第8話『三瀬一貫』外伝 一諾千金~手紙~

「世の中には理不尽な事、道理に合わない事、納得いかない事とか」

「嫌なことがいっぱいある」


「でもね、そんなことに負けちゃだめ」


「そして、そんなことをする側になってもだめ」

「そんな人間には必ず罰が下る」


「自分に無くても、子供や孫、その子とかに必ずそれなりの罰がある」


「だから次郎ちゃんも寛ちゃんも絶対にそんな人間にだけは・・ならないで!」


縁(ユカリ)ねぇちゃん、あんときは怖かったな~


意味はよくわかんなかったが?


曲がったことはするな!って事だろうと思った。


俺(次郎)と寛和(平)は孤児院で育った。



ねぇちゃんは俺たちの二つ年上でよく面倒を見てくれた。


喧嘩ばっかりして帰ってきては

傷の手当てを黙ってしてくれた。


必ず傷口に塩水を少しだけ吹き付けるから

それが何より一番痛かった。


そんなねぇちゃんも高校生になり恋に落ちた。


相手は隣町の土建屋の息子で真人さん。


真人さんはねぇちゃんと同じ高校の剣道部の主将で


一度、俺たちがチンピラたちに絡まれボコボコにされてた時

竹刀一本で10人近い相手を打ちのめしてくれた。


ま、最後は3人ともやられちまったが・・・。


正義感が強く将来は警察官になるんだと言ってた。


そんな男にねぇちゃんが惚れないわけはね~と

俺たちは半分諦めた、いや?完全にかな・・・。


そんな暮らしの中であの事件が起きた。


施設の土地を貸してくれている地主が

なかば強引に騙されたような形の地上げにあって

施設が閉鎖に追い込まれた。


まだ小さい子たちは、ばらばらに他の施設に引き取られていったが

俺たち二人とねぇちゃん。


それにもう一人いたな・・・。

俺たちの三つ下の女の子。

(たしか?マイコ?ねぇちゃんは舞衣子ちゃんって呼んでた。)

(少し左足が悪かったような・・・。)


四人は中1と高1の俺たちにねぇちゃんは高校3年。


中退させるのは申し訳ないからと地主が古い借家を手配してくれた。


そこに年老いた園長と5人でどうにか移り住むことができた。


しばらくしてその中1の女の子は

養女にしたい人が現れ引き取られた事を憶えてる。


ねぇちゃんがもうすぐ卒業するって時にあの事が起きた。


真人さんとねぇちゃんが駆け落ちした。


真人さんの親が反対してたのもあるが、

孤児院の地上げに真人さんの親が関わってた事を知って

真人さんは怒り狂って親に詰め寄ったそうだ。


家の中めちゃくちゃに壊しまくって

ねぇちゃんを連れて町を出ていった。


ねぇちゃん達は仕方なく疎遠になってた、

ねぇちゃんの九州の祖母の家にたどり着いたそうだ。


園長がねぇちゃんに祖母がいる事を教えたらしい。


そこで真人さんは建設会社で働き

やがてトンネル工事で命を落とすことになる。


真人さんが命を落とすきっかけになったのが

心三朗を刺した男の父親。

黒田総合建設の社長で黒田倖一だ。


心三朗と出会ったのはそれから15.6年後の事だ。


叔父貴の息子、茂貞が最近、つるんで遊んでる後輩ですと・・・。

俺に紹介した。


「名前は?」


「心三朗です!小林心三朗って言います」


俺は驚いたってもんじゃない。

こんなことがあるのか!


念のために聞いた。

「字はどう書くんだ?」


「心(こころ)に漢数字の三(さん)、ろうは朗読の朗で」

「おふくろが親父が、あ、もう死んでますが」

「あんま笑わない人だかって・・・。」

「ほがらかな方の朗にしたって言ってました」


間違いない。



真人さんの葬儀の時、縁ねぇちゃんの隣でちょこんと座ってた。


あん時の・・・。

ねぇちゃんの息子だ。


こんなことってあるのかよ!

俺は寛和にこの事を話した。

そしてあの手紙の事を思い出した。


俺たちは毎月ねぇちゃんにお金を送った。


駆け出しでたいした稼ぎは無かったが

最初の頃は5千円づつ出し合い毎月1万をねぇちゃんに送った(振込)


稼ぎが増えてからは少しづつ増やして送った。


そして・・・。


ねぇちゃんが亡くなる前に・・・。


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拝啓

鬼塚次郎様

平 寛和様


お二人におかれましては、益々のご健勝、ご活躍のこととお喜び申し上げます。


真人さんが亡くなった後、お二人が永きにわたりお心遣い、

ご援助いただきました事、誠にありがたく深くお礼申し上げます。


次郎ちゃん、寛ちゃん、本当にありがとう。


おかげをもちまして、

心三朗も来年の春にはどうにか高校を卒業し、社会人になります。


不器用で何かと手がかかった子ですが、

素直で心根の優しい子に育ったと親馬鹿ですが・・・。想えてなりません。


二人が毎月の様に送ってくれたお金はお返しします。

次郎ちゃんが葬儀の時に渡してくれた通帳にすべてそのままにしてあります。


次郎ちゃん、寛ちゃん、本当に立派になって

「お姉ちゃんは嬉しいです。」

本当に今までありがとう。もうこれ以上はいいからね。


それと、二人に、ひとつだけお願いがあります。

心三朗はこれから社会に出ていきます。

どこで、何をしながら生きていくのかは分かりません。

どこかで出会うようなことがあるかもしれません。


もしも、そうなったとしてもどうか、

一切の援助や手助けなどはしないでいただきたくお願いいたします。


自分で自分自身の考えで、自分の力で切り開いていって欲しいと・・・。

信じています。


次郎ちゃんや寛ちゃん、それに真人さんの様に・・・。

これからも、お身体に気を付けてお元気でお過ごしください。

                            かしこ

追伸、

黒田さんにお会いする機会があれば、

これ以上のお気遣いをおやめくださいとお伝えいただきたく、

かさねてお願いいたします。

                        小林 縁

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「寛和。やっぱすげえ女(ひと)だな」


「俺たちのねぇちゃんは・・・。」


「俺たちの”根っこ”はあの人から教えられた・・・。」


「あ~、俺たちの聖母マリアだからな」


「聖母って、母は怒るだろ?ねぇちゃん!女神だろ?そこは・・・。」


俺たちは泣き笑いが止まらなかった・・・。


「寛和、いい加減“缶ピー”やめろ♯」


「そんな両切りたばこ、葉っぱが口に入って吸いにくいだろ?」


「いいだろ、俺のためのたばこなんだし、

それに最近いいの見つけたんだ」



寛和はきれいな木目のパイプを取り出し


「これで吸えば、葉っぱも気にならね~よ」


上の方はそれでいいが、下の方にはよくねぇだろ?

そんなつえ~たばこは・・・。



外伝 一諾千金~手紙 終幕

次号、無職になった心三朗に前世の問題が・・・。

第8話 ~守護代置~

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