第28章:重力100倍? 酸素ゼロ? クソ運営の「嫌がらせ」をハックしろ

『――排除(デリート)開始。コマンド:物理法則改変(Physics_Override)』


 光の巨人が、無造作に指を弾いた。  魔法陣も、予備動作もない。  ただ、世界の設定(コンフィグ)を書き換えるだけの、絶対的な神の御業。


 『設定値変更:重力加速度(Gravity) = 100G』


 ズガンッ!!


「ぐぅっ……!?」 「きゃぁっ!?」


 一瞬にして、空間そのものが鉄の塊になったかのような重圧が襲いかかった。  シルヴィアが膝をつき、床に叩きつけられる。  アリスの足元の金属床が、彼女の自重に耐えきれずメキメキと陥没していく。


「あ、足が……動かん……! なんだこれは……!」 「警告。機体重量が増大。関節駆動系にクリティカルな負荷。……稼働率、低下」


 全員が地べたに這いつくばる中、俺もまた肺が押し潰されそうな苦痛に喘いでいた。  100倍の重力。  血液が下半身に滞留し、脳への酸素供給が止まる。数秒で意識を失い、数分で圧死する。


『脆弱な有機生命体よ。自らの重さに耐えられず潰れるがいい』


 神が無感情に見下ろしている。  これが管理者の戦い方か。パラメータをいじるだけで、指一本触れずに全滅させる。


「……ふざ、けるな……」


 俺は歯を食いしばり、霞む視界で『確率視』を起動した。  視界いっぱいに広がる赤い警告文字。  その奥にある、重力を定義している「数式」を見つけ出す。


(重力が100倍になる確率が100%? ……なら、その『変更処理』がエラーを起こす確率を割り込ませる!)


 俺は全魔力を脳に集中させた。  重力を消すのは無理だ。だが、俺たちの周囲だけ「設定の適用」を失敗させることはできる。


 【確率操作:局所的通信エラー(パケットロス)】  【対象:重力変更コマンド】


 フッ……。


 突然、身体が軽くなった。  いや、元に戻った。


「……はぁっ、はぁっ! た、助かった……!」  シルヴィアが荒い息をつきながら立ち上がる。


『……ほう? システム干渉か。小賢しい』  神のアバターがわずかに反応を示した。


『では、これならどうだ? コマンド:摩擦係数(Friction) = 0』


 次の瞬間。  俺たちの足元が、氷山よりも滑る世界へと変貌した。


「わっ、わわっ!?」  ポムがツルンと滑って転がり、それに巻き込まれたルナが盛大にすっ転ぶ。  立つことすらできない。踏ん張りが効かないから、攻撃も回避も不可能だ。


『続けて実行。コマンド:酸素濃度(Oxygen) = 0』


 さらに空気が変質する。  息を吸っても、肺に入ってくるのは「無」だ。  窒息。  生物にとって最も根源的な絶望。


「ごぼっ……!?」  シルヴィアが喉を押さえて苦しみだす。  摩擦ゼロで転がりながら、酸素ゼロで窒息死。  えげつない。完全にハメ技だ。


「……舐めるなよ、クソ運営!」


 俺は叫び(声は出ないが意識で)、再び確率を書き換えた。  摩擦ゼロ? 俺たちの靴裏にだけ「スパイク」のような魔力抵抗を発生させればいい。  酸素ゼロ? 空間内の酸素分子が「偶然」俺たちの周りに集まる確率を極大化させればいい!


 【確率変動:生存環境の最適化(ノーマライズ)】  【成功率:100%(確定)】


 シュウゥゥ……!


 新鮮な空気が肺に満ちる。足元のグリップが戻る。


「ぷはぁっ! ……し、死ぬかと思った……!」 「マスター! いたちごっこだぞ! 向こうが設定を変えるたびに、こっちが対処してたらジリ貧だ!」  シルヴィアが叫ぶ。その通りだ。  相手はサーバーそのもの。リソース(魔力)の桁が違う。持久戦になれば負ける。


「分かってる! だから、元を断つ!」


 俺は部屋の中央にある巨大なサーバータワーを指差した。  あそこが神の本体。あそこに直接アクセスして、管理権限を奪えば勝てる。


「ルナ! あのタワーまで行けるか!?」


 ルナが眼鏡を直した。  「距離は50メートル。……でも、見てみなよ。タワーの周りに『壁』がある」


 見ると、タワーの周囲には、燃え盛る炎のような、あるいは幾何学模様の壁のような障壁が展開されていた。


 【防御プログラム:絶対拒絶領域(ファイアウォール)】


「あれは物理も魔法も通さない。解析するにも、接触してコードを流し込む必要がある!」


「なら、俺たちが道を作る!」


 俺は号令をかけた。


「アリス、シルヴィア! お前たちはルナを担いで突っ込め! 神の攻撃は俺が全部相殺する!」 「「了解!」」


 シルヴィアがルナを小脇に抱え、アリスが先行する。  神のアバターが、それを無機質な瞳で追った。


『無駄だ。アクセスは許可しない』


 神が手を振るう。  空間から無数の「黒い槍(データ削除用ウイルス)」が出現し、ルナたちへ殺到する。


「させるかぁっ! リリス、出番だ!」


「人使いが荒いわね……!」  リリスが舌打ちしながら前に出る。


「私の『闇』は、システムのバグそのものよ! 清廉潔白な神様には毒かしらね!」


 リリスが両手を広げると、彼女の影が巨大な波となって逆巻いた。  黒い槍と影の波が衝突し、互いに侵食し合って消滅していく。


「今だ、抜けろぉぉぉッ!」


 その隙間を縫って、シルヴィアとアリスが疾走する。  神が再び重力操作を行おうとするが、俺が0.1秒速く『妨害コード』を叩き込む。


 ガガガッ!  神の動きが一瞬止まる。


「いけぇぇぇッ!」


 シルヴィアがファイアウォールの直前で踏み切り、ルナを砲弾のように投げ飛ばした。


「頼んだぞ、眼鏡ェェェッ!」 「扱いが雑だなぁッ!」


 ルナが空を舞う。  目の前には、燃え盛るファイアウォール。


「アリス!」 「計算済みです」


 並走していたアリスが、スカートの中から取り出したのは――なんと『消火器』だった。  もちろん、ただの消火器ではない。  バベルで手に入れた**『概念消火剤(アンチ・ウイルス・スプレー)』**だ。


 プシュゥゥゥゥッ!!


 白い霧がファイアウォールに吹き付けられる。  絶対防御の炎が、一瞬だけ揺らぎ、人が通れるほどの穴が開いた。


「通った!」


 ルナはその穴に飛び込み、着地と同時にサーバータワーのコンソールに自身の魔導書(接続端子)を叩きつけた。


 バチチチチッ!


 タワーが赤く明滅し、警報音が変わる。


 『警告。外部からの強制アクセスを検知』  『セキュリティレベル低下……管理者権限、一部譲渡……』


『な、なに……!?』  初めて、神の声に焦りの色が混じった。


「捕まえたよ、神様!」  ルナが狂気的な笑みでキーボード(魔導盤)を叩く。


「さあ、レン! セキュリティは解除した! あとは君が、このクソ運営に引導を渡してやってくれ!」


 神の絶対防御が消えた。  俺たちの前には、無防備になった光の巨人(アバター)だけが残された。


「……ああ。終わらせてやる」


 俺は聖剣デュランダルを抜き放ち、ゆっくりと歩み出した。  確率は100%。  俺たちの勝利だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る