第15話:Q.E.D.(証明終了)――そして勇者は端役(モブ)になる

第15話:Q.E.D.(証明終了)――そして勇者は端役(モブ)になる

「――いっくよ〜! 特大おかわり、返却なのじゃーッ!」


 ポムが小さな口を、ありったけの力で開いた。  その喉の奥で、先ほど食べた「暗黒火炎弾」のエネルギーと、昨日食べた「大量のローストビーフ」のカロリーが、未知の化学反応を起こして臨界点へと達する。


 「げぇぇぇぇっぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!!!」


 ズギュゥゥゥゥゥゥンッ!!


 それは、可愛らしい擬音とは裏腹に、世界を終わらせるごう音だった。  ポムの口から放たれたのは、黄金色に輝く超高密度の魔力ビーム。  一直線に伸びた光の柱は、体勢を崩して無防備になった機神竜の喉元――赤熱する『排熱ダクト』へと、針の穴を通すような精度で吸い込まれていった。


 【命中率:100%(確定)】


 直後。  竜の巨体が、ビクンッ!と大きく跳ねた。


 ガガガガガッ……ギュィィィィン……!


 竜の体内から、悲鳴のような駆動音が響き渡る。  当然だ。  熱を捨てようと開いた穴に、さらに莫大な熱エネルギーをねじ込まれたのだ。  行き場を失った熱量は、逃げ道を求めて体内を暴れまわり、最も繊細なパーツ――心臓部の『動力炉(コア)』を直撃する。


「熱暴走(サーマル・ランナウェイ)……計算通りだ」


 俺が呟くと同時に、竜の全身の装甲の継ぎ目から、目も眩むような光が噴き出した。


 ド、ド、ドォォォォォンッ!!!


 内側からの連鎖爆発。  無敵を誇った対魔法障壁がガラスのように砕け散り、黒い装甲が紙屑のように吹き飛ぶ。


『ギ、ギギ……エラ……ー……システ……ム、ダウ……』


 断末魔の機械音声と共に、機神竜の赤い瞳から光が消えた。  そして。  全長50メートルの鉄の巨像は、スローモーションのように崩れ落ち――


 ズドォォォォォン……!


 凄まじい地響きを上げて、王都の広場に横たわった。  もう、二度と動くことはない。ただの巨大な鉄屑へと変わったのだ。


 ***


 静寂。  瓦礫だらけになった王都を、圧倒的な静けさが支配していた。  遠巻きに見ていた避難民たちも、ギルドの冒険者たちも、何が起きたのか理解できずに口を開けている。


 その沈黙を破ったのは、瓦礫の山から這い出してきた、一人の男だった。


「……う、嘘だ……」


 鎧が半分砕け、煤まみれになった勇者カイルだ。  彼は震える足で立ち上がり、動かなくなった機神竜を見上げ、そして――その上に立つ俺たちを見た。


「あ、ありえない……! 国家転覆級の魔物だぞ!? 俺の聖剣でも傷一つ付かなかったんだぞ!? それを……召喚士ごときが、一撃で!?」


 カイルの声が裏返る。  俺は竜の頭上から、冷ややかな視線で彼を見下ろした。


「一撃? 違うな」


 俺は人差し指を振った。


「お前が派手に吹っ飛ばされてくれたおかげで、奴の注意を引けた。お前は最高の『囮(デコイ)』だったよ、カイル」


「お、囮だと……!? 次期勇者であるこの俺が……!」


「ああ。おかげで俺たちの被害(ダメージ)はゼロだ。礼を言うよ」


 カイルの顔が屈辱で真っ赤に染まる。  だが、彼は何も言い返せない。  結果が全てだ。  彼が手も足も出なかった相手を、俺たちは無傷で沈めた。その実力差は、誰の目にも明らかだった。


「す、すごい……! あいつら、本当にやりやがった……!」 「勇者様じゃない……あの召喚士が、俺たちを救ったんだ!」 「英雄だ! 救国の英雄だぞぉぉぉ!」


 わっと歓声が上がる。  市民たちが、兵士たちが、俺たちに向けて喝采を送る。  カイルはその歓声の輪から弾き出されるように、膝から崩れ落ちた。


「おのれ……相馬レン……ッ! 覚えてろよぉぉぉ!」


 負け犬の典型的なセリフを残し、カイルは取り巻きに担がれて姿を消した。  ……ま、しばらくは再起不能だろう。


「ふふん、見たかマスター! 民衆が私の名を呼んでいるぞ!」  シルヴィアがボロボロのマントを翻し、ドヤ顔で手を振っている(衣装が際どいので、男性陣の視線が熱いが)。


「ふむ……私の解析魔法の有用性が証明されたな」  ルナも眼鏡の位置を直し、誇らしげに胸を張る。


「むにゃ……もう食べられないのじゃ……」  MVPのポムは、俺の背中で幸せそうに寝息を立てていた。


 俺は、歓声に応えるふりをしながら、足元の機神竜のボディを撫でた。


 【ドロップアイテム:機神竜の動力炉(オリハルコン製)】  【推定価値:金貨 10,000枚(国家予算レベル)】


(……勝った)


 俺は内心でガッツポーズをした。  名声? 英雄の称号?  そんなものはオマケだ。  この巨大な素材の山こそが、俺が求めていたものだ。


「よし、みんな。感傷に浸っている暇はないぞ」


 俺は小声でパーティメンバーに指示を出した。


「国軍が管理に乗り出してくる前に、めぼしいレアパーツを全部引っこ抜くぞ。特にこの『動力炉』は、絶対に確保だ」 「「「了解!」」」


 こうして、王都を救った英雄たちは、感動の余韻もそこそこに、ハイエナのような速さで解体作業を始めたのだった。


 ***


 数日後。  機神竜討伐の報奨金と素材の売却益で、俺の懐は爆発的に潤った。  そして――


 俺は王都の一等地に豪邸を購入し、ふかふかのソファでステータス画面を開いていた。


 【現在の因果ポイント(CP):50,000 pt】


 見たこともない桁数だ。  これなら、10連ガチャどころか、50連ガチャができる。


「……さて」


 俺はニヤリと笑った。  金はある。家もある。名声もある。  あとは――もっと賑やかな「家族(ハーレム)」を増やすだけだ。


「いくぞ。……確定演出(レインボー)、カモンッ!!」


(第一部 完)

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