家庭内引越し

@saketanuki

第1話 好きでなったわけではないが

何を隠そう、子供部屋おばさんである。

子供部屋おばさんの正確な定義は知らねど、長年愛情をもって育んでいただき、婚姻という制度の下家をでた私が、離婚という制度を駆使して長年住んでいた自室に戻ってきた、という事実がある。そして私は昔の(子供部屋)に居を構える中年と相成ったわけである。大した話ではなかった。書けば三行の説明文で事足りるのだが、問題は我が家にはラスボスの母と妹家族が同居しており、知らぬ間に荷物置きと化していた部屋を何とかしなければ、わたしはレオパレスなどを借りなくてはならない……すなわち部屋空いてないじゃん問題が勃発していたのである。

なんで離婚するの、しなきゃいいじゃん、という周囲の声が思い出される。ほんと、なんで離婚したんだっけ……。なんて振り返る余裕もないままに旧私室、現物置の荷物を整理し、不用品を捨てることから始まった。やりたくもない季節外れの大掃除に巻き添えをくっている姪様や甥様からすればスタートの時点でわたしは(迷惑をかけてくる子供部屋おばさん)という長い称号を手にしたのであった。

壁には子供たちの彫った版画や、運動会で踊った思い出の品であろうソーラン節の法被など、H2Oの思い出がいっぱいを口ずさんでしまうような素敵なメモリーが貼られているうえに、妹からは子供部屋に戻るは良いが、決して捨てないようにと命じられているのであった。

結婚という人生初の大ギャンブルに負け、離婚という、例えるなら人生の大失恋をした不憫な私の部屋の壁を、ぐるりと幸せ家族の象徴のような思い出の品々が彩っているのである。俯瞰してみると、おもちゃ箱に間違えて飛び込んだ中年のおばさんの寝床。それが私が長年過ごしていた部屋の今なのであった。

なんか、かわいそう。それがわたしがわたしに抱いた正直な感想である。

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