『ウマウーマン』
まれえ
『ウマウーマン(お題:馬ナイフ恋人)』
馬の頭をした全裸の女に「恋人になれ」とナイフを突きつけられて脅されている。
ここのところ世界中が侵略を受けていた。侵略者、それは、ウマウーマン。
『ウマウーマン』
だいたい頭に電子チップを入れるなんてのは無理があったんだ。あっという間に異次元からやってきた彼女(?)達に、世界は支配されてしまった。
あるどでかい企業と国が手を組んで、国民を統制するために義務付けたマイチップID。職場や学校で、原則全国民がその注入手術を受けた。
それに深刻なウイルスが感染しているのが発覚した。なぜ発覚したのかと言うと、異次元からやってきた「ウマウーマン」たちが、その脆弱性を突いて、脳をジャックしてきたからだ。
人間は馬にされた。四つ足でヒンヒン鳴いて歩いている。
競馬馬は人気の出世コースだ。過酷だが年収もいいらしい。動物園で観賞される毛並みのいい黒馬は勝ち組だった。でもほとんどの馬は大体、荷物を運んでいる。
ウマウーマン達は人間社会から配送網という技術を学んだ。おかげで人間は大地を駆け、山を越え、彼女たちのために荷物を運ばされている。でも、まぁそれはまだ友好的な世界観だ。彼女たちが馬肉の味を知ったなら……恐ろしい限りであるが、今のところそういう趣味はないらしい。
さて、おれは馬の頭をした全裸の女「ウマウーマン」に「恋人になれ」と脅されている。
「つまり、種馬になれってこと?」
おれが、鼻の下をかきながら言うと、ウマウーマンは怒った。
「我々を愚弄するのか!そういう表現を我々は好まない」
「あー、はい。すみません」
知らなかった。ウマウーマンってプライド高い系の語り口なんだ。
ブンブン包丁を振り回すので、まぁまぁとなだめる。
「恋人になってほしいなら、もう少し穏やかに話してよ」
「なってほしいのではない!なれという命令だ」
「断ったら?」
「刺す!」
知らなかった。ウマウーマンって凶暴なんだ。
仕方ない。命には変えられないのでおれは言った。
「いいよ」
「えっ」
ウマウーマンは包丁を空振りした。
「だから、いいよ。恋人になろう」
部屋には馬頭の全裸の女とおれ。とりあえず包丁は台所に片付けたけれど、なんか気まずい。特に向こうが全裸なのがいまいち気まずい。そして急に黙ったウマウーマン。沈黙が気まずい。
「とりあえず服を着たら?」
「そんな下賤なものは身につけない」
「そういうこと言うと思った」
「でも恋人になるなら、恥じらいを持ってもらわないと」
「恥じらう必要はない。我々は美しい。美しいものをどうして隠す必要がある。我々の美学に反する」
「めんどくせえな」
知らなかった。ウマウーマンにも美学があるらしい。
「とりあえず座りなよ」
床の上にクッションを置いてやる。
「なんか飲む?」
「ウォッカはあるか」
「え……あるけど」
ストレートをダブルで出したら、一気に飲み干した。
知らなかった。ウマウーマンて酒飲みなんだ。
ウマウーマンは5杯くらい飲んだが、顔が赤くなることはなかった。まあ、茶色いんだが。
おれも2杯ほど飲んだ。冷静さを保つには酒が一番だった。
「いろいろ聞きたいことはあるけど、なんでおれ?」
ウマウーマンは黒い目でギロリとおれを眺めた。
「厳選なる選抜の結果だ。ランダム抽出されたIDチップをすべて分析したところ、お前がちょうどよかった」
「何、ちょうどいいって」
「それよりもこの世界の『恋人』について、我々は調査をしなければならない……おいお前。恋人とは何をするんだ」
「えっと……」
おれは鼻の下をかいた。
「デートしたり、手を繋いだり……」
言ってて恥ずかしくなってくる。人生で一度もやったことないからな。
「なんだか判然としないな!」
「いやだから、もっと詳しいやつに頼めよそれなら」
「行くぞ」
ウマウーマンは立ち上がった。
「えっ、」
「デートするんだろ!」
外は真昼間だった。今日たまたま有休だったが、昼間から酒を飲んだ背徳感とアルコールの効果で気分は高揚していた。ヒンヒン鳴いている町の人を横目に、ウマウーマンとお台場にまた新しくできた観覧車にでものろうかという話になる。楽しい一日になりそうだ。
途中で会社の前を通った時、部長が馬車を引いているのをみた。
「乗るか?」
ウマウーマンに言われて、全力で首を振る。一気に酔いが覚めた。
観覧車に乗ると、遠い海の向こうまで見渡せる。太陽に煌めく海。ギリシア神話では太陽はヘーリオスの乗った馬車とされていると聞いたことがある。
そして、目の前にはウマウーマン。
「ねぇ、なんでウマウーマン達は恋人について知りたいの」
「それは、我々の種族の特性にも関わる機密事項だ」
「恋人の間には秘密ってないんだよ」
「……我々には雄というものが存在しない」
知らなかった。ウマウーマンって単細胞生殖だったんだ。
「単細胞生殖ではないが」
「頭の中読めるの」
「チップをジャックしているからな。そもそもお前の脳に直接アクセスして会話している……生殖は我々の繁栄に関わる神秘だ。人間の文化を吸収して、乗り越えるためにも、我々は恋を知らなければならない」
(種馬じゃなくてね)
頭のなかで考えてみたら、ウマウーマンは怒った。
「無礼者!」
「すみません」
ウマウーマンはしばらく無言になった。窓の外を眺める横顔が、怒っているようで、なんだかすまなくなってきた。
観覧車は頂上を越えていた。気まずさに何を話すか考えていると、ウマウーマンは手を出してきた。
「ほら、つなぐんだろ」
「えっ、うん……」
手をつないだ。温かい。そして、逞しいがすべすべの女の手だった。急にどきりとする。
「お前はなんで、恋人がいなかったんだ」
ウマウーマンに聞かれて、さらに冷や汗が出る。
「いやー、なんででしょうか……」
「ちょうどいい雄なのにな」
ウマウーマンが歯茎をむき出して微笑んだ。慣れてきたその顔から、表情が読み取れるようになっていた。優しい笑顔だ。
おれは考える。
「……多分、こういう風にされることを、望んでいたんだと思う」
ナイフを突きつけられて、付き合えと言われるくらいの、劇的な恋を。
「ありがとう。ウマウーマン」
ー終わりー
『ウマウーマン』 まれえ @maree_
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