第26章:無限ガチャ機関と、天界という名の「サーバールーム」

豪邸の地下室。  そこは今、物質界の法則を無視した光景が広がっていた。


「いくぞ! 確率固定、100連ガチャ、回せぇぇぇッ!!」


 俺の叫びと共に、ウィンドウから滝のようにカプセルが排出される。  全てが虹色(SSR)。中身は全て、最高純度の『賢者の魔石』だ。


「ポム、食え! 噛まずに飲み込め!」 「ふぐぅ!? も、もうお腹パンパンなのじゃぁ……!」


 涙目のポムが、次々と放り込まれる魔石を必死に嚥下する。  彼女の身体は、過剰な魔力摂取により、まるで電球のようにピカピカと発光していた。  そして、彼女の口からケーブルで直結された『古代転移門』へ、奔流のようなエネルギーが注がれ続けている。


「出力安定。エネルギー充填率、98%……99%……!」  ルナが狂気的な笑顔でメーターを監視している。


「あはは! 熱力学第二法則が息をしていないよ! 入力(コスト)より出力(エネルギー)の方が多いなんて、物理学への冒涜だ!」


「うるさい、回せば出るんだからいいんだよ! ……よし、充填完了(フルチャージ)だ!」


 ブゥゥゥン……ッ!


 転移門が唸りを上げ、その中心に空間の裂け目が発生した。  青白い渦。  この先に、神々の住まう『エデン』がある。


「準備はいいか、野郎ども!」  俺が振り返ると、最強のハーレムメンバーたちが頷いた。


 白銀の聖騎士装備に身を包んだシルヴィア。  演算機能を戦闘モードにシフトしたアリス。  相変わらずYシャツ一枚だが、殺気を漲らせるリリス。  そして、発光しながらゲップをしているポム。


「行くぞ。世界を管理してる引きこもり(神)を、部屋から引きずり出してやる」


 俺たちがゲートへ足を踏み入れようとした、その時だ。


 ドガァァァンッ!!


 地下室の天井が崩れ落ち、瓦礫と共に一人の男が降ってきた。  ボロボロの鎧。充血した目。手には禍々しいオーラを放つ『呪いの剣』。


「……見つけたぞぉぉぉ! 相馬レンンンンンッ!」


 元勇者、カイルだ。  彼は憎悪に歪んだ顔で俺を睨みつけた。


「貴様のせいで……俺は全てを失った! 地位も、名誉も、女も! 殺してやる……ここで貴様を殺して、俺がまた勇者に……!」


 執念だ。  公爵家を追放され、堕ちるところまで堕ちたなれの果て。  魔族とも契約したのか、その身からは人間離れした瘴気が漂っている。


「……マスター。面倒な『生ゴミ』が落ちてきましたが」  アリスが無機質に問う。


「……カイルか」  俺はチラリと彼を見た。  だが、今の俺の視界(確率視)には、エデンの攻略ルートしか映っていない。  彼の存在は、もはや計算式の「誤差」ですらなかった。


「急いでるんだ。……アリス、片付けろ」 「了解(イエス)」


 俺は足を止めず、そのままゲートへと歩き出した。


「無視するなぁぁぁッ! 俺を見ろぉぉぉッ!」  カイルが絶叫し、呪いの剣を振り上げて特攻してくる。


 だが、その剣が振り下ろされるより速く。


 ズパンッ。


 アリスの振るったモップ(対神兵装仕様)が、カイルの顔面を捉えた。  ただの打撃ではない。アリスの演算により、カイルの骨格の重心を正確に崩し、回転エネルギーを乗せた一撃。


「あ、べ……?」


 カイルは独楽(コマ)のように空中で三回転し、そのまま壁に激突して気絶した。  瞬殺。  俺たちは一度も振り返ることなく、光の渦の中へと消えた。


 ***


 感覚が反転する浮遊感。  そして、強烈な光。


 視界が開けた時、俺たちは「そこ」に立っていた。


「……ここが、エデン?」  シルヴィアが呆然と呟く。


 そこに広がっていたのは、緑豊かな楽園でも、神々しい神殿でもなかった。


 無機質な白い金属の床。  壁一面に並ぶ、明滅する光のパネル。  空中に浮かぶ無数のホログラムウィンドウ。  そして、部屋の中央に鎮座する巨大なサーバータワー。


 まるでSF映画に出てくる宇宙船の内部か、巨大なデータセンターだ。


「……なるほどね。私の居た『禁書図書館』も似たような構造だったが、ここは規模が違う」  ルナが興奮と畏怖の入り混じった声を出す。  「ここは神の国じゃない。……この世界を演算するための『管理中枢(コントロールルーム)』だ」


「風情がないわねぇ。もっと豪華な玉座くらい用意してないのかしら」  リリスがつまらなそうに壁を蹴る。


 俺は『確率視』を発動した。  視界を埋め尽くす膨大なデータストリーム。  世界中の天候、魔素濃度、人間の感情データ……全てがここで処理されている。


(やはり、この世界は作り物(シミュレーション)か)


 その時。  部屋中に無機質な警報音が鳴り響いた。


 『警告。不正侵入者(イントルーダー)を検知』  『迎撃システム起動。タイプ・エンジェル、出撃』


 壁の一部がスライドし、格納庫から無数の「影」が飛び出してきた。  背中に純白の翼。頭上に光の輪。  一見すると美しい天使だ。


 だが、その顔には目も鼻もなく、のっぺらぼうの仮面がついている。  手には光り輝くレーザーランス。


 【識別:量産型殲滅天使(マスカット・エンジェル)】  【脅威度:Aランク(単体)/SSランク(集団)】


「……天使様のお出ましか。だが、随分と機械的だな」  俺はニヤリと笑った。


「総員、戦闘配置! 神様のオモチャを解体ショーの時間だ!」


「「「了解ッ!」」」


 機械仕掛けの天使の群れ vs 最強の異世界ハーレムパーティ。  世界の運命を決めるラストバトルが、この無機質なサーバールームで幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る