第2話 雨の日の更衣室は、密室よりも甘く危険な香りがする
「……ひどい雨になっちゃったね、滝くん」
放課後の突然のゲリラ豪雨。
僕と春風は、不運にも体育の授業が終わった直後の更衣室に閉じ込められていた。
運が悪いことに、他のクラスメイトたちは早々に着替えを終えて校舎へ戻り、最後の一人だった僕が忘れ物を取りに戻ったところで、春風と二人きりになったのだ。
「ああ。これじゃ校舎に戻るだけでずぶ濡れだな」
僕はロッカーに背を預け、外の雨音を聞いていた。
狭い更衣室。漂う石鹸の匂いと、微かな制汗剤の香り。
そして、隣にいるのは——運動後の熱を帯びた、小鳥遊春風だ。
「ねぇ、滝くん……私、さっきの雨で少し濡れちゃったみたい」
見れば、春風の体操着の首元がぐっしょりと張り付いていた。
白の半袖シャツは、水分を含んで透き通っている。
その下にある、彼女の肌に近い色のインナーが——いや、よく見るとそれはインナーではなく、繊細な刺繍が施された「それ」だった。
「お、おい、小鳥遊……! 前、前を見ろ!」
「え? あ、本当だ。透けちゃってるね。……恥ずかしいな」
彼女は頬を赤らめ、両手で自分の胸元を隠すように抱きしめた。
だが、その仕草が逆に、豊かな膨らみを強調してしまっていることに彼女は気づいているのだろうか。
いや、気づいていないはずがない。彼女の瞳は、どこか楽しそうに僕の反応を伺っている。
「滝くんのジャージ、貸してくれない? このままだと風邪引いちゃうかも」
「……あ、ああ。ほら、これ使え」
僕は自分のジャージを彼女に差し出した。
受け取ろうとした彼女の手が、僕の手の甲に触れる。指先が熱い。
「……ありがと。じゃあ、ちょっと着替えるから……前、向いててね?」
「ああ。絶対に振り向かないから、早くしろよ」
背を向け、コンクリートの壁を凝視する。
衣類が擦れる、ササッ、という小さな音が、静かな更衣室にやけに響いた。
普段なら何てことのない音なのに、今の僕にはそれが、世界で一番扇情的な音に聞こえる。
「……滝くん。あのね、ちょっと困ったことになっちゃった」
背後から、困ったような、でもどこか甘えたような声がした。
「……何だよ。早くしろよ」
「その……ジャージのファスナーが、髪の毛に噛んじゃって……。自分じゃ見えないの。手伝って……くれる?」
僕は絶句した。
そんな王道すぎるハプニングがあるか。
だが、放置するわけにもいかない。僕は覚悟を決めて、ゆっくりと振り返った。
「っ……!」
そこには、僕の大きなジャージを羽織り、肩を大胆に露出させた春風がいた。
ファスナーは胸の上あたりで止まっており、彼女の白い鎖骨と、その奥の谷間が露わになっている。
彼女は首を傾げ、絡まった髪を解こうと苦戦していた。
「ほら、ここだよ……痛くしないでね?」
僕は震える指先で、彼女のうなじに近い髪に触れた。
指が彼女の熱い肌に触れるたび、電流が走ったような衝撃が全身を駆け巡る。
至近距離で嗅ぐ彼女の匂いは、雨の湿気と混ざり合って、僕の理性をドロドロに溶かしていく。
「……と、取れたぞ」
「ありがとう。……ふふ、滝くんの手、すごく震えてる」
春風は僕のジャージの襟を掴んだまま、ぐい、と僕の顔を自分の方へ引き寄せた。
僕のジャージに包まれた彼女は、いつもよりずっと小さく、守ってあげたくなるような——それでいて、すべてを飲み込んでしまうような魔性さを纏っていた。
「ねぇ、滝くん。さっきの『お礼』、今ここでしてもいいかな?」
彼女の潤んだ瞳が、僕の唇を捉える。
雨音はますます激しくなり、更衣室の温度は、異常なほどに上昇していた。
聖女の皮を被ったサキュバス――小鳥遊さんは俺を理性の限界へ連れていく 冰藍雷夏(ヒョウアイライカ) @rairaidengei
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