第19章:聖剣のセキュリティ(選定基準)を、物理的にハッキングする

翌日。  俺はアークライト公爵を、自邸(元・公爵の別荘だった豪邸)に招いていた。


 応接間にて。  ふかふかのソファに深々と腰掛ける俺の対面で、公爵は顔を真っ赤にして震えている。  その背後には、彼の私兵団長とおぼしき男たちが控えているが、全員顔色が悪い。なぜなら、俺の背後には「最強のメイド」アリスが、殺気を消した無機質な瞳で控えているからだ。


「……何の用だ、相馬レン。我々は忙しいのだ」  公爵が威圧的に吠える。


「単刀直入に言います。慰謝料をいただきに来ました」 「は? 慰謝料だと?」


 俺はアリスに合図を送る。  彼女はスカートの中から、綺麗に梱包された「黒い物体」をテーブルの上にドサリと置いた。  ぐるぐる巻きにされたロープの隙間から、昨日襲撃してきた暗殺者の顔が覗いている。


「なっ……!?」 「お宅の紋章が入った短剣を持って、俺の寝込みを襲いに来ましてね。……まさか『知らぬ存ぜぬ』とは言いませんよね? この男、公爵直属の暗殺部隊長でしょう?」


 俺は『確率視』で公爵の動揺を数値化しながら、冷ややかに追い詰める。


「これをこのまま国王陛下、および騎士団に突き出してもいいんですよ? そうなれば、公爵家は『英雄殺害未遂』で取り潰し。確率は100%です」


「き、貴様……ッ! 脅す気か!」 「交渉ですよ。穏便に済ませましょう」


 俺はニッコリと笑い、請求書を突きつけた。


「金貨1,000枚。それと――お宅の蔵に眠っている**『聖剣デュランダル』**。これで手を打ちましょう」


 公爵が目を見開いた。


「せ、聖剣だと!? あれはアークライト家の家宝! 勇者カイルのために王家から預かっている国宝級のアーティファクトだぞ!」 「カイル君はもう勇者じゃないでしょう? なら、豚に真珠だ。俺が有効活用してあげますよ」


「ふざけるな! そもそも聖剣は『選ばれし勇者』にしか抜けぬ! 貴様ごとき召喚士が触れれば、聖なる雷に焼かれて灰になるだけだ!」


「それはやってみないと分かりませんね。……さあ、イエスか、破滅か。選んでください」


 アリスが「チャキッ」とどこからか取り出したチェーンソーのエンジンをふかした。  公爵は青ざめ、屈辱に震えながら頷いた。


 ***


 数時間後。  公爵家の宝物庫から運ばれてきたのは、白銀の台座に突き刺さった、神々しい輝きを放つ長剣だった。  『聖剣デュランダル』。  刀身には古代ルーン文字が刻まれ、柄には巨大なサファイアが埋め込まれている。


「……へぇ、これが聖剣か。魔力密度はすごいな」  俺は感心して覗き込む。


「ふん。抜けるものなら抜いてみろ、泥棒猫め」  公爵が捨て台詞を吐く。


 俺は柄に手をかけた。  その瞬間。


 バチバチバチッ!


 激しい電流が俺の手を弾いた。  そして、脳内に直接、傲慢な男の声が響いてきた。


『――不快だ。貴様のような魔力回路の薄い下等生物(召喚士)が、この俺に触れるな』


「……しゃべった?」 「インテリジェンス・ウェポン(自我を持つ武器)ですね。生意気な口を利きます」  アリスが解析する。


『俺の主になれるのは、清廉なる魂と、Sランク以上の魔力を持つ選ばれし勇者のみ! 失せろ雑種!』


 剣が勝手に発光し、拒絶の波動を放つ。  なるほど。これが「選定」か。  ファンタジー的にはロマンがあるが、科学的(俺の視点)に見れば、単なる**「生体認証(バイオメトリクス)システム」**だ。


「……おい、聖剣。お前の認証コード、随分と古いな」


 俺は『確率視』を発動した。  視界に、聖剣を構成する魔力プログラムのソースコードが展開される。    if (Target.Job != Hero) { Reject(); }  if (Target.Mana < Rank_S) { Reject(); }


 単純な条件分岐だ。  俺はニヤリと笑い、右手に漆黒の魔力を集中させた。


「貴様……何をする気だ?」  公爵が後ずさる。


「何って……**『ハッキング(強制認証)』**だよ」


 俺は再び柄を掴んだ。  バチバチッ! と拒絶の雷が走るが、俺はそれを魔力操作で強引にねじ伏せる。


『ぐ、あ……!? な、なんだ貴様!? 俺の深層領域に侵入してくるな!』


「認証エラー? いや、それはバグだ。俺が触っているんだから、正解率は100%のはずだろ?」


 俺は確率変数を書き換える。  「勇者以外は抜けない」という事象の発生確率を0%に。  「俺が正当な所有者である」という誤認の発生確率を100%に。


『や、やめろ! 俺のソースコードをいじるな! あ、ああっ、そこはダメだ、書き換わるぅぅぅ!』


 聖剣の悲鳴が響く。  俺は容赦なく、セキュリティホールをこじ開け、管理者権限(アドミニストレーター)を奪取した。


 【システム改ざん完了。オーナー登録:相馬レン】


「――来い、デュランダル」


 ジャラァァァン!


 俺は台座から聖剣を引き抜いた。  さっきまでの拒絶反応が嘘のように消え、刀身は従順な青い光を放っている。


『は、はいぃ……。今日から貴方様がご主人様ですぅ……』


 心なしか、剣の声が裏返って媚びへつらうようなトーンに変わっていた。  完全に屈服(調教)完了だ。


「ば、馬鹿な……!? 聖剣の意志をねじ曲げたというのか!?」  公爵が腰を抜かしてへたり込む。


「セキュリティが甘いんですよ。次からはパスワードを複雑にしておくことですね」


 俺は聖剣を軽く振ってみせた。  切れ味は抜群。これなら、シルヴィアの武器としても申し分ない。


「アリス、公爵をお帰りさせろ。……二度と俺の敷居を跨ぐなとな」 「了解。射出します」


 アリスが公爵の襟首を掴み、文字通り門の外へ「放り投げ」た。


 ***


 静かになったリビング。  俺は手に入れた聖剣と、金貨の山を見下ろした。


「すごいな、マスター! 聖剣まで手懐けるとは!」  シルヴィアが目を輝かせている。


「これあげるよ。俺は剣なんて振らないからな」  俺は聖剣をシルヴィアに放り投げた。


「えっ!? こ、こんな国宝を私に!?」 「お前のその黒革の鎧には似合わないかもしれないが、性能はいいはずだ」


 シルヴィアがおずおずと剣を握ると、聖剣は『あ、はい! お姉様、一生ついていきます!』と調子のいい声を上げた。どうやら完全にプライドがへし折られたらしい。


「さて……」  俺は改めてウィンドウを開いた。


 金貨1,000枚。  これを換金すれば、CPはさらに増える。  そして聖剣という強力な武器も手に入れた。


 準備は整った。  いよいよ、この世界の「システム」への反逆を開始する時だ。


「ルナ。次の目的地はどこだ? 世界の『穢れ』を浄化するための、別の方法を探すんだろ?」


 ルナは羊皮紙を広げ、地図の一点を指差した。


「ここだ。『迷宮都市バベル』。そこに眠る古代図書館なら、システムの設計図(ブループリント)が見つかるかもしれない」


「決まりだな。……行くぞ、野郎ども!」 「「「おー!」」」


 俺たちの新たな冒険(世界征服)が、今ここから再始動する。

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