第20章:迷宮都市の物価が高すぎるので、ガチャ産ポーションで価格破壊する

大陸の中央に位置する『迷宮都市バベル』。  その名の通り、天を穿つ巨大な塔(ダンジョン)を中心に栄えた、世界最大の冒険者の街だ。


 馬車から降りた俺たちを出迎えたのは、熱気と、欲望と、そして――


「いらっしゃい! バベル名物『飛竜の串焼き』だよ! たったの銀貨5枚!」 「宿をお探し? 今なら相部屋で一泊、金貨1枚だ!」 「ポーションあるよ! 薄めてない純製品が、なんと金貨3枚!」


「……高い。高すぎる」


 俺は雑踏の中で頭を抱えた。  銀貨5枚あれば、王都ならフルコースが食える。  金貨1枚(約10万円)で相部屋? 金貨3枚(約30万円)でポーション1本?  完全に足元を見ている。観光地価格(ツーリスト・プライス)にも程がある。


「マ、マスター。この串焼き、すごくいい匂いがするのだが……」  シルヴィアが財布の紐を気にしながら、切なそうに屋台を見つめている。


「お腹すいたのじゃー! もう背中と腹がくっつくのじゃー!」  ポムに至っては、通行人の荷物を噛じろうとしてアリスに首根っこを掴まれている。


「……ふむ。需要と供給のバランスが崩壊しているね」  ルナが冷静に分析する。 「ダンジョン深層へ挑むハイレベルな冒険者が集まるせいで、物資の消耗が激しい。結果、売り手市場が暴走してインフレを起こしているんだ」


 俺は舌打ちした。  機神竜の素材を売った金はある。だが、こんな不当な価格で浪費するのは、俺の美学(コスパ至上主義)に反する。


「……よし。決めたぞ」  俺はニヤリと笑った。


「宿代も飯代も、現地調達だ。それも、このふざけた市場価格(マーケット)をぶっ壊してな」


 ***


 一時間後。  中央広場の一角に、奇妙な露店が出現した。  看板娘は、露出度の高い美女剣士(シルヴィア)と、無表情な美少女メイド(アリス)。  そして商品は、ガラス瓶に入った鮮やかな青い液体のみ。


「さあ、いらっしゃい! 本日開店、激安ポーション屋だ!」


 俺が声を張り上げる。  道行く冒険者たちが足を止める。


「ポーション? いくらだ?」 「一本、銀貨1枚だ」


 ざわめきが広がる。  相場の百分の一以下。怪しすぎる価格設定だ。


「おいおい、銀貨1枚? どうせ水を混ぜた粗悪品だろ?」 「飲んだら腹を壊すんじゃないか?」


 疑いの視線。当然だ。  だが、俺は自信満々に最初の一本を掲げた。


「疑うなら、試飲(フリー・トライアル)してみな。そこの兄ちゃん、昨日の狩りで負った傷、まだ痛むだろ?」


 俺は腕に包帯を巻いた戦士風の男にポーションを放り投げた。  男は怪訝な顔でキャッチし、恐る恐る口をつける。


「……ん? 甘い? 炭酸が入ってるのか?」 「飲みやすいようにフレーバー調整してある。……で、傷はどうだ?」


 男が包帯を解く。  すると、赤く腫れていた切り傷が、見る見るうちに塞がり、痕もなく消え去った。


「な、なんだこれ!? 一瞬で治ったぞ!?」 「馬鹿な! 最高級のハイ・ポーション並の効き目だぞ!」


 周囲が驚愕に包まれる。  俺は心の中でほくそ笑んだ。


 これは俺の『ガチャ(N:ノーマル枠)』から排出される**『清涼治癒水(ヒーリング・ソーダ)』**。  CP消費は微々たるものだが、その製法は現代科学に基づいている。  現地のポーションが「薬草を煮詰めた汁」なのに対し、これは有効成分を分子レベルで抽出し、炭酸と糖分で浸透圧を調整し、体内吸収率を極限まで高めた代物だ。


 品質(クオリティ)が違う。次元が違う。


「う、美味い! 疲れも吹き飛ぶぞ!」 「俺にもくれ! 10本だ!」 「私はダースで買うわ!」


 一瞬で人だかりができた。  アリスが超高速で現金を回収し、商品をさばいていく。


「売上集計。毎秒、金貨0.5枚のペースで推移。在庫、あと300本です」 「よし、追加ガチャだ! ジャンジャン回せ!」


 俺は売上をCPに変換し、その場でガチャを回して商品を補充する。  完全な錬金術だ。原価ほぼゼロで、莫大な現金が入ってくる。


 シルヴィアは「これが……商売……?」と目を白黒させ、ポムは売上の銀貨をチョコと間違えて齧ろうとしている。


 完売まで一時間とかからなかった。  手元には、山のような金貨と銀貨。  これで当面のバベル滞在費は確保できた――と思った矢先だ。


「――おい。随分と派手に稼いでるじゃねぇか、兄ちゃん」


 人混みを割って、強面の男たちが現れた。  揃いの緑色のジャケット。胸には天秤の紋章。  この街の経済を牛耳る『ゴルド商会』の連中だ。


「許可証(ライセンス)は持ってるのか? ここは俺たちのシマだぞ」  リーダー格の太った男が、下卑た笑みを浮かべて俺を睨む。


「無許可での価格破壊行為。独占禁止法違反……いや、もっと単純に『営業妨害』だな。俺たちの高いポーションが売れなくなっちまう」


 男の後ろには、武器を持ったゴロツキたちが控えている。  なるほど、こうやって新規参入者を潰して価格を吊り上げているわけか。


「……許可証ねぇ。持ってないと言ったら?」 「なら、売上の9割を『ショバ代』として置いていけ。そうすりゃ見逃してやる」


 9割。暴利にも程がある。  俺の『確率視』が、男たちの敵意と、懐に隠し持った短剣の存在を赤く表示する。  話し合いで解決する確率は0%。


「……やれやれ。バベルに来て早々、害虫駆除か」


 俺はため息をつき、アリスに目配せをした。


「アリス。彼らは俺たちの『公正な商売』を邪魔するそうだ。どう思う?」


 アリスがコトリと現金の箱を置き、冷徹な瞳で男たちを見据えた。


「分析。市場の健全化を阻害する『不純物』と認定。……マスター、排除(クリーニング)しますか?」 「ああ。ただし、店の前を汚すなよ。……『燃えるゴミ』の日にはまだ早いからな」


 俺の言葉に、男たちが色めき立つ。  だが、彼らはまだ知らない。  SSRメイドの掃除能力が、彼らの想像を遥かに超えていることを。

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