直し、冷たい瞳で射抜く) 「初めまして。あなたがわたくしの『浄化』の対象、『赤い閃光』さんかしら?……いいえ。どうやら地獄から迷い出た、美しくないネズミのようですわね」


激しく飛び散る火花。二人の「正義」が今、深夜の埠頭で激突する。


(暗転)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月19日 06:00
2026年1月20日 06:00
2026年1月21日 06:00

脚本 ネザーワールド・リヴァイヴ(冥界蘇生)~二羽の鴉(からす)と神託の遊戯盤~ たくみふじ @TakumiFuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ