第2話 「日常という名の仮面」

【登場人物】

北條孝子(17):横浜の「聖黒椿女学館」に通う高校生。古風で凛とした佇まい。

高清水凉子(17):神戸の令嬢。完璧な調和を愛する。神戸お嬢様言葉を話す。

ガーディ:孝子を地獄から連れ出した元・番人。影のように控える執事。

詫間亨(25):涼子の技術的サポート。表向きは天才発明家の実業家。

孝子の父・母:昭和文化を愛するごく平凡で善良な夫婦。

【本編】

〇北條家・ダイニング(朝) 朝日が差し込む、穏やかな食卓。 教師である父と、母、そして制服姿の北條孝子が朝食を囲んでいる。 テレビからは、古い昭和ドラマの再放送が流れている。


母 「孝子、昨日のドラマ『君の名は』はご覧になった?あの時代の女性たちの真知子巻き、本当にお洒落だったわね 」


孝子(微笑みながら、優雅にパンをちぎる) 「ええ、お母様。当時の女性たちの、精一杯のお洒落の表現だったのでしょうね。わたくしも、一度そのようにストールを巻いてお出かけしてみたいものですわ 」


父 「ははは、孝子ならきっと似合うだろう。当時の女学生のような気品があるからね」


孝子(上品に会釈して) 「恐れ入ります、お父様 」


〇同・玄関前 孝子が通学カバンを手に外へ出る。


孝子 「いってまいりますわ、お父様、お母様 」


〇横浜市中区・通学路 角を曲がり、両親の視界から消えた瞬間、孝子の表情から愛想笑いが消える 。 冷徹な「魔女」の瞳。電柱の影が蠢き、ガーディが姿を現す 。


孝子 「ガーディ。昨夜の『西』の方々。随分と派手なお掃除でしたわね 」


ガーディ 「はっ。改めて冥府の回線で調査いたしました。あれは天の眷属……恐らくは天使養成校を捨てた、堕天使の仕業かと 」


孝子(興味深げに目を細め) 「まあ、堕天使。地獄と天、混沌と秩序。わたくしのお稽古相手に、相応しいかもしれませんわね 」


ガーディ 「お嬢様、危険にございます。天の破壊力は地獄の『苦痛』とは次元が異なりますれば 」


孝子(くすくすと笑う) 「あら、怖じ気付きましたの?大丈夫ですわ。わたくしの『針』の前では、天使であろうとただの的でしかありませんもの 」


〇高清水家・音楽室 神戸の山手、明石海峡大橋を臨む豪邸 。 高い天井の音楽室で、高清水凉子がヴァイオリンを奏でている。 曲はバッハのシャコンヌ。その音色は寸分の狂いもない完璧な調和を保っている。 演奏が終わり、弓を引く。


亨(拍手しながら入室) 「素晴らしい演奏です、凉子様 」


凉子(ヴァイオリンを置き、優雅に微笑む) 「おおきに、亨さん。昨夜の『東』のデータ、解析は進みましたこと? 」


亨 「はい。敵の殺害方法は極めて非効率的かつ残忍。我々の『美』とは対極にあります。地獄から脱獄した番人が関与しているものと推測されます 」


凉子(わずかに顔をしかめ) 「地獄……。美しくありませんわあ。まるで虫を弄ぶ子供のよう。下品ですこと 」


亨 「この『ノイズ』、早急に特定し排除する必要があるかと 」


凉子(瞳に静かな嫌悪を宿し) 「ええ。次に相まみえることがあれば、わたくしの『雷』で、浄化して差し上げなあきませんわあ 」


〇(一週間後)横浜・孝子の自室(夜) 関ヶ原の戦いから一週間、裏社会は不可侵条約の締結へと動いていた。 孝子が学校から帰宅すると、ガーディが緊張した面持ちで控えている。


ガーディ 「お嬢様。新たなお仕事にございます。正体不明の仲介組織『神託(オラクル)』から指名の依頼が入りました。報酬はこれまでの十倍、破格にございます 」


孝子 「まあ。わたくしの腕もようやく認められたということですわね。それで、獲物は? 」


ガーディ(深々と頭を下げる) 「先日の関ヶ原にて、関西側が雇った『青い稲妻』……その排除にございます 」


孝子(歓喜に満ちた笑みを浮かべる) 「まあ……!なんと幸運なことですこと!向こうからわたくしのお稽古に付き合ってくださるとは。最高の『おもてなし』で、お迎えいたしませんと 」


〇神戸・凉子の自室(夜) 同じく、亨が険しい表情で入室してくる 。


亨 「凉子様。緊急の依頼です。『神託(オラクル)』から、報酬は提示額のさらに倍 」


凉子 「……何か、裏がございますのね 」


亨 「はい。ターゲットは関ヶ原の『赤い閃光』。場所は横浜。一週間以内に対象を無力化せよ、との指令です 」


凉子(柳眉をひそめ) 「横浜……。関東の方の空気は、どうも肌に合いませんのやけど 」


亨 「罠である可能性が極めて高い。我々二つの『異常』を、意図的に衝突させようとしています 」


凉子(窓の外の瀬戸内海を見つめ、確信を持って) 「受けるに決まっておりますわあ。美しくないモノは排除せなあきません。それがわたくしが地上に在る、唯一の意義なのですから 」


〇横浜・夜景を見下ろす高台(イメージ) 赤いオーラを纏う孝子と、青いオーラを纏う凉子の姿が重なる。 二人の少女殺し屋は、互いの故郷である天と地獄を巻き込む大いなる混沌の幕開けに、まだ気づいていない 。


孝子 「覚悟なさって、堕天使様。わたくしの針が、その美しいお顔をどう変えてさしあげるか……」


凉子 「地獄のネズミさん、わたくしの雷で跡形もなく消し飛んでいただきますわあ」


(暗転)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る